前回の記事では、感動的な御来光体験についてお伝えしました。地平線から昇る太陽の光が砂漠の山々を黄金色に染める瞬間は、まさに神々しいものでした。今回は御来光後の山頂での発見と、下山中に出会った絶景ポイントについて詳しくレポートします。
山頂を貸し切り状態に
御来光が上がって間もなく、おそらく10分ほどでしょうか、山頂にいた20〜30人の観光客は全員が一斉に下山を始めました。まるで示し合わせたかのような行動に、正直驚きました。せっかく数時間かけて登ってきたのに、メインイベントが終わった瞬間に帰ってしまうなんて、あまりにももったいない!
ツアーの時間制約があったのでしょうか?それとも朝の寒さに耐えきれなくなったのでしょうか?いずれにせよ、これから朝日を浴びながら山頂で過ごす時間こそが登山の醍醐味なのに、と感じました。結果として、以降は我々だけとなり、シナイ山を完全に貸し切り状態で楽しむことができました。
山頂の見どころを探索
せっかくなので、観光客が去った静寂な山頂で、じっくりと周辺の見どころを探索することにしました。シナイ山の聖なる頂上は、モーセが神から律法を受けた場所として、数々の聖跡が点在しています。
ここには礼拝堂があり、その周囲にはより大きなユスティニアヌス皇帝時代のバシリカの遺跡が残されています。また、モスクもあります。
標高2,285メートルに位置するこの場所からは、2000m以上の高度に位置するため、地平線のあたりには紅海を挟んで対岸、サウジアラビアの陸地が見えるのだそうです。マフムドさんが指差して教えてくれたのですが、確かに遠くかすかに陸地のような影が見えました。ここが中東の地理的要衝であることを実感する瞬間でした。エジプトとサウジアラビアという二つの国を一望できる場所に立っているという事実に、改めて感動を覚えました。
礼拝堂の神秘的な内部
山頂にある現在の聖三位一体礼拝堂は、古い建造物の材料を使用して1935年に建てられたものです。これは元々4世紀の礼拝堂があった場所で、6世紀の三廊式バシリカの東端を形成していた部分に建てられています。
我々が訪問した際には礼拝堂は施錠されていましたが、マフムドさんが「実は鍵穴から中の様子を覗くことができるよ」と教えてくれました。恐る恐る鍵穴から中を覗いてみると、小ぢんまりとしながらも厳かで神秘的な空間が広がっていました。壁面の宗教画や聖像が薄暗い光の中で浮かび上がり、この聖なる場所の持つ霊的な力を感じることができました。
正教会の聖職者や巡礼者によって神聖な典礼が頻繁に行われているとのことで、もし開いている時間帯に訪れることができれば、より深い宗教的体験ができたでしょう。
モーセの洞窟:現地ガイドの説明と後の発見
マフムドさんは山頂のモスクの下にある洞窟を指差して、「これがモーセの洞窟だ」と教えてくれました。確かに古代の碑文らしき文字(と最近付け加えられたであろう落書き)で覆われた神秘的な洞窟でした。しかし、後で詳しく調べてみると、実際のモーセの洞窟は礼拝堂の南北にある2つの洞窟だったのだそうです。
正式なモーセの洞窟は、1つ目が現在の礼拝堂の南側にあり、モーセが40日40夜断食をした際の滞在場所とされています2つ目は礼拝堂の北側にある岩の裂け目で、神がモーセを隠し、そこから神の栄光を見た場所とされています。出エジプト記33章22節の「わたしの栄光が通り過ぎるとき、わたしはあなたを岩の裂け目に入れ、わたしが通り過ぎるまで、手であなたを覆う」という聖書の記述の舞台なのだとか。
いずれも、洞窟の中に入ることはできないので、柵の外から覗く形での見学となります。
山頂のトイレ事情
ところで、山頂にはトイレがありますが、これが想像を絶する代物でした。トイレとは言えないトイレ、いや、元トイレとでも言うべきでしょうか。トイレとして示される場所には簡易的な小屋があるものの、便器がなく、便器があるべき場所にはぽっかり穴が開いており、下には崖を望みます。
おそらく元々便器があったものの、途中で壊れて落下し、今はただの穴になってしまっているのでしょうか。そんなデンジャラスなトイレでゆっくり用を足したい人などいないのか、トイレに間に合わなかったのか、トイレ周辺には沢山の人糞が落ちていました。おお、先人たちよ...
山頂での長時間滞在を予定している方は、事前の準備を強くお勧めします。
山頂のカフェ・売店事情
山頂と少し下がったところにあるカフェ兼売店は、登山客にとって貴重な憩いの場となっています。登山客の多くはここで毛布を借りている様子でした。帰りにせっかくなので少し下がったところの方のカフェを利用してみました。
コーヒーを注文すると、カルダモン入りのアラビックコーヒーが出てきました。山頂で少し体が冷えてきていたので、スパイシーで温かいコーヒーが体に染みわたります。標高2000m超えの山頂で飲むアラビックコーヒーは、また格別な味わいでした。
また頂上ではお土産の色とりどりの石を売っていますが、マフムドさんによると、これらの多くはシナイ山で採れたものではなく、シナイ半島の他の場所やエジプトの他地域から運ばれてきたものだそうです。観光地あるあるですね。
下山路で見える絶景とエリヤの洞窟
山頂で1時間ほど過ごした後、下山を開始。階段道は封鎖されているため、再びラクダ道を通ります。往路は暗闇だったため景色が見えませんでしたが、復路は明るいので茶色い岩山の連なりがはっきりと見えました。日本での登山経験豊富な同行者たちも「日本ではこんな岩山はない」「まるで異世界の景色」と感嘆していました。
極度の乾燥地域ゆえか、草木ひとつない荒涼とした風景が続きます。出エジプト後のイスラエル人達が、こんな地を彷徨うくらいならエジプトで奴隷生活してる方がマシだった、とモーセに愚痴を溢していた訳がわかります。
途中でマフムドさんが「Elijah's Basin(エリヤの盆地)が見えるよ」と教えてくれました。シナイ山頂下の自然の盆地には二重の礼拝堂があります。最初の礼拝堂は預言者エリシャに、第二の礼拝堂は預言者エリヤに捧げられています。
後者の礼拝堂は、旧約聖書列王記上19章9-18節に記録された聖なる預言者への神の啓示があった洞窟の場所に建てられています。「大風が山を裂き、岩を砕いたが、主は風の中におられなかった。風の後に地震があったが、主は地震の中におられなかった。地震の後に火があったが、主は火の中におられなかった。火の後に静かな細い声があった」という有名な場面の舞台です。
ふもとへの帰路
ふもとが近づくと、ラクダの姿が見えてきました。エジプトでは動物の写真を撮るとチップを要求されることが多いので、飼い主の留守を見計らって撮影するのがコツです。ロバと一緒にバクシーシ(チップ)を求める子供たちもいて、観光地らしい光景が戻ってきました。
8時半頃に聖カタリナ修道院前まで無事下山完了。下山時間は約1時間半でした。我々より30分早く下山を始めた観光客にも追いついており、山頂でゆっくり過ごした時間も含めて、より充実した登山体験ができたと感じています。
まとめ
シナイ山の山頂は、御来光だけでなく数多くの宗教的・歴史的見どころに溢れています。多くの観光客が見逃してしまう礼拝堂の内部や、洞窟、遺跡などを時間をかけて探索することで、この聖なる山の真の価値を理解することができるはずです。
次回は、世界遺産にも登録されている聖カタリナ修道院の周辺と内部を詳しく散策していきます。1400年以上の歴史を持つ世界最古の修道院には、どんな秘密と宝物が隠されているのでしょうか?続編をお楽しみに!
本記事は、登山YouTubeチャンネル「Sweet Climber」さんとの共同取材で作成しています。現地の様子をより詳しく知りたい方は、下記動画を合わせてご覧ください。
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