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エチオピアのコーヒーは本当に美味しいのか?現地で飲み比べて検証してみた【珈琲豆原産地旅】

エチオピア産」——日本のカフェやコーヒーショップで、プレミアムな豆の産地としてよく目にする表示である。スペシャルティコーヒーの代表格として知られ、その香り高い味わいはコーヒー通をうならせている。

そんなエチオピアのコーヒーを、現地で飲むと一層格別な味わいなのでは?そんな素朴な疑問を抱いて、私はエチオピアへと向かった。このブログでは、首都アディスアベバから地方都市まで、様々な場所でコーヒーを飲み比べた体験をお伝えする。結論から言うと、その味わいは意外なものだった...。

エチオピアとコーヒーの深い縁

古い歴史書をめくるように、エチオピアのコーヒーの物語は遥か昔にさかのぼる。カルディという名の羊飼いの少年が、ある日、自分の山羊たちが見慣れない赤い実を食べた後、普段以上に活発に跳ね回っているのに気づいた。好奇心に導かれた少年もその実(コーヒーチェリー)を試してみると、不思議な活力が湧き上がってきた——。

この逸話は、コーヒーの発見にまつわる最も有名な言い伝えの一つだ。以来、エチオピアの人々の生活に深く根付いてきたコーヒーは、今や国の誇るべき輸出品となり、世界中のコーヒー愛好家を魅了し続けている。

街中に溢れるコーヒーの香り

エチオピアの街を歩いていて最初に感じる驚きは、コーヒーショップの圧倒的な存在感だ。日本でいうコンビニエンスストアどころではない。まるで街全体がコーヒーの香りに包まれているかのように、至る所でコーヒーを提供する場所に出会う。

モダンな内装で観光客を惹きつける都会的なカフェから、路上に即席で広げられた伝統的なコーヒースタンド、地域の人々が集う庶民的な喫茶店まで、その形態は実に多様だ。特に印象的だったのは、地方の小さな空港でさえ、コーヒーを楽しむ場所があったことだ。

ディレ・ダワの地方空港にて

近所の人が自前の器具を持ち寄り、即席でコーヒースタンドを開いている光景は、まるで昔から変わることのない日常の一コマのよう。コンビニすら見当たらない場所なのに、コーヒーを飲む場所だけは確保されている。それほどまでに、コーヒーはこの国の人々の生活に密着しているのだ。

様々なスタイルのコーヒーを飲み比べる

アディスアベバの庶民的カフェにて

首都アディスアベバの喧騒の中、地元の人々で賑わう小さなカフェに足を踏み入れた。注文したブラックコーヒーは、想像以上に濃い色合い。まるでイタリアのエスプレッソを思わせる漆黒の液体が、小さなカップの中で静かに佇んでいる。

一口飲むと、予想をはるかに超える苦みが口の中に広がった。日本で飲むエチオピアコーヒーの、あの繊細な味わいはどこへ行ったのだろう。飲み終わった後のカップを覗き込むと、底にはクレイ状の細かい粒子が沈殿していた。これが伝統的なスタイルなのだろうか。

地方都市Ziwayのレストランで

次に訪れたのは、首都から車で数時間、地方都市Ziwayのレストラン。ここでも同じように濃い色合いのコーヒーが供された。やはり底には見慣れない粒子の沈殿。味わいは強烈な苦みが特徴的で、コクやアロマを探る余裕すら与えてくれない。

親切な店員さんが「ミントの葉を入れると美味しいよ」と教えてくれた。言われるがままに試してみたが、確かに爽やかな香りは加わったものの、根本的な苦みの印象は変わらない。これは目覚めの一杯としては確かに効果的かもしれないが、ゆっくりと味わうには少々衝撃的な味わいだった。

Hararでの伝統的なコーヒーセレモニー

カルディ少年の逸話で知られるHararの地は、正しくコーヒー豆発祥の地。一般家庭に招かれ、伝統的なコーヒーセレモニーに参加できる幸運に恵まれた。室内には香ばしい薫りが充満し、チャット(カート)の葉やポップコーンが添えられた伝統的なもてなしの中、ゆったりとした時間が流れる。

ハラルの一般家庭でのコーヒーセレモニー。セレモニーの流れについては過去に別記事で紹介しているので、そちらを参照していただきたい。

焙煎したての豆を臼で挽く音、湯気の立ち上る香り、すべてが五感を刺激する儀式的な雰囲気に包まれていく。淹れたてのコーヒーは確かに香り高く、フレッシュな印象だ。しかし、やはり苦みの強さは健在。ここで初めて気づいたのだが、エチオピアの伝統的なコーヒーの入れ方は、細かく挽いたコーヒー粉をそのままお湯で煮出すスタイルなのだ。

この発見は、これまでの疑問を一気に解き明かしてくれた。底に沈殿する粒子の正体も、強い苦みの由来も、すべてこの製法にあったのだ。

www.kosupatravel.com

アディスアベバのモダンカフェにて

都会的でモダンなアディスのカフェ

旅の終盤、アディスアベバの現代的なカフェに足を踏み入れる機会があった。洗練された内装、バリスタの丁寧な仕事ぶり、すべてが今までのコーヒーショップとは一線を画している。つまらない言い方をするならば、日本でもよく見るようなお洒落で都会的なスタイルのコーヒーショップだった。

しかしここで注文したエスプレッソは、それまでの体験を一変させるものだった。確かな苦みはあるものの、雑味がなく、アロマが鼻腔に心地よく広がる。まるでこれまで飲んできたエチオピアのコーヒーとは別物だった。

その後、現地で知り合ったおじさんの勧めで試したマキアートも、キャラメルの甘みとコーヒーのバランスが絶妙で、まさに現代的なコーヒーの真髄を感じさせる一杯だった。

結論:伝統と現代、異なる魅力の共存

この旅で最も印象的だった発見は、コーヒーの味を決定づけるのは、豆の産地以上に淹れ方だということだ。エチオピアは確かにコーヒーの原産地として誇るべき歴史を持つ。しかし、現代的なコーヒーの味わいを確立したのは、その後のアラブやヨーロッパの国々による革新的な製法だった。

但し、体験の良し悪しを味だけで語ることはできない。エチオピアの伝統的なコーヒーは、確かに現代人の味覚からすれば粗野で苦いかもしれない。しかし、その原始的とも言える製法には、コーヒー文化の原点としての揺るぎない価値がある。また、家庭でのコーヒーセレモニーには、儀式的な美しさと、人々の絆を深める社会的な意義が色濃く残されている。そして何より、この土地に根付いた伝統と、新しい時代の波が混ざり合う様子は、現代のエチオピアそのものを映し出しているようでユニークだった。

次にこの地を訪れる機会があれば、今度もあの強烈な苦みのコーヒーを楽しみたい。そして、現代的なカフェと伝統的なコーヒーハウス、両方の味わいを、より深い理解と共に味わってみたい。それは、きっとコーヒーという一杯の飲み物を通じて、文化の進化と伝統の共存を考える、貴重な機会となるはずだ。