私は2024年冬、久しぶりに中国を訪れ、福建省の厦門を起点に永定土楼群やコロンス島(鼓浪嶼)への旅を実施しました。その過程で、デジタル化が進んだ中国の交通システムと外国人旅行者としての自分との間に、予想以上の隔たりがあることを痛感することになりました。今回は、私が実際に体験した様々な困難と、その対処法について共有したいと思います。
急速にデジタル化された中国の交通システム
私が最後に中国の田舎を訪れたのは、コロナ禍が始まる直前の2019年末でした。その時と比べ、中国の公共交通機関は驚くべき進化を遂げていました。地下鉄や高速鉄道(高鉄)、フェリーなど、ほとんどの交通機関で電子決済とデジタル身分証明書による乗車が当たり前になっています。
現地の人々は、スマートフォンを片手にQRコードをかざすだけで、まるで空気のように改札を通過していきます。彼らにとって、紙の切符を購入するという行為は、もはや過去のものとなっているようでした。この光景を目の当たりにし、私は中国のデジタル化の速さに感銘を受けると同時に、これから始まる自分の旅に一抹の不安を覚えました。
高速鉄道利用時の苦労:厦門北駅での体験
その不安は、厦門北駅から南靖駅への移動を試みた際に現実のものとなりました。駅に到着すると、ほとんどの乗客は自動改札機にスマートフォンをかざし、あっという間にホームへと消えていきます。しかし、私たち外国人旅行者は、駅の端にある有人カウンターまで歩いていかなければなりませんでした。
カウンターには既に数人の外国人が並んでおり、一人一人パスポートを提示しながら切符を購入していました。手続きは決して複雑ではありませんでしたが、時間がかかります。特に、パスポートのデータを手入力する必要があるため、窓口での処理に予想以上の時間を要しました。
さらに困ったことに、切符を購入した後も、改札通過の際には毎回パスポートの提示が求められます。現地の人々がサッと通り過ぎていく横で、私は係員にパスポートと切符を見せ、確認を受ける必要がありました。この追加的な手続きにより、予定していた列車に乗り遅れ、次の便を待つはめになってしまいました。
フェリー乗船時の困難:コロンス島への渡航
コロンス島への渡航時には、さらに厄介な問題に直面しました。早朝のフェリーに乗ろうと厦門の埠頭に到着したものの、券売機は完全に中国の身分証明書所持者向けの仕様となっていました。画面には身分証明書の種類を選択する欄がありましたが、外国人旅行者向けのオプションは見当たりません。
不安になった私は近くのスタッフに相談しましたが、彼らも操作方法を色々と試してくれたものの、結局解決策は見つかりませんでした。最終的に「有人窓口が開くまで待つしかない」と告げられ、30分以上その場で待機することになりました。
この経験を通じて、私はコロナ禍以降、外国人観光客の激減により、システムの対応が後回しになっているのではないかと考えるようになりました。かつては国際観光都市として有名だった厦門でさえ、このような状況なのです。
オンライン予約システムの壁
「そもそも事前にオンラインで予約できないのか?」という疑問を持たれる方も多いかもしれません。実際、私も百度地図などの現地アプリを使って予約を試みました。しかし、個人情報の入力まで進んだところで必ずエラーが発生し、最後まで完了することができませんでした。
現地の友人に相談したところ、「中国の電話番号で登録していないからではないか」とのアドバイスをもらいました。しかし、それ以上に根本的な問題があるように思われます。中国のシステムは、セキュリティの観点から外国人の移動を追跡可能な形で管理する必要があり、そのためパスポート情報の登録が必須となっているのです。
この要件により、私たち外国人旅行者は必然的に有人カウンターでの購入を強いられることになります。これは単なる技術的な問題ではなく、より大きな制度的な課題なのかもしれません。
まとめ:不便を楽しむ心構えで
確かに、これらの体験は旅程に予期せぬ影響を与えることがあります。特に、時間に余裕がない場合は大きなストレスとなるでしょう。しかし、これも現代中国の特徴的な一面として捉えることができるのではないでしょうか。
今回の旅を通じて、私は「不便」を予め想定し、十分な時間的余裕を持って行動することの重要性を学びました。また、現地の人々の親切な対応にも助けられ、これらの困難も良い思い出として記憶に残っています。
デジタル化と管理が進む現代中国において、私たち外国人旅行者の「アナログな体験」は、この国の現在進行形の変化を映し出す鏡となっているのかもしれません。次回中国を訪れる際は、このような状況をあらかじめ想定し、より余裕を持った旅程を組みたいと思います。そして、これらの「不便」も含めて、現代中国を体験する貴重な機会として楽しんでいきたいと考えています。
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