前回は、世界遺産・田螺坑土楼群の文昌楼にチェックインし、5つの土楼内の散策を楽しむ様子をお伝えしました。今夜は、住民の方に「展望台からの夜景がきれいですよ」と教えてもらい、思い切って夜の散策に出かけることにしました。
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土楼群の新旧が織りなす参道
文昌楼を出発し、展望台への上り坂を進んでいくと、街灯に照らされた比較的新しい建物がいくつか目に入ります。実は「四菜一汤」と称される5つの土楼以外にも、この一帯には宿泊施設や飲食店、糯米酒店などが点在しているのです。
特に目を引いたのは、モダンにリノベーションされた民宿の数々。古い建物を改装したというだけあって、土楼の趣は残しながらも、快適さを重視した造りになっているようです。今回私は敢えて土楼での暮らしを体験したかったので文昌楼に泊まることを選びましたが、世界遺産の雰囲気は味わいたいものの、古い環境での宿泊は少し不安という方には、これらの民宿も魅力的な選択肢となりそうです。
300段の試練
展望台までは東側の道を選びました。日中は観光客で賑わうこの道も、夜になると様変わり。街灯もない細い山道を、土楼からこぼれる温かな明かりと月明かりだけを頼りに進みます。
最初の50段ほどは意気揚々と上っていたものの、すぐに昼間の観光で酷使した足の疲れが蘇ってきました。竹林の中を抜ける石段は、月明かりも遮られて足元が見づらく、一歩一歩を慎重に確認しながらの山登り。ざわざわと揺れる竹の葉の音だけが、私の荒い息遣いに寄り添います。
100段を過ぎたあたりで一度石段に腰を下ろして休憩。振り返ると、土楼群が放つ優しい明かりが、まるで「もう少しだよ」と励ましてくれているよう。暑さで上着は既に手に持っていましたが、それでも額から流れる汗が止まりません。200段を過ぎたあたりから、もはや脚は棒のよう。しかし、ここまで来たら引き返すわけにもいきません。時折吹き抜ける夜風が心地よく、少しずつ標高を上げていく私の背中を押してくれました。
誰もいない展望台からの特等席
約10分の死闘の末、ようやく展望台に到着。昼間はチケットチェックが行われるこの場所も、夜は完全な無人状態です。観光客はとっくに帰り、この一帯には土楼の住民と宿泊客しかいません。300段の階段で奪われた息も、ここでの景色を目にした途端、すっかり吹き飛びました。
静寂に包まれた展望台からの眺めは、まさに圧巻です。「四菜一汤」と呼ばれる五つの土楼は、それぞれを照らす優しい光で輪郭を縁取られ、まるで天空の宮殿のよう。住民の生活の灯りが、悠久の時を経た建造物に温かな命を吹き込んでいます。
西側の畑道を行く帰り路
帰り道は少し冒険心が芽生え、行きとは異なる西側のルートを選択してみることに。暗闇に目が慣れた今なら大丈夫だろうと考えたのです。東側の竹林とは異なり、こちらは左右に畑が広がる開けた道。月明かり以外の光源はありませんが、土楼の明かりを目印に、ゆっくりと石段を下っていきます。
この畑は、実は翌朝早くに再び訪れてみると、せっせと農作業に励む地元の方々の姿が。ここで採れた野菜は土楼内で販売されたり、レストランの食材として使われたりします。
また、朝方にはこの西側の道から、田螺坑土楼群の南に位置する坑头の集落も望むことができました。世界遺産に登録された有名な土楼こそありませんが、小規模な円形土楼や方形土楼、五鳳楼が村の中にぽつぽつと点在する様子は何とも愛らしく、観光地化された田螺坑とは異なる、日常の暮らしの中で息づく土楼の姿を垣間見ることができました。
しかし、この時はまだそんな朝の光景を想像することもできず、ただ月明かりに照らされた畑の向こうで、土楼群が静かに佇んでいるだけ。夜風に揺れる作物の葉音を聞きながら、客家の人々が受け継いできた暮らしに思いを馳せずにはいられません。
ちなみに住民の方によると、土楼の消灯時間は23時30分とのこと。この幻想的な夜景にも、時間の制限があるようです。それを聞いて、慌てて文昌楼への帰路を急ぎました。ずきずきと痛む足も、この特別な夜景を見られた満足感で、なんとか耐えることができました。
いかがでしたでしょうか?
田螺坑土楼群は、5つの土楼以外にもここならではの魅力に溢れています。次回の記事では、文昌楼で衣食住事情と、翌朝までの体験をお伝えします。トイレやシャワーとの格闘や、住民との心温まる交流など、世界遺産での特別な一夜の様子をじっくりレポートしたいと思います。
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