前回の記事では、シナイ山山頂での御来光体験と、観光客が去った後の静寂な山頂探索についてお伝えしました。そして午前8時半、ついに聖カタリナ修道院前まで無事下山完了。標高2000m超えの聖なる山から下りてきた私たちを出迎えてくれたのは、1400年以上の歴史を持つ世界遺産の修道院でした。今回は、この神秘的な修道院の散策レポートをお届けします。
聖カタリナ修道院:世界最古の現役修道院
聖カタリナ修道院は、正式には「神が歩まれたシナイ山の聖なる修道院」と呼ばれ、現在も機能している世界最古のキリスト教修道院の一つです。ホレブ山(シナイ山)の麓に位置し、モーセが燃える柴を通して神と出会った場所とされています。
この修道院の起源は4世紀に遡ります。当時、シナイの隠修士たちが燃える柴の聖地周辺に小さな共同体を形成していました。そして6世紀(527-565年)、東ローマ皇帝ユスティニアヌス1世の命により、この聖地を保護するための要塞化された修道院が建設されたとのこと。その後、イスラム勢力の拡大、十字軍の時代、オスマン帝国の支配、そして現代に至るまで、様々な政治的変動を乗り越え、現在も正教会の修道士たちが暮らし、祈りと労働の日々を送っています。
修道院を俯瞰しよう:絶好の展望ポイント
下山後、まず私たちが向かったのは修道院を俯瞰できる高台でした。修道院の横には小高い丘のような場所があり、そこに登ると修道院全体を見渡すことができます。朝の柔らかい光に照らされた修道院の全貌は、まさに圧巻の一言でした。
6世紀に皇帝ユスティニアヌスの命によって建設された要塞の城壁が、修道院全体を囲んでいます。城壁の高さは10〜20メートル、厚さは2〜3メートルもあり、敵対勢力から修道士たちを守る役割を果たしてきました。現代の建築に慣れた目には、この古代の建造物の堅牢さと美しさが際立って見えます。
高台からは、修道院内部の複雑な構造がよく分かります。中央にそびえるカトリコン(主聖堂)を中心に、複数の礼拝堂と鐘楼、モスクが取り囲まれている様子を一望。
外観をしっかり観察したら、いよいよ中に入っていきます。
修道院内部の見どころ
ユスティニアヌス要塞
修道院を囲む要塞の城壁は、6世紀に皇帝ユスティニアヌスの命によって建設されました。この城壁は、この地域を通過する敵対勢力から修道士たちを保護し、燃える柴の場所に建てられた教会を守る役割を果たしました。
興味深いことに、修道院の北壁は1798年に大きな損傷を受け、ナポレオン・ボナパルト時代のフランス兵によって修復されたという歴史があります。現在でもその修復跡を見ることができ、歴史の重層性を感じさせます。
聖なる柴
そして、この修道院最大の見どころが聖なる柴です。モーセが神の啓示を授かった時に目の前に現れた「燃える柴」です。
出エジプト記3章に記された「柴は火に点いているのに、柴は燃え尽きなかった」という奇跡の場所です。現在見ることができる柴は、もちろん3000年以上前のものではありませんが、同じ場所で代々植え継がれてきた子孫だとされています。
余談ですが、多くの人が「柴」を「芝生」の「芝」と勘違いしていますが、これは木や低木を指す「柴」です。実際に見ると、確かに低木状の植物で、芝生とは全く異なります。聖書の原文では「セネ」という棘のある低木を指しており、これが聖地の名前「シナイ」の語源になったという説もあるとか。
礼拝堂
礼拝堂内部は撮影禁止となっていましたが、金や銀で装飾された美しいイコンが壁面を飾る神秘的な空間でした。薄暗い光の中で浮かび上がる宗教画や聖像は、この聖なる場所の持つ霊的な力を物語っています。
なお、絵画や展示品などには、一切説明はついていません。そのため、誰の肖像なのか分らないものも多数でした。敬虔なクリスチャンたちは、当然のように予備知識を持っているのかもしれないですね。
モーセの井戸
修道院内には、モーセがイテロの7人の娘と出会った井戸が今日まで保存されています(出エジプト記2:15-22)。この水は現在でもポンプによって共同体で使用されています。
興味深いことに、井戸の近くには蛇口があり、ひねると水が出てくるようになっています。特に詳しい説明はありませんでしたが、おそらく井戸水を汲み上げたものなのでしょう。4000年近く前の聖書の物語の舞台が、今なお実用的に使われているという事実に深い感動を覚えました。実際に手を濡らしてみると、冷たく澄んだ水で、砂漠のオアシスの貴重さを実感できました。
モスク
モスクは修道院内部、カトリコンの西に位置しています。この構造は11世紀に改築されましたが、元々は6世紀から修道院の食堂として使用されていました。
残念ながら、この日はモスクは閉まっており内部を見学することはできませんでしたが、モスクの入り口で興味深いものを発見。この2枚の石板は、モーセがシナイ山にて神から賜ったとされる、十戒の記された石板(のレプリカ)ではなかろうか?
石板はかなり重量感があり、並みの人間ではとても抱えて山を上り下りできないレベル。モーセがいかに怪力だったか、物語っています。
周辺エリア
要塞の城壁に隣接するエリアには修道院の庭園があり、今日でも修道士の糧となる果物や野菜を栽培しています。この乾燥した厳しい気候でこれほど広大な庭園を維持することは、修道士たちの献身と労働の証です。地下から汲み上げられた水は貯水槽に蓄えられ、そこから樹木や植物に配水されています。
西側の要塞外には修道院庭園、墓地、納骨堂、その他の支援施設があります。ここからシナイ山頂、聖カタリナ山頂、そして聖ガラクテオンと聖エピステメの隠修所へと続く巡礼路が始まります。この地域には数多くの礼拝堂、庭園、隠修所も点在しています。
ゲストハウスも併設
修道院には巡礼者用の宿泊施設も併設されています。ここを拠点に深夜登山をするツアーも多いのだそうです。修道院に宿泊できれば、体力を温存できるほか、朝の礼拝に参加したり、より深い宗教的体験ができるかもしれませんね。
建物は質素ながらも清潔で、砂漠の厳しい環境にありながら巡礼者を温かく迎える配慮が感じられました。長い歴史の中で、世界各地からの巡礼者をもてなしてきた伝統が今も続いています。
無事全て終了
こうして、シナイ山登山と聖カタリナ修道院散策の全行程が無事終了しました。ガイド料金は当初800エジプトポンドと聞いていましたが、マフムドさんの素晴らしいガイドに感謝を込めて、チップも含めて1600エジプトポンド(約4800円)を支払いました。
拘束時間約6時間、シナイ山登頂からモーセの洞窟探索、礼拝堂見学、そして修道院の詳細な案内まで考えると、三人で4800円というのはすごくコストパフォーマンスが良いのではないでしょうか?コスパという観点でも、やはり個人で行くのは正解でした。
まとめ
聖カタリナ修道院は、単なる観光地ではなく、1400年以上にわたって続く生きた信仰の場でした。特に燃える柴と聖なる礼拝堂では、モーセが神と出会った奇跡の瞬間を追体験することができ、言葉では表現できない感動をもたらしてくれました。
現在も機能している世界最古の修道院という事実が、この場所の特別さを物語っています。1400年間途切れることなく続けられてきた祈りと労働の伝統、イスラム勢力の拡大や政治的変動を乗り越えて守られてきた聖地の価値を、実際に足を運ぶことで深く理解することができます。
シナイ山登頂と合わせて、この地を訪れることで、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教という3つの一神教の源流に触れることができます。現代の忙しい生活の中で忘れがちな、精神的な豊かさと静寂を求める人々にとって、シナイは今もなお特別な意味を持つ聖地なのです。皆さんもぜひ、この神秘的な地を訪れてみてください。
追記:聖カタリナ修道院が旅行客受け入れを停止?!
その後、エジプト国内での政治的問題により、聖カタリナ修道院が旅行客の受け入れをストップしました。そのため、渡航タイミングによっては、修道院の見学やシナイ山登山が通常通り行えない可能性があります。詳しくは、下記記事を合わせてご覧ください。
本記事は、登山YouTubeチャンネル「Sweet Climber」さんとの共同取材で作成しています。現地の様子をより詳しく知りたい方は、下記動画を合わせてご覧ください。
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