朝陽が地中海の港町バルセロナを染める頃、街角には甘い香りと湯気が立ち上がる。この街で70年以上愛され続けているチュロス屋さん「La Selecta de Churros(ラ・セレクタ・デ・チュロス)」、旧名「Xurerria Sagrada Familia(チュレリア・サグラダ・ファミリア)」を訪れ、バルセロナ人の朝食文化の真髄を体験してきたので、レポートしたい。
サグラダ・ファミリア近くの隠れた名店
街の喧騒から少し外れた静かな路地に佇むこの店は、一見すると見過ごしてしまいそうな小さな佇まいだ。しかし、店内に足を踏み入れた瞬間、壁に掛けられた古い写真や年季の入った設備から、この店が刻んできた歴史の重みを感じることができる。
「最高のチュロスをバルセロナで」と謳うこの店は、1950年の創業以来、同じレシピで手作りのチュロスを提供し続けている。カタルーニャ語の「Xurerria」は「チュロス屋」という意味で、サグラダ・ファミリアとの深い繋がりを店名に刻んでいる。
伝統の朝食スタイルを体験
バルセロナの典型的な朝食スタイルを体験するため、定番中の定番「チュロス・コン・チョコラーテ」を注文した。濃厚なホットチョコレートと共に提供されるクラシックなチュロスは、この街の朝の代名詞だ。
カウンターの向こうで職人が手際よくチュロスを作る様子を眺めていると、その技術の高さに驚かされる。生地を絞り袋から熱い油に流し込む動作は、まさに芸術的だ。油の温度、揚げ時間、すべてが長年の経験によって計算し尽くされている。
揚げたてのチュロスが目の前に運ばれてくると、まず香りに圧倒される。外側はカリッと黄金色に揚がり、中はふんわりと柔らかい。一口かじると、軽やかな食感と共に、ほのかな甘みが口の中に広がる。
濃厚なホットチョコレートの魔法
バルセロナのチュロス体験で欠かせないのが、濃厚なホットチョコレートだ。「チョコラーテ・コン・クレマ(クリーム入りホットチョコレート)」は、まるでプディングのように濃厚で、スプーンで混ぜると重みを感じるほどだ。
このホットチョコレートこそが、バルセロナのチュロス文化の真髄だ。単なるココアドリンクではなく、チュロスのための特別な相棒として作られている。チュロスを浸しながら食べると、甘さと塩気のバランスが絶妙に調和し、朝の幸福感が全身を包み込む。
進化し続ける伝統の味
La Selecta de Churrosでは、伝統を守りながらも、現代的なアレンジを加えたメニューも提供している。チョコレートでコーティングされたチュロスや、ダークチョコレート・ホワイトチョコレートが中に詰まったチュロスなど、チョコレート好きには堪らない逸品が揃う。
中でも注目を集めるのは塩味のチュロスの存在だ。「チュリゾ・イベリコ・チュロ」や「フランクフルト・チュロ」など、まるでホットドッグのような感覚で楽しめる創作チュロスは、朝食として十分な満足感を提供してくれるはずだ。
地元民に愛される理由
店内を見渡すと、観光客だけでなく、地元の常連客も多く見受けられる。サグラダ・ファミリアがすぐ目の前という立地ながらも、地元の若者がスマホをいじりながらドリンクを飲んだり、年配のカタルーニャ人夫婦が新聞を読みながらゆっくりとチュロスを楽しんでいる光景は、まさにバルセロナの日常そのものだ。
この店の魅力は単なる味の良さを超えている。それは、バルセロナの文化、歴史、そして人々の生活に根差した体験価値であるとも言えるだろう。
手作りへのこだわり
このお店では、創業から70年以上経った今も、すべてのチュロスが手作りで提供されている。注文を受けてから作り始めるため、常に温かく新鮮なチュロスを味わうことができる。このこだわりこそが、デリバリーサービスまで提供する現代においても、多くの人々を店舗に足を運ばせる理由だろう。
おわりに
バルセロナを訪れた際、有名な観光地を巡ることも大切だが、地元の人々が愛する小さな店で過ごす朝の時間は、きっと特別な思い出となるはずだ。La Selecta de Churrosでのチュロス体験は、バルセロナという都市の魂に触れる、かけがえのない体験だった。
次回バルセロナを訪れる機会があれば、ぜひ朝早くこの店を訪れて、地元民に愛され続ける本物のチュロス文化を体験していただきたい。濃厚なホットチョコレートと共に味わうチュロスが、きっとあなたのバルセロナ滞在を特別なものにしてくれるはずだ。
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