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エジプト最古のモスクで命がけのミナレット登頂!イブン・トゥールーン・モスク完全攻略ガイド

カイロの空港に降り立った瞬間から、この街は容赦なく旅行者を圧倒してくる。タクシー運転手の客引き、クラクションが鳴り響く大通り、そして立ち込める排気ガスと砂埃。多くの観光客はギザのピラミッドとエジプト考古学博物館を見て「カイロ制覇!」と満足して帰っていく。しかし、それでは本当のカイロを知ったとは言えない。

本物のカイロ体験をしたいなら、イスラミックカイロの迷路のような路地の奥に隠れているイブン・トゥールーン・モスクを訪れるべきだ。879年に完成したこのモスクは、エジプト最古でありながら観光客の姿はまばら。そして何より、高さ40メートルのミナレットに登って、カイロの街を一望できる貴重な場所なのだ。

イブン・トゥールーン・モスクという場所

イスラミックカイロの喧騒から少し奥まった場所に、イブン・トゥールーン・モスクは静かに佇んでいる。879年に完成したこのモスクは、単にエジプト最古というだけではない。世界遺産「カイロ歴史地区(イスラミックカイロ)」を構成する重要な建造物であり、イスラム建築史上でも極めて重要な位置を占めている。

建設を命じたのは、トゥールーン朝の創始者アフマド・イブン・トゥールーン。彼が青年時代を過ごしたイラクのサーマッラーで見た建築様式をエジプトに持ち込んだため、この国では珍しい焼きレンガ造りとなっている。エジプトといえば石造建築が主流だが、この赤茶色のレンガが作り出す温かみのある外観は、異国情緒を醸し出している。

最大の特徴は、ミナレットの外側に螺旋階段が巻き付いているユニークな構造だ。通常のミナレットは塔の内部に階段があるのだが、ここでは外付け。まるで巨大なドリルのような形状で、一目でそれとわかる。この螺旋ミナレットは、サーマッラーの大モスクを模したもので、エジプトでは他に類を見ない貴重な建築様式となっている。

約6.5ヘクタールという広大な敷地には、中央の大きな中庭を囲むように回廊が配置されている。この回廊を支える柱は、古代エジプトやローマ時代の建造物から転用されたものも多く、よく見ると一本一本が微妙に異なっている。歴史の積み重ねが、そのまま建築に現れているのだ。

トゥクトゥクでイスラミックカイロへ

午前中のカイロは、既に太陽が容赦なく照りつけていた。イスラミックカイロは地下鉄の駅から相当な距離があり、歩いて向かうのは現実的ではない。タクシーやUberという選択肢もあったが、これらは渋滞の激しい市街地では身動きが取れず、さらに外国人観光客とみるや平気でぼったくってくる。そこで利用したのがトゥクトゥクだった。

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三輪のトゥクトゥクは、カイロの交通渋滞を縫うように軽快に走り抜けていく。エアコンなど当然なく、排気ガスと砂埃にまみれながらの移動だが、これがまた現地の空気を肌で感じられて悪くない。

トゥクトゥクが停まったのは、古い建物が密集するエリアの一角だった。車の騒音と人々の喧騒に満ちた大通りから一歩路地に入ると、まるで時代が巻き戻ったかのような静寂に包まれる。石畳の路地を歩いていると、遠くからアザーンの美しい音色が聞こえてきた。それが、これから訪れるモスクからのものだったのかもしれない。

いざモスクへ入場

モスクの入り口は思っていたより質素で、観光地化された派手さは一切ない。厚い石造りの壁に囲まれた要塞のような外観が、長い歴史の重みを物語っている。入り口には初老の男性が座っており、彼がこのモスクの管理人のようだった。

まず直面したのが靴の問題だ。モスク内は土足厳禁のため、靴にビニール袋を取り付ける必要がある。管理人のおじさんは片言の英語で「シューズ、バッグ」と言いながら、ビニール袋を差し出してくれた。

ミナレットに登りたい」と伝えると、おじさんの目が輝いた。と身振り手振りで説明しながら、料金は数十エジプトポンド程度だっただろうか。おじさんは「ファースト、モスク。ゼン、ミナレット」と簡単に順路を教えてくれた。つまり、まずモスク内部を見学し、その後ミナレットに登る必要があるということらしい。「フリー、フリー」と手を振りながら、自由に見て回っていいよという合図だった。

灼熱の中庭と回廊の涼しさ

モスクの内部に足を踏み入れた瞬間、その規模の大きさに圧倒された。中央には巨大な中庭が広がり、それを囲むように石の柱が立ち並ぶ回廊が配置されている。中庭は想像していた以上に広く、端から端まで歩くだけでも相当な距離がある。

そして、この中庭の暑さが尋常ではなかった。真昼間ということもあって、石畳からの照り返しと直射日光で、まるでオーブンの中にいるような感覚だ。帽子とサングラスを持参していて本当に良かった。日焼け止めを塗っていたにも関わらず、数分歩いただけで肌がじりじりと焼けるのを感じた。真夏にここを訪れる際は、相当な覚悟が必要だろう。

一方で、周囲の回廊部分は別世界だった。石の柱が作り出す日陰は驚くほど涼しく、エジプトの厳しい気候に対応した古代建築の知恵を実感できる。柱頭の装飾や石材の質感が一本一本微妙に異なっており、まさに歴史の博物館のようだ。

建築や装飾の細部に目を凝らせば、より深い魅力を味わうことができる

観光客の姿は決して多くなく、時折欧米の団体を見かけはするものの、他には地元の人が数人、柱にもたれて読書をしていたり、絨毯の上で休憩していたりする程度。最古のモスクと言う割には、意外と観光地としての知名度は高くない。この静寂さが、1000年以上前にタイムスリップしたような不思議な感覚を与えてくれる。商業的な観光地では絶対に味わえない、本物の歴史空間がここにはあった。

いよいよミナレット登頂開始

モスク内を一通り見学した後、おじさんに教えてもらった通りミナレットに向かった。遠くからも、外側に巻き付く危険な螺旋階段が見えていたが、実際に目の前にすると、想像していた以上に急で狭い階段だった。最初の数段は余裕だったが、高度が上がるにつれて、この階段の恐ろしさが徐々に明らかになってきた。手すりはあるものの、身を乗り出したら確実に落下してしまうような構造。高所恐怖症の人なら、間違いなく途中でリタイアするレベルだ。

階段の幅は大人一人がやっと通れる程度で、途中で誰かとすれ違う場合は相当な注意が必要だ。幸い、この時間帯は他に登る人はおらず、自分のペースで登ることができた。エジプトの強烈な日差しの中、外付けの螺旋階段をぐるぐると登り続けるのは、予想以上に体力を消耗する作業だった。

登り始めてほどなく、階段の途中に分岐があることに気づいた。その分岐の先が気になりつつも、とりあえずミナレット頂上を目指すことにして、分岐は帰りに立ち寄ることにした。

ミナレットの頂上へ

登り始めてから約5分、あっという間にミナレットの最上部に到達した。そこには、息を呑むような360度のパノラマビューが待っていた。高さ40メートルから見下ろすカイロの街並みは、まさに絶景という言葉がぴったりだった。

眼下には黄土色一色に染まったイスラミックカイロが広がっている。無数のミナレットが林立する様子は、まさに「千のミナレットの街」と呼ばれるカイロの真骨頂だ。遠くには現代カイロの高層ビル群も確認できた。

遠くに目をやれば、ダウンタウン・カイロのビル群が

頂上は意外にも涼しく、強い風が吹き抜けていく。灼熱の中庭とのギャップに驚きながら、しばらくこの絶景に見とれていた。しかし、風の強さと高度の恐怖で、長時間の滞在は精神的にきつい。足がすくみそうになりながらも、この景色を目に焼き付けておこうと必死にシャッターを切った。

恐怖の下り道

頂上での絶景に満足した後、今度は下りが待っている。登りよりも下りの方が怖いのは、山登りの常識だが、この螺旋階段でも同じことが言えた。下を見ながら一段一段降りていくのは、想像以上に恐怖心を煽る。

さらに、下りのの途中で登ってくる人とすれ違うことになった。階段の幅は大人一人分しかないため、お互いに壁側に身を寄せて、ゆっくりと譲り合いながら進む必要がある。この瞬間が最も危険で、バランスを崩したら一巻の終わりだ。

幸い、相手も同じように緊張していたため、お互いに十分注意しながらすれ違うことができた。こうした体験も含めて、このミナレット登頂は単なる観光ではなく、ちょっとしたアドベンチャーなのだと実感した。

隠れた絶景スポット:モスクの屋上

帰り道には、先ほどの分岐を進んでみた。そうすると、モスクの屋上に出ることが判明。そこには想像を遥かに超える光景が広がっていた。屋上は驚くほど広大で、モスク全体の構造を俯瞰することができる。中央の中庭を取り囲む回廊の配置、そして無数の石柱が作り出す幾何学的な美しさが、上から見ることで初めて理解できた。

モスク屋上から眺める中庭

しかし、この屋上の日差しと照り返しは想像を絶するレベルだった。石造りの床は太陽熱で熱せられ、足の裏に火傷しそうなほどの熱さ。サングラスをかけていても、白い石の照り返しで目を開けているのが辛いほどだ。滞在時間は短時間に留めざるを得なかったが、それでも貴重な体験だった。

まとめ

約1時間のモスク滞在を終えて外に出ると、カイロの喧騒が別世界のように感じられた。イブン・トゥールーン・モスクで過ごした時間は、単なる観光ではなく、1000年以上の歴史との対話だった。

このモスクの最大の魅力は、極端に観光地化されていない本物の歴史空間で、冒険的な体験ができることだ。ミナレット登頂では命がけの螺旋階段を登り、絶景を堪能し、隠れた屋上スポットまで楽しめる。

879年の建設以来、ウマイヤ朝アッバース朝ファーティマ朝アイユーブ朝マムルーク朝オスマン朝と、様々な王朝の興亡を見続けてきた石柱たちは、まさに生きた歴史の証人だ。現代のカイロは排気ガスとクラクションに満ちた慌ただしい大都市だが、このモスクの静寂な空間では、建設当初から変わらない祈りの時間が今も流れている。ピラミッドや博物館では決して味わえない、カイロの真の魂がここにはある。

ピラミッドやスフィンクスとは全く違った角度からエジプトの魅力を感じたいなら、このモスクを訪れない手はない。トゥクトゥクに揺られながら向かう道中から、ミナレット頂上での絶景まで、すべてが忘れられない思い出になるはずだ。カイロには、まだまだ知られざる宝物が眠っている。イブン・トゥールーン・モスクは、その代表格と言えるだろう。

本記事は、登山YouTubeチャンネル「Sweet Climber」さんとの共同取材で作成しています。現地の様子をより詳しく知りたい方は、下記動画を合わせてご覧ください。

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