中東情勢が緊迫化し、ドーハやドバイ経由の航空便が大混乱に陥る中、意外な国から前向きなニュースが飛び込んできました。長年にわたり内戦が続くイエメンが、6月24日に電子ビザシステム(E-Visa)を正式に開始したのです。
「イエメン?今そんな状況じゃないでしょう」と思われる方も多いでしょう。確かにイエメンは2014年以降、フーシ派と政府軍の内戦により、外務省が「レベル4:退避してください」を発出している危険地域です。日本人旅行者にとっては縁遠い国と感じられるかもしれません。
しかし、だからこそこのニュースは注目に値します。戦争という最悪の状況下でも、国の未来を見据えたデジタル化推進の取り組みが行われているのです。そして実は、この動きは将来的に日本人旅行者にとっても無関係ではない可能性があります。
電子ビザシステムの中身
イエメン政府の入国管理・旅券・帰化庁は、暫定首都アデンで新しい電子ビザシステムを正式に稼働開始しました。このシステムは国際移住機関(IOM)がアメリカの資金援助を受けて実施したプロジェクトの一環で、公式プラットフォーム「yemenevisa.org」を通じて申請が可能となります(偽サイトが多いので要注意)。
従来は在外イエメン領事館での複雑な手続きが必要でしたが、オンラインでの事前申請により手続き時間の大幅短縮が期待されています。
注目すべきは、この プロジェクトの機材輸送において、サウジアラビア主導の「イエメン正統性支援連合」が便宜を図ったことです。これは、内戦で対立してきた地域諸国の関係改善を示唆する重要な動きと言えます。
なぜ今電子ビザなのか
この取り組みは一見すると不思議に映ります。内戦が続く国で、なぜ観光客向けの電子ビザシステムを導入するのでしょうか。しかし、これには深い戦略的意図があります。
イエメン政府は、いずれ訪れる内戦終結後の経済復興を見据えています。電子ビザシステムの導入は、国際投資家や援助関係者、ジャーナリストなどの入国を円滑化し、復興プロセスを加速させる狙いがあります。また、デジタル化されたビザシステムは、イエメン政府が近代的な行政サービスを提供できる能力があることを国際社会に示すシンボルでもあります。
皮肉なことに、復興期にある国の方が、既存のシステムにとらわれずに新しい技術を導入しやすいという側面があります。日本でも、震災後の東北地方で最新のIT技術を活用した復興が進んだように、イエメンでも同様の現象が起きているのかもしれません。
日本人旅行者への影響
現実的に言うと、現在のイエメンへの一般的な観光旅行はまだまだ不可能です。外務省が最高レベルの危険情報を発出しており、商用航空便も極めて限定的です。在イエメン日本大使館も2015年から閉館が続いています。
しかし、この状況が永続的に続くわけではありません。歴史を振り返ると、かつて渡航が困難だった国々が平和を取り戻し、魅力的な観光地として復活した例は数多くあります。ベトナム、カンボジア、ミャンマー(現在は再び困難な状況ですが)など、日本人にとって人気の観光地の多くが、かつては渡航困難な地域でした。
イエメンも同様のポテンシャルを秘めています。首都サナアの旧市街は世界遺産に登録されており、その美しい建築は「天空の城」とも称されまるほど。また、ソコトラ島の独特な生態系や美しい海岸線は、一部の冒険好きな旅行者の間では「地球最後の秘境」として知られています。
内戦が終結し治安が改善されれば、イエメンは日本人にとっても非常に魅力的な観光地となる可能性があります。電子ビザシステムは、その時のための重要な基盤となるでしょう。特に、手続きの簡素化は日本人旅行者にとって大きなメリットです。従来のアラブ諸国へのビザ取得は複雑で時間がかかることが多いため、オンラインで簡単に申請できるシステムは画期的と言えます。
中東旅行への示唆
このイエメンの動きは、現在の中東旅行事情にも興味深い示唆を与えています。カタールやUAEなど他の中東諸国が航空便の制限を余儀なくされている中で、イエメンが積極的にビザ制度を改革していることは対照的です。
中東地域全体が不安定な今、日本人旅行者の多くは中東経由便の利用を控えているでしょう。しかし、このような地道な取り組みが積み重なることで、地域全体の安定化と観光復活につながる可能性があります。
また、イエメンの行政機能正常化は、中東地域全体の安定化に寄与する可能性があります。特に、紅海の海上交通路の安全確保において、イエメンの役割は重要です。現在フーシ派による船舶攻撃が問題となっており、これが中東経由便の運航にも間接的に影響を与えていましたが、政府側の統治能力向上は、この問題の解決につながる可能性があります。
まとめ − 希望の光として
中東情勢が混迷を深める中、イエメンの電子ビザシステム開始は小さいながらも希望の光と言えます。戦争で荒廃した国が、未来に向けて着実に歩みを進めていることを示しているからです。
日本人旅行者にとって、現在のイエメンは決して安全な渡航先ではありません。しかし、このような地道な取り組みが積み重なることで、いずれは平和で魅力的な観光地として復活する日が来るかもしれません。その時まで、私たちは温かく見守り、適切な時期が来たら新しい発見に満ちた旅を楽しめるよう、心の準備をしておくことが大切なのかもしれません。
中東地域全体が不安定な今だからこそ、こうした前向きな動きは我々旅行マニアにとって励ましになりますね。イエメンの電子ビザシステムは、地域の未来に向けた小さいけれど確実な一歩であり、日本人旅行者にとっても将来的な可能性を秘めた重要な動きとなることでしょう。
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