前回の記事では、中国国内の交通機関利用時に外国人旅行者が直面する困難について共有しました。実は、移動手段の確保以外にも、観光スポットの入場券購入においても予想外の壁にぶつかることになりました。特に印象的だったのは、オンラインシステムを使用できない外国人旅行者がいかに不便な状況に置かれているかということです。今回は私が実際に体験した、観光地でのチケット購入における思いがけない困難についてお伝えしたいと思います。
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外国人にとって使用困難なデジタル門票
中国の観光地における入場券購入システムは、ここ数年で劇的な変化を遂げています。かつては現地で直接チケットを購入するのが一般的でしたが、現在では観光客のほとんどがスマートフォンのアプリを通じて事前に購入するようになっています。観光地の入り口には、従来の切符売り場に代わってQRコードを読み取るためのゲートが設置され、訪問者はスマートフォン一つで入場から施設内での支払いまでをスムーズに済ませることができます。
この変化は中国国内では極めて合理的なものである一方で、外国人旅行者にとっては思いがけない困難をもたらすことになりました。オンラインチケットの購入には中国の電話番号が必要不可欠で、多くの場合、外国の電話番号では購入手続きを完了することができないのです。また、従来のような有人窓口が減少し、場合によっては完全に廃止されているケースもあります。
福建土楼群での予期せぬトラブル
この問題に最初に直面したのは、福建土楼群への訪問時でした。南靖駅で出会った運転手の何超さんに一日チャーターをお願いし、田螺坑や雲水謡などの土楼群を巡る予定でした。伝統的な円形土楼の姿を思い浮かべながら、私たちは山道を進んでいきました。
車中で何さんから「入場券は購入済みですか?」と尋ねられた時、私は特に気にしていませんでした。事前調査で百度地図や携程旅行アプリでオンライン購入が可能だと分かっていたためです。また、最悪の場合でも現地で購入できるだろうと楽観的に考えていました。
ところが実際にアプリでの購入を試みると、一定の段階でエラーが発生して先に進めません。何さんによると、中国の電話番号での登録がないため購入できないとのこと。さらに驚いたことに、「今の中国ではほとんどの人がアプリで事前購入するため、現地での販売をしているかどうかも分からない」と言われ、せっかくここまで来たのに入場できない可能性が出てきました。
幸いにも、何さんの機転により福建土楼南靖景区旅客服務中心に立ち寄ることができ、そこで有人チケットカウンターを見つけることができました。チケットを購入できたものの、カウンターを利用していたのは私一人だけ。もし何さんと出会わなければ、土楼群を訪れることすらできなかったかもしれません。その想像だけで背筋が寒くなりました。
コロンス島での同様の困難
この問題は、厦門のコロンス島でも再び浮上しました。コロンス島は、かつて国際貿易の拠点として栄えた歴史を持ち、独特の建築様式や文化が残る観光地として知られています。島内には日光岩や鄭成功記念館、風琴博物館など、数々の見どころがありますが、これらの施設はすべてオンライン購入が前提となっていました。
朝のフェリーで島に渡り、まず向かった風琴博物館では、入り口で思いがけない光景に遭遇しました。博物館の入り口には立派なゲートが設置されていますが、従来の切符売り場はなく、代わりにQRコードを掲示した看板が立っているだけでした。そこで再度アプリでのチケット購入を試みましたが、やはり外国の電話番号では購入できません。
近くにいたスタッフの方に相談すると、彼も親切に様々な方法を試してくれましたが、結局解決策は見つかりませんでした。「申し訳ありませんが、外国人の方向けの購入方法は現在ないようです」という言葉に、私は大きな失望を感じました。
辛うじて日光岩には有人カウンターが設置されており、島一番の絶景を楽しむことはできました。ただし、ここでも窓口が開くまでしばらく待つ必要がありました。待合所で順番を待ちながら、かつてはこの島が国際的な観光地として多くの外国人観光客を迎え入れていたことを思うと、現在の状況は非常に皮肉に感じられました。
結局、その日予定していた施設の半数以上は入場を断念せざるを得ませんでした。オンラインでしかチケットが購入できず、有人窓口が設置されていない施設が多かったためです。これは単なる一観光客の不便という問題を超えて、観光地が直面している大きな課題を示しているように感じられました。
デジタル化と外国人観光客受け入れの狭間で
このような状況が生まれている背景には、中国のデジタル化の急速な進展があります。国内向けのシステムは日々便利になっていく一方で、まだ観光ビザの制限が残る外国人旅行者向けの対応は後回しになっているように感じられます。
中国の電話番号がない外国人旅行者は、オンラインチケットの購入システムから実質的に締め出されています。これは単なる技術的な問題ではなく、システム設計の段階で外国人旅行者に向けた対応が追い付いていないことを示唆しています。
また、従来の有人窓口が減少していることも、この問題をより深刻なものにしています。デジタル化が進めば進むほど、皮肉にも外国人旅行者にとっては不便が増えていくという逆説的な状況が生まれているのです。
現状での対応と今後の展望
これらの体験を通じて、現代の中国旅行では入念な事前準備が不可欠だと痛感しました。観光スポットごとにチケット購入方法を徹底的に調査し、現地の運転手やガイドと緊密に連携を取ることが重要です。また、余裕を持った行程を組み、有人カウンターの営業時間なども考慮に入れる必要があります。
とはいえ、これらの「不便」も、急速に変化する中国社会の一側面として捉えることができます。近い将来、外国人旅行者向けのシステムも整備されていくことでしょう。それまでは、こうした状況を理解した上で、柔軟に対応していく姿勢が大切だと感じています。
結局のところ、こうした「デジタルの壁」も、現代中国を体験する貴重な機会の一つなのかもしれません。次回中国を訪れる際は、今回の経験を活かしながら、より周到な準備と柔軟な心構えで旅に臨みたいと思います。