イスラム教の聖地として知られるサウジアラビアのメディナ。預言者ムハンマドのモスクを中心とした地域は、イスラム教徒にとって特別な意味を持つ聖域であり、非ムスリムは立ち入ることが禁止されています。しかし、実際にどのあたりまでなら近づくことが許されるのか、正確なラインが示されている文献はありませんでした。
インターネット上では、メディナの立ち入り制限に関する情報が錯綜しています。「非ムスリムは緑のゲートで囲われた区画以外ならどこにでも行ける」という情報から、「First Ring Road(第一環状道路)より内側は全域立ち入り禁止」という主張まで、様々な説が飛び交っています。中には、「First Ring Road内のホテルを予約しても、実際には泊まることができない」という不安を煽るような書き込みも見られます。
これらの情報の真偽を確かめるべく、筆者は実際にメディナを訪れ、自らの足で「非ムスリム立ち入り可能エリア」の境界線を探ることにしました。この記事では、その体験と発見を詳細にお伝えします。
現地検証:メディナの中心部へ
アルウラからメディナへ
私の旅は、サウジアラビア北西部の古代遺跡の街、アルウラ(ウラー)からスタート(アルウラからメディナへは夜行バスで移動しましたが、その詳細については以前の記事をご参照ください)
早朝、メディナ郊外のMount Uhud付近にあるバス停留所に到着しました。ここからタクシーに乗り、いよいよメディナの中心部を目指します。
First Ring Roadの内側へ
タクシーは躊躇することなくFirst Ring Road(正式名称:King Faisal Road)の内側へと進入しました。運転手に「非ムスリムでもこの中に入って大丈夫なんですか?」と尋ねると、「もちろん」という答えが返ってきました。この時点で、少なくともFirst Ring Road内が全面的に立ち入り禁止というわけではないことが分かりました。
預言者のモスク周辺へ
タクシーは預言者のモスク北側にあるClock Roundabout(時計塔のある円形交差点)付近で停車しました。ここからは歩いてモスクに向かうことにします。歩行者天国となった通りを南下すると、モスク周辺を囲む緑色のフェンスが見えてきました。
これが立ち入り区域を表す緑のゲートなのか?と思い、そこまでなら進んでも良いのかとどんどん直進します。
非ムスリム立ち入り禁止エリアの境界
歩みを進めていると、付近で警備をしていた警察官と目が合いました。念のため、勇気を出して質問してみることに。「この先に進んでも大丈夫ですか?」
ところが警察官からは「残念ながら、非ムスリムの方はこれ以上中に入ることはできませんよ」と丁重にお断りをされることに。ただし、その代わりゲートを超えなければ、周辺を散歩するのは問題ない、と聖域を表すゲートを指さしてくれました。
すんでのところで禁忌を犯すところだったので、ちょっとヒヤヒヤ。警察官の指示に従い、緑のゲートの手前から聖域内を眺めることにしました。
なお、モスク敷地内に見えた鮮やかな緑のフェンスは、実はモスク内の交通整理用のものだったことが分かりました。これは非ムスリムの立ち入り制限とは無関係だったのです。
モスク周辺の特徴
警察官の許可も得たことなので、モスク周辺を反時計回りに散歩することにしました。歩いてみると、非ムスリムにとっての「ボーダーライン」が明確になりました。やはり、基本的には緑のゲートが立入禁止区域のラインとして機能している様子。しかし、その境界線は単純な長方形ではなく、場所によって少し複雑な形状をしていることが分かりました。
注目すべきは、モスクの東側です。東側では、他の側面のようにモスクの敷地に沿って歩くことができません。代わりに、First Ring Road(King Faisal Road)に沿って大きく迂回する必要があります。この迂回路には現在開発中のエリアも含まれており、モスク複合施設のこの部分を大きく回り込む形になっています。
また東側には、モスクを望む展望エリア(スロープを登って、モスクを見下ろせるようなエリア)が設けられています。ここは非ムスリムも立ち入ることができますが、重要な制限があります。このエリアでカメラを取り出したところ、すぐに警察官に注意されました。どうやらこの場所では写真撮影が禁止されているようです。ただし、それ以外の場所では写真撮影は許可されていました。
墓地(Cemetery)エリア
モスクの聖域とは別に、もう一つ重要な立ち入り禁止区域があります。それはモスクに隣り合った東側の墓地(Cemetery)エリアです。現地の名称でAl Baqi Cemeteryとして知られるこの場所も、非ムスリムは立ち入ることができません。
つまり、メディナ中心部で非ムスリムが注意すべき立ち入り制限は、以下の点になります:
- 1. モスクを中心とした聖域への立ち入り禁止
- 2. Cemetery周辺区域への立ち入り禁止
- 3. モスク東側の展望エリアでの写真撮影禁止
道路工事による一時的な制限
さらに、訪問時期によっては一時的な立ち入り制限がある場合もあります。例えば、Abu Ayyub Al-Ansari道路では、Cemetery南部を中心に大規模な道路工事が行われていることがあります。工事中は一般の人々が立ち入れない場合があるので注意が必要です。
このような状況に遭遇した場合、First Ring Road(King Faisal Road)まで外側に膨らんで迂回する必要があります。工事の状況は日々変化する可能性があるので、現地での案内や指示に従うことが重要です。
First Ring Road内のホテルに宿泊
ちなみに現地調査を終えた後、First Ring Road内にある「Pullman Zamzam Madinah」というホテルにチェックイン。特に問題も発生せず。インターネット上の一部の情報とは異なり、非ムスリムでもこのエリアのホテルに問題なく宿泊できることが確認できました。
まとめ:メディナにおける非ムスリムの立ち入り制限
今回の現地調査と追加情報を踏まえ、メディナにおける非ムスリムの立ち入り制限について、以下のことが明らかになりました:
- 1. 主な立ち入り禁止区域は、預言者のモスクの敷地内とAl Baqi Cemetery(墓地)エリアです。
- 2. モスクの東側は特殊な形状をしており、First Ring Road(King Faisal Road)に沿って大きく迂回する必要があります。
- 3. First Ring Road内のほとんどの場所には、非ムスリムも自由にアクセスできます。
- 4. モスク周辺には明確な境界線(緑色のゲート)が設けられており、それを越えなければ散策も可能です。
- 5. モスク東側の展望エリアでは写真撮影が禁止されているので注意が必要です。
- 6. Abu Ayyub Al-Ansari道路周辺では道路工事が行われていることがあり、一時的に立ち入りが制限される場合があります。
- 7. First Ring Road内のホテルにも、非ムスリムは問題なく宿泊できます。
結論として、メディナにおける非ムスリムの立ち入り禁止区域は、一部のインターネット情報で言われているほど広くはありませんが、場所によっては複雑な形状をしています。また、工事などの一時的な要因で通行できない区域が発生する可能性もあります。不安な点がある場合は、現地の警察官や係員に確認するのが最も確実な方法です。彼らは概して親切で、適切な指示をしてくれるはずです。
最後に、メディナの状況は時間とともに変化する可能性があります。特に大規模な開発や改修工事が行われている地域では、アクセス可能な場所が変わる可能性があります。そのため、訪問前に最新の情報を確認し、現地では常に周囲の状況に注意を払うことをお勧めします。
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