前回の記事では、「土楼王」の異名を持つ承啓楼のある高北土楼群をご紹介しました。今回は一泊二日の旅の締めくくりとして、「土楼王子」と呼ばれる振成楼(振成楼)がある洪坑土楼群(洪坑土楼群)への訪問をレポートします。個人的には整備の進んだ観光地よりも、住民しかいないようなディープな土楼群のほうが好きですが、せっかく「王」を訪ねたならば「王子」にも会うのが筋というものでしょう。
前回記事はこちらから
洪坑土楼群へ

高北土楼群から車で洪坑土楼群へと向かいます。何超さんから聞いた話では、ここは永定エリア、あるいは福建土楼全体で最もポピュラーな土楼群とのこと。バスターミナルが近くにあるため、周辺駅からのアクセスが比較的容易であることが理由の一つのようです。そのため観光客も多く、土楼群の中では特に整備が進んでいる印象を受けました。
高北土楼群からの移動時間は約15分ほどでしたが、車内では洪坑土楼群の歴史や見どころについて事前レクチャーを受けました。ここは種類が多く、円楼も方楼も、大きいのも小さいのも、古いのも新しいのも色々あるから楽しめるとのこと。
永定エリアのタバコ産業と洪坑土楼群
実は永定エリア、特に洪坑村は伝統的なタバコ加工の中心地で、今でも小さな工房で手作業によるタバコの葉の加工や煙草刀(タバコ用カッター)の製造が行われているそうです。道端では、タバコの葉を天日干しにしている光景も見かけました。

振成楼を建設した林氏一族は、まさにこのタバコ産業で財を成した一家でした。彼らの祖父林在亭と父林仁山は、清の同治4年(1865年)に条糸煙刀(タバコ用のカッター)工場を創業し、「日升」ブランドの煙刀を製造。これが中国と東南アジア各国の市場をほぼ独占し、多大な利益をもたらしたのです。

「永定エリアのタバコ職人たちの技術は代々受け継がれていて、今でも伝統的な手法でタバコを作っている」と何超さん。この辺りでは土楼の中にタバコ工房を構える家も少なくないそう。タバコ産業が盛んな理由は、この地域の気候と土壌がタバコの栽培に適していたことと、客家の人々が持つ商才が組み合わさった結果でしょうか。確かに、洪坑・高北土楼群周辺では、今でも多くのタバコ職人を見かけました。彼らの手さばきは熟練の技を感じさせ、何世代にもわたって受け継がれてきた伝統を今に伝えています。
洪坑土楼群の概要と歴史

洪坑土楼群は福建省竜岩市永定区湖坑鎮(龙岩市永定区湖坑镇)の東北面に位置する洪坑村にあります。宋末元初(13世紀)、林氏がこの地に移り住み、崇裕楼や南昌楼(いずれも現存せず)を建造したのが始まりとされています。
現在、洪坑土楼群は永定の「三群両楼」(三つの群と二つの楼)と呼ばれる主要な観光スポットの中でも親分的な立ち位置です。明代に建造された規模の大きな土楼として峰盛楼、永源楼など13座、清代に建造された福裕楼、奎聚楼、陽臨楼、中柱楼など33座が現存しています。その他にも生土で建てられた天后宮、日新学堂、林氏宗祠、関帝廟なども残されています。

2008年7月、洪坑土楼群を含む福建土楼は世界文化遺産に登録され、2009年11月には福建省第7次省級文物保護単位に指定されました。2016年9月には福建省で初めて国家「文物消防安全百項工程」に選ばれるなど、保護の取り組みも進められています。
洪坑土楼群の観光

高北土楼群景区ので購入した入場券片手に、いよいよ洪坑土楼群へ。入場ゲートをくぐると、そこはまさに生活空間と観光地が融合した独特の空間が広がっていました。ただ、村の中央を流れる川は茶色く濁っており、清流とは言えない感じ。

話によると、これは水質汚染というわけではなく、上流から流れてきた土が混ざっているだけだそうです。確かに生活排水というよりは、自然な土の色のように見えました。

通路では至る所で茶葉や酒粕などが干されており、日常生活の一コマを垣間見ることができます。ふと足元を見ると、石畳の隙間から小さな草が生え、湿った空気の中で独特の生命力を感じさせます。
全部見て回るには足早でも3時間はかかるとのことで、土楼王子を中心に効率良く回ることにしました。全部で46もの土楼があるそうで、全てを見て回るのは現実的ではありません。

入口付近には赤い伝統的な舞台のような建物が目に入ります。鮮やかな朱色の柱と装飾が施された立派な建物です。これは客家の伝統的な婚礼スタイルの舞台で、おそらく今日か明日、ここで結婚式が行われるのだろうと教えてもらいました。この地域では今でも伝統的な結婚式が行われており、花嫁が花婿の家に到着したときに、この舞台で歓迎の歌や踊りが披露されるそうです。

慶成楼と途中の風景

最初に立ち寄った慶成楼は、小ぢんまりとした方形の土楼です。その質素な外観からは想像できないほど、内部は精緻な木彫りの装飾が施されていました。内部は少し湿気を感じ、壁には苔が生えています。この湿気と苔が、不思議と古い土楼の雰囲気を一層引き立てているように感じました。

奥には「燕翼貽謀」と書かれた額が掛けられた祖先を祀る場所があります。この言葉には「子孫に良い計画を遺す」という意味が込められているそうです。
慶成楼を出て、さらに土楼群の奥へと進んでいきます。道沿いには地元の人々が営む小さな店が並び、中には糯米酒(もち米酒)を売る酒蔵も。大きなポリバケツのなかで琥珀色の酒がぶくぶくと泡を吹く様子は、まるで小さな博物館のようでした。客家の人々はこの糯米酒を愛飲し、特に冬場は体を温めるために欠かせない飲み物だとか。



歩いているうちに喉が渇いてきたタイミングで、サトウキビジュースを販売するお店を発見します。多くの観光客が列を作っている人気店のようです。何超さんに勧められ、試してみることにしました。

店の前には、専用のプレス機が置かれています。店主が素早い手つきでサトウキビの皮を剥き、機械に投入。ギシギシという音とともに、サトウキビが押しつぶされ、黄緑色の液体が流れ出てきます。それをそのままペットボトルに詰め、私たちに手渡してくれました。

作りたてだから格別だというこのジュース、一口飲んでみると、見た目はドロッとした濃厚な黄緑色ですが、味は意外とさっぱりしており、単なる砂糖水と侮ることなかれ、強烈な甘みと共に良い意味での青臭さがあり、疲れた体に染み渡る美味しさでした。

疲れたときにこれはいいですね、と感想を伝えると、夏の暑い時期は特に体力が消耗するから、現地の人はこれを飲んで元気を回復させるのだそうです。まさに知恵から生まれた自然のエナジードリンクといったところですね。
次回予告
次回は、タバコ産業で財を成した林氏一族が建てた「土楼王子」振成楼の詳細な内部構造や特徴、そして村の奥にある奎聚楼や如升楼についてご紹介します。
お知らせ:2026年版中国ビザ免除&トランジット特例ディスカッション用LINEオープンチャットの開設
2026年からビザなしでの中国旅行が原則不可能になるかも?と噂されている現在。この度、より有益で詳細な情報発信や、ビザ免除・トランジット特例に関してお困りの方々からの個別質疑応答を行えるよう、LINEオープンチャットを新設しました!今後の制度の動向が気になる方や、トランジット特例を活用しながら中国旅行を楽しみたいと計画中の方、その他ご質問・ご相談のある方はぜひご参加くださいませ!
ビザ免除制度・トランジット特例に関する関連記事: