ペルシャの古都シーラーズ。バラの香りが漂うこの街は、イランを代表する詩人ハーフェズの故郷として知られていますが、実は「世界最古のかき氷」とも言われる伝統デザート「ファルーデ(Faloodeh)」の発祥の地でもあります。その歴史は冷蔵庫や冷凍庫が発明される遥か昔、紀元前500年頃まで遡るというから驚きです。今回は、炎天下のイラン旅行中に訪れたシーラーズで、2500年の歴史を持つファルーデを堪能した体験をお伝えします。
シーラーズでの冬の日
シーラーズを訪れたのは冬の時期でした。イランの冬とはいえ、日中は比較的暖かく過ごしやすい気候です。入国前にイランについて調べていた際、「世界最古のかき氷がある」という情報を見つけ、美食探求家として季節に関わらず絶対に食べてみたいと思っていました。
シーラーズの街を散策していると、カラフルなモザイクタイルで彩られたモスクや活気あるバザールが目に飛び込んできます。ピンクモスク(ナスィーロル・モルク・モスク)の近くを歩いていると、「اقامتگاه و کافه رستوران سلطنت بانو」(アカマトガ・ヴァ・カフェ・レストラン・サルタナット・バヌー)という店を見つけました。地元の人々で賑わうこの店が、これから私がファルーデを味わう場所になるとは、その時はまだ知りませんでした。
ファルーデの伝統と歴史
さて、シーラーズを訪れる前に調べたファルーデの歴史は、とても興味深いものでした。
ファルーデは約2500年前、アケメネス朝ペルシャ時代に生まれたデザートとされています。当時の人々は暑い夏でも冷たいものを食べたいと考え、特別な技術を開発しました。
その技術とは「ヤフチャル」と呼ばれる古代のイラン発の冷蔵施設。これは、カナートと呼ばれる地下水路と組み合わせ、気化熱の仕組みを応用しながら氷を作ったという乾燥気候ならではの古の叡智が凝縮された施設です。現代の冷凍技術がなかった時代に、このような工夫で製氷し、暑い夏に冷たいデザートを楽しんでいたとは、なんとも驚きです。
最初のファルーデは、保存された氷を削り、そこに米粉や小麦粉で作った細い麺状のものを混ぜ、バラ水やレモン汁で味付けしたものだったようです。これが今日まで続く伝統レシピの原型なのでしょう。
ピンクモスク近くの名店でファルーデを味わう
ピンクモスク近くにある「اقامتگاه و کافه رستوران سلطنت بانو」(サルタナット・バヌー)に入ると、伝統的な装飾が印象的な店内に迎えられました。冬とはいえ、お店には地元の人々が集まり、にぎやかな雰囲気に包まれています。メニューを見ると、ファルーデはシンプルなクラシックスタイルのものが注文できるとのこと。さっそく注文しました。
しばらくして、小さなガラスの器に盛られたファルーデが運ばれてきました。見た目は日本のかき氷とは全く異なり、半透明の氷の中に白い細い線が見えます。これが米粉で作られた麺状のものです。上からはサフランパウダーがかけられ、ライム汁も添えられています。シロップはおそらくバラ水を使用しているのでしょう、香り豊かな風味が漂ってきます。
最初に一口食べると、その食感の不思議さに驚きました。氷のシャリシャリ感と麺の弾力が同時に楽しめるのです。そして口に広がるのは想像以上の甘さ!ガツンと来る甘さに衝撃を受けました。フローラルなバラの香りがこの強烈な甘さを絶妙に引き立たせており、ライム汁を垂らすことでほんのりフレッシュに、バランス感のある味わいへと変化していきます。
もう一つ驚いたのは、ファルーデが中々溶けないという不思議な特性です。あまりの甘さに、お茶を注文してゆっくりと味わっていたのですが、普通のかき氷なら形が崩れるはずの時間が経っても、しっかりと形が残っていたのです。おそらく、麺状の米粉が氷を保持する役割も果たしているのでしょう。
古代の知恵を味わう瞬間
ファルーデを食べながら考えると、とても感慨深いものがありました。今私が口にしているのは、2500年前のペルシャ人たちが考案し、世代を超えて受け継がれてきたレシピなのです。現代の冷凍技術がない時代に、どうやって冷たいデザートを作り出すか――そのために生み出された古代の知恵と技術の結晶を、今も同じ地で味わえるというのは、なんと素晴らしいことか。冬の時期に訪れたにもかかわらず、このデザートの魅力は全く色あせることはありませんでした。
現在のイランの家庭では、家庭用アイスクリームメーカーを使って作る人も多いそうですが、伝統的な店では今でも昔ながらの方法にこだわっているところもあるとのこと。
なお、ファルーデは必ずしもレストランや専門店でなくても、カフェなどでも注文できる場合があるようです。さらに、地元のスーパーマーケットではパック入りのものも売られていました。
その他、テヘランなどの街のカフェでは、伝統的なファルーデを、現代のスムージーやパルフェなどとフュージョンさせたクリエイティビティ溢れるメニューも展開されています。それだけ、イランの人々の日常に浸透している伝統的なデザートなのですね。
スイーツを通じて味わう製氷史
イラン旅行の中でも、シーラーズでのファルーデ体験は特に印象に残るものでした。料理は単なる食べ物ではなく、その土地の歴史や文化、人々の暮らしを映し出す鏡です。ファルーデを通して、古代ペルシャの人々の知恵と、厳しい環境の中でも豊かな食文化を育んできたイランの人々の創意工夫に触れることができました。
もし皆さんがイランを訪れる機会があれば、ぜひシーラーズに足を運び、世界最古のかき氷「ファルーデ」を味わってみてください。冬でも夏でも、この伝統的なデザートは楽しめるはずです。
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