前回は文昌楼でのチェックインと館内散策をお伝えしました。今回は、「四菜一汤」と呼ばれる、田螺坑土楼群の五つの土楼それぞれを巡る散策の様子をレポートします。金曜日の訪問だったこともあり、観光客は比較的少なく、ゆったりと見学することができました。
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文昌楼
まずは私が宿泊した文昌楼から。1966年に建設されたこの土楼は、土楼の中では比較的若手。田螺坑土楼群の中で最大規模を誇ります。なんといってもその特徴は世界的にも珍しい楕円形の形状。土楼群の南西、最も低い位置に建っており、その独特な姿は多くの写真家を魅了してきました。
楕円形という形状は、円形土楼の広さと方形土楼の実用性を兼ね備えているとも言われます。確かに中庭は広々としており、夕暮れ時には涼やかな風が通り抜けていきます。文昌楼の住民によると、この形状のおかげで台風の際も風の影響を受けにくいのだとか。
中庭のほぼ中央に位置する井戸を囲むように、食事用テーブルが、そしてその外側に住民たちのライフラインである台所シンクがぐるっと配置されています。一世代に一台のシンクが割り当てられているようで、住民たちはこのシンクを使って炊事や手洗濯、歯磨きや食器洗いを行います。井戸水はかつては唯一の上水機能だったようですが、現在はシンクまで水道が敷かれており、蛇口をひねれば水が出てくる模様。
部屋を案内してくれた黃(フアン)さんに、晩御飯の支度が終わるまで散歩に行ってきなよ、と勧めていただいたので、文昌楼の外に出て他の土楼も散策してみることにします。
振昌楼
文昌楼から緩やかな坂を上がると、コンパクトな円形土楼、振昌楼に到着します。1930年建造のこの土楼は、住民たちのライフラインに加えて、中庭に2軒の飯店(レストラン)を構えているのが特徴です。
現代的な設備を備えたこれらの店は観光客に人気で、客家料理を提供しているそうです。今回は文昌楼で夕食を予定していたため立ち寄りませんでしたが、地元の方いわく、椿油を使った伝統的な炒め物が絶品とのこと。
また中庭には近くの畑から採ってきたとみられるヤムイモがごろごろと転がっており、そのそばには冷蔵庫が鎮座。また朝方に訪ねると、中庭に備えられたシンクには昨晩作り置きしていたとみられる朝御飯が大胆に置いてあり、住民たちの生活感が会話見える状況に(ちょっと衛生的に心配ですが)。
ちなみに、5つの土楼にはすべて黃という名字を持つ一族が住んでいます(そのため、住民に話しかけるときに呼び分けがちょっと大変・・・)。同じ先祖を持つ彼らは今でも共通の名字を共有し、単なる共同住民としての関係を越えた深い絆を共有しているのだそう。
步云楼
さらに石段を上がると、田螺坑土楼群で唯一の方形土楼、步云楼(歩雲楼)が姿を現します。1796年建造のこの土楼は5つの土楼の中で最も古く、入口から見て奥側に立派な仏壇を備えているのが特徴的。
中庭には色とりどりの果物が山積みにされていますが、これは観光客向けの商品です。一見お供え物のような雰囲気すら漂います。その他にも、お土産屋やアートショップが並び、観光客向けの機能が充実している土楼になっていました。
実は夕暮れ時、縁あって茶店の店主さんの特別なはからいで3階まで案内していただく機会に恵まれました。山々に沈む夕日と、下に広がる土楼群の眺めは圧巻でした。店主さんとの交流については、別の機会に詳しくお伝えしたいと思います。
歩雲楼の外には、野菜や茶葉、当帰や桂皮などの薬膳が干してありました(かえって濃霧の湿気を吸っていそうだが)。大事な食品や商売道具がこうやって無防備に外に置いてあるあたり、治安の良さを感じますね。
瑞云楼
步云楼の隣には、1936年建造の瑞云楼が控えています。比較的小さな円形土楼ですが、現在も多くの住民が生活を営んでいます。
瑞云楼の中庭の中でこんこんと赤く光るのが、正面に置かれた大きな祠堂(祖廟)。これは仏様を祀る仏壇というよりも、むしろ土楼に住む一族の祖先を祀る場所なのだそうです。先述の通り、一つの土楼または土楼群には多くの場合、同じ姓を持つ一族が集まって暮らしており(田螺坑土楼群なら「黄」姓の方々)、土楼内の祠堂は彼らの大切な心の拠り所となっているとのこと。毎朝、住民たちが交代で線香をあげ、大切に守り継いでいる様子が印象的でした。
ところで土楼間を繋ぐ細道の途中、大きな共同井戸に出会いました。地元の方の話では、この井戸は土楼群の形成以前から存在する由緒あるもので、かつては周辺住民の重要な水源だったそうです。今でも生活用水として利用されており、土楼群のシンボル的存在となっています。
和昌楼
田螺坑土楼群の中で最も高台に位置するのが和昌楼です。歩雲楼と同年に建設されたこの土楼は、綺麗な円形の建物。今でこそ平和な観光地となっていますが、建設当時は海外から戻ってきた華僑の資金を狙った盗賊も多く、高台からの見張りは重要な役目だったとか。
土楼内に入ると、中庭には目を引く糯米酒店が。店の目の前には大きなバケツが何個も並び、この地域で収穫された糯米(もちごめ)を発酵させているところでした。バケツの中では、茶色がかったお酒のもとが甘い香りを漂わせながら、ゆっくりとお発酵をすすめていくところ。この伝統的な糯米酒の味わいについては、実際に飲んだ様子と共に、また別の機会にお伝えしたいと思います。
和昌楼の外に出ると、住民の靴と共にへちまが干してありました。日本でもかつてへちまはスポンジ代わりに使われていましたが、この地域でもへちまは食器洗い用スポンジとして重宝されています。
いかがでしたでしょうか?
今回は田螺坑土楼群を構成する5つの土楼の様子について紹介してきました。次回は、土楼の外の散策や文昌楼での夜の過ごし方、翌朝までの体験をお伝えします。住民たちとの思いがけない交流や、夜の土楼の様子など、まだまだ興味深い体験が続きます。
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