ペルシア絨毯や古代遺跡、詩人ハーフェズの生誕地として知られるイラン。しかし、この国の都市部の交通手段については、あまり知られていません。実は主要都市には整備された地下鉄網が存在し、現地の人々の重要な足となっているだけでなく、旅行者にとっても非常に便利でコスト効率の高い移動手段となっています。今回は文化都市シーラーズの地下鉄を実際に利用した体験をもとに、イランの地下鉄事情とその魅力、そして利用する際の注意点をレポートします。
イランの地下鉄ネットワーク
イランには現在、テヘランをはじめとした都市部に地下鉄システムが整備されています。特に首都テヘランの地下鉄は7路線、総延長約240kmと中東地域では最大級の規模を誇ります。シーラーズは比較的新しい路線で、2014年に開業しました。これらの地下鉄は一見すると欧州の近代的な地下鉄とさほど変わらない印象を受けますが、実際に利用してみると、イラン独特の文化や習慣が反映された興味深い特徴があることがわかります。
いざ乗車
今回、シーラーズ国際空港から市内へ向かうため、空港から延びる地下鉄路線を利用することにしました。しかし、ここで大きな問題が発生。空港の両替所は営業時間外で閉まっていたため、一文無しの状態で駅に到着することになったのです。不安を抱えながら駅に向かうと、近代的な設備が整った駅舎が目に入りました。
イランの地下鉄はデビットカードタッチ決済システムを採用していますが、外国人旅行者は基本的に現地カードを発行できないため、窓口で現金を支払いプラスチックコイン状のトークンを購入するしか方法がありません。これも現金がなければ購入できないため、途方に暮れていました。
勇気を出して駅員さんに状況を説明すると、驚くべき対応が。「大丈夫、これを使ってZandiye駅まで行きなさい。そこには両替商がたくさんいるから」と言って、無料でトークンを発行してくれたのです。イスラム圏で大切にされている「メフマーン・ナヴァーズィー(客人をもてなす文化)」を肌で感じる瞬間でした。ホスピタリティの高さは、イランの人々の誇りでもあり、旅行者を温かく迎える姿勢は随所で感じられます。
イラン地下鉄の特徴と日本との違い
実際に乗車してみると、日本の地下鉄との違いがいくつか見えてきました。まず車両は比較的新しく、車内は驚くほど清潔です。広告や案内表示はペルシア語と英語の併記がほとんどで、外国人でも比較的わかりやすい設計になっています。
運行間隔は日本より長く、およそ10〜15分間隔。この点は日本の数分間隔の運行に慣れている身からすると、少し忍耐が必要です。特に急ぎの用事がある場合は、余裕を持った行動計画が欠かせません。ただし、日本のような極端な混雑はなく、ほとんどの時間帯で座席に座ることができるのは大きなメリットです。
駅構内や車内のアナウンスはペルシア語が基本ですが、英語のアナウンスも流れます。ただし、発音がかなり独特なので、慣れるまでは聞き取りづらいかもしれません。駅名の表示は電光掲示板で確認できるため、言葉がわからなくても目的地を見逃す心配はあまりありません。
イラン独特の地下鉄文化と乗車マナー
最も興味深かったのは、イラン独特の乗車マナーです。イスラム社会特有の男女の関係性が地下鉄内でも見られます。基本的に知らない男女が隣同士で座ることは避けるべきとされていますが、必ずしも厳格に守られているわけではありません。混雑時など席が空いていなければ仕方なく隣に座ることもあります。その場合、他の席が空いたら男女が隣接しないよう速やかに移動するという暗黙のルールがあるようです。
また、一部の車両は女性専用となっており、特に混雑時や一人旅の女性には安心できる空間となっています。ただし、これは強制ではなく、女性が通常の車両に乗ることも、家族連れの男性が女性専用車両に乗ることも許容されています。このようなフレキシブルな対応は、イランの都市部では伝統と近代化が共存している表れかもしれません。
また、車内では若者が音楽を聴いたりスマホを操作したりする光景も普通に見られ、日本と変わらない日常風景も多く見受けられました。
思わぬハプニング
Zandiye駅に到着し、無事に両替商を見つけることができました。ここで100ドルをイランリヤルに両替しましたが、想像を超える事態が発生。イランのインフレ率の高さから、わずか100ドルが巨大な札束になってしまったのです。
財布に入りきらない札束をポケットに入れた状態で、次の目的地であるVakil駅へ向かうため再び地下鉄へ。窓口でトークンを購入しようと、持っていた札束を取り出して「いくら必要ですか?」と尋ねたところ、窓口のスタッフは驚いた表情で「Noooo!」と声を上げました。どうやら公共の場で大金を無造作に取り出すのは、スリや強盗のターゲットになる可能性があり非常に危険だということ。
結局、わずか10万リヤル(日本円で約20円程度)でトークンを購入。これがいかに安いかというと、同じ距離をタクシーで移動すれば5倍程度の料金がかかると考えられます。コストパフォーマンスの高さは、イランの地下鉄の最大の魅力の一つです。
新設のVakil駅?
目的地のVakil駅について調べていた際、一部の地図アプリや古い路線図にはこの駅の記載がないことに気づきました。駅に到着してみると比較的新しい設備が整っており、おそらく最近になって新設された駅なのではないかと推測されます。このように発展途上の交通インフラは、情報が更新されていないこともあるため、最新の情報を現地で確認することが重要です。
Vakil駅の周辺はシーラーズの歴史的中心部に位置し、有名なバザールやモスクへのアクセスも良好です。地下鉄を利用することで、観光スポット間の移動が非常に効率的になりました。特に夏の暑い時期には、地下鉄の冷房が効いた車内は貴重な避暑地となり、体力の消耗を抑えることができます。
結論:意外な発見、イランの地下鉄は旅行者の強い味方
イランの地下鉄は、イメージとは異なり、非常に整備され、清潔で、何より経済的な移動手段です。イスラム社会特有の習慣や文化に触れながらも、現代的な交通システムを利用できるという、イランならではの二面性を体験できる場でもあります。
都市部での移動手段として、タクシーやバスだけでなく、ぜひ地下鉄も選択肢に入れてみてください。わずか数十円で市内を移動できる上、渋滞に巻き込まれる心配もなく、エアコンが効いた快適な環境で移動できます。特に夏の暑さが厳しいイランでは、地下鉄の快適さは非常に貴重です。
イランという国の意外な一面を発見できる、格安ハイテク交通機関の地下鉄。文化交流の観点からも、観光の効率化の観点からも、ぜひ挑戦してみる価値があります。一見すると不安に思えるかもしれませんが、一度利用すれば、その利便性と経済性に驚くことでしょう。
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