イスラム共和国イラン——この国名を聞くと、多くの人は厳格な宗教的規律や厳しい掟のイメージを思い浮かべるでしょう。確かに、イスラム革命以降、イランは宗教国家としての顔を強く打ち出してきました。しかし、実際に足を踏み入れてみると、その印象は大きく覆されます。
現実のイランは、意外にも「ユルい」のです。もちろん世代や地域・シーンによって差はありますが、全体的にはインドネシアに匹敵するほどの柔軟な宗教観を持っていると言っても過言ではありません。今回は、そんな「想像と違った」イランの実態について、宗教的習慣からライフスタイルまで幅広く解説していきます。
シーア派の独自性:効率重視の祈り方
イランを理解する上で欠かせないのが、この国がイスラム教シーア派の総本山であるという事実です。多くのアラブ諸国で主流のスンナ派とは異なり、シーア派には独自の解釈や習慣があります。
その最たる例が、毎日の礼拝回数です。イスラム教では一般的に1日5回の礼拝が義務付けられていますが、イランのシーア派では実質的に3回で済ませていることが多いのです。これは単に怠けているわけではなく、「2回分の礼拝を1回にまとめる」という合理的な解釈によるものです。
彼らの説明によれば、礼拝をくっつけているわけではなく、あくまで礼拝と礼拝の間の間隔が短いだけで、5回分行っていることには本質的に変わりがないとのこと。何とも合理的で効率的な発想です。こうした「本質は守りつつも実用的に解釈する」という姿勢は、イランの宗教観を象徴しています。
ヒジャブ事情:規則と現実の乖離
以前の記事でも触れましたが、女性のヒジャブ着用に関しても、法律と現実の間には大きな乖離があります。テヘランなどの都市部では、ヒジャブを着用していない女性や、非常に緩やかに被っている女性、さらには帽子やニット帽で代用している女性も珍しくありません。
これは法律上厳密には違反ですが、特に若い世代を中心に、こうした「ユルさ」が社会的に黙認されるようになっています。インドネシアと同様、個人の判断に委ねられる部分が増えているのです。この変化は、特に2022年の「ヒジャブ革命」以降、より顕著になっています。
意外な食文化:表と裏の二面性
表向きには、イラン人の食生活もイスラム法に則っています。豚肉は禁止されており、公の場でのアルコール摂取も厳しく制限されています。イラン国内での飲酒やお酒の持ち込みは厳罰に処されるため、イランでお酒を飲むことは不可能だと広く信じられています。
しかし実際には、裏の顔も存在します。特に若者を中心に、こっそりとアルコールを楽しむ文化が根強く残っています。筆者も市街地を歩いていた際、地元の若者から「一緒に酒を飲まないか」と誘われ、コートの内側からスキットル(携帯用の小型の酒瓶)をちらりと見せられた経験があります。
驚くべきことに、アルコールだけでなく大麻などの軽度の薬物も、若者の間では密かに広まっています。これは単に「ユルい」というよりも、公式な規則と現実生活の間に生じた「二重基準」の表れと言えるでしょう。若者たちのこうした冒険的な行動は、厳格な規則への静かな反抗でもあります。
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男女関係:意外な開放性と独自のバランス
男女関係についても、イランは他の中東諸国と比べて意外なほど開放的です。サウジアラビアなどでは、知らない女性に話しかけるだけで問題になる可能性もあると言われていますが、イランでは見知らぬ男女が会話すること自体はごく普通の光景です。
さらに驚くべきことに、婚前交渉も広く行われています。筆者が目にした光景では、現地の若者が路上でイラン女性たちに下ネタ混じりでナンパをする姿も見られました。男女の恋愛は公然の秘密のような状態で、若い世代を中心に広く受け入れられています。
また、日本人観光客は現地の人々の興味を引くことも多く、イラン人女性が日本人男性に「一緒に写真を撮って」とお願いしてくることも珍しくありません。そういった行動も自然に受け入れられる雰囲気があります。
とはいえ、男女関係に関する一定のタブーや配慮は依然として存在します。例えば、ポルノの持ち込みは厳しく禁止されています。また、公共交通機関では、満員時には男女関係なく隣に座りますが、席が空いた場合には速やかに異性の隣を離れて別の席に移るのが一般的です。このように、一定の宗教的モラルは守られています。
まとめ:柔軟な宗教観が生む安全で魅力的な国
イランの「ユルさ」は、単なる規則の緩さではなく、厳格な法律と現実生活の間に生まれた独自のバランス感覚から来ています。外からは見えない部分で柔軟性を持ちながらも、公の場では一定の秩序を保つという二面性が、現代イランの特徴と言えるでしょう。
特筆すべきは、この「ユルさ」が旅行者にとっても魅力的な環境を作り出している点です。女性の一人旅でも比較的安心して行けるという評判は、イランの治安の良さと相まって、この国への好奇心を刺激します。
保守的なイメージとは裏腹に、イランの人々は親日的で開放的な面を持ち、外国人に対して好奇心と親切心を示してくれることが多いです。もちろん、旅行者としては現地の習慣やマナーに敬意を払うことが大切ですが、思っていたよりもずっと自由に、そして安心して楽しめる国、それが現代のイランなのです。
宗教的な厳格さと現実的な柔軟性のバランスを見事に取りながら、独自の文化を育んできたイラン。そのユニークな魅力を、ぜひ自分の目で確かめてみてはいかがでしょうか。
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