中東情勢が混沌を極める中、中東方面へ旅行する方や、中東経由でヨーロッパなどへ旅行する方を中心に「うちの旅行保険って戦争とかテロの場合はどうなるんだろう?」と急に不安になった方も多いのではないでしょうか。
実は、この疑問は非常に的を射ています。なぜなら、ほとんどの海外旅行保険では「戦争・内乱」による損害は補償対象外(免責事項)とされているからです。つまり、突然現地で戦争関連トラブルに巻き込まれても、基本的には保険金は降りないということになります。
これを知り「え、それってヤバくない?」「戦争リスクにも対応できる保険ってないの?」と思った方はきっと多いはず。そんな疑問にお答えするため、今回は海外旅行保険の「戦争免責」の実態と、それに対応できる数少ない保険商品について詳しく解説します。
そもそも「戦争免責」って何?
海外旅行保険の約款を読むと、必ずと言っていいほど「保険金をお支払いできない場合」として以下のような文言が記載されています:
「戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱その他これらに類似の事変または暴動による損害」
これが「戦争免責」と呼ばれる条項です。ただし、ここで重要なのは「テロ行為は例外として補償される」ということです。
実は、日本の大手損保各社(東京海上日動、三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保など)では、すべての海外旅行保険に「戦争危険等免責に関する一部修正特約」が自動セットされており、テロ行為によるケガは補償対象となっています。
テロと戦争の違い
保険会社では、テロ行為を以下のように定義しています:
「政治的、社会的、宗教的もしくは思想的な主義もしくは主張を有する個人や団体等が、その主義や主張に関して行う暴力的行動」
つまり、個人や小規模な組織による暴力的行為(テロ)は補償されるが、国家レベルの軍事行動(戦争)は補償されないということです。パリの同時多発テロ、ロンドンのテロ事件、バリ島爆弾テロなどは保険の対象となりますが、現在の中東で起きているような国家間の軍事衝突は対象外となります。
現在の中東情勢:戦争?テロ?境界線が曖昧
ここで問題となるのが、現在の中東情勢です。アメリカによるイラン核施設攻撃やイランの報復攻撃は「戦争」に該当するため、基本的には免責対象となります。しかし、例えば仮にオマーンで突発的に過激派による商船攻撃が発生した場合や、突発的にドーハやドバイの地下鉄で爆破行為が行われた場合などは、テロとして扱われる可能性もあります。
この境界線は非常に曖昧で、実際の保険金支払いの際には個別の事案ごとに判断されることになります。旅行者としては「テロなら大丈夫」と安心せず、情勢が不安定な地域では十分な注意が必要です。
外務省の危険情報との関係
さらに問題を複雑にしているのが、外務省の海外安全情報との関係です。外務省が「レベル3(渡航中止勧告)」または「レベル4(退避勧告)」を発出している地域については、そもそも保険契約の引受自体が制限されている場合があります。
現在のイエメン、シリア、アフガニスタンなどは「レベル4」、イスラエルやエジプトの一部は「レベル3」が発出されており、これらの地域への渡航では基本的に海外旅行保険に加入することができません。
でも、戦争リスクに対応できる保険もある
「じゃあ、危険な地域に行く場合は諦めるしかないの?」と思われるかもしれませんが、実は例外があります。AIG損保では「条件付戦争危険補償特約」という特別なオプションを提供しており、一定の条件下で戦争・内乱リスクにも対応しています。
AIG損保の「条件付戦争危険補償特約」とは
この特約には「特約A」と「特約B」の2種類があり、それぞれ補償範囲が異なります。
特約Aでカバーされるもの:
- 傷害死亡保険金
- 傷害後遺障害保険金
特約Bではさらに追加される補償:
- 傷害治療費用
- 疾病治療費用
- 救援者費用
- 疾病死亡保険金
特約Bの方が補償範囲は広いですが、当然ながら保険料も高くなります。一般的な海外旅行保険の保険料に対して、50-100%程度の追加保険料が必要になることもあります。
なお、これらのオプションはウェブサイト上の保険料見積もりからは加えることができないため、別途問い合わせを行った上で契約をする必要があります。
実際に保険金は降りるの?厳しい条件に注意
ただし、この特約があれば「何でも補償される」というわけではありません。保険金の支払いには厳しい条件や制限があります。
まず重要なのが「旅行行程中に発生した事故であること」という条件です。つまり、現地に長期滞在していた場合や、旅行と無関係な活動中の事故は補償対象外になる可能性があります。
また、旅行中に予定外のルート変更や滞在地の変更があった場合は、「遅滞なく保険会社に通知」する義務があります。これを怠ると保険金が削減されたり、最悪の場合は契約が解除されるリスクもあります。
さらに注意すべきは、「戦争等の危険が著しく増加した」と保険会社が判断した場合、24時間前の書面通知で特約を解除できるという条項です。つまり、情勢が悪化した場合には、保険会社側から契約を打ち切られる可能性があるのです。
身代金や誘拐は対象外
この特約でも対応できないのが、誘拐による身代金などの金銭的要求です。AIG損保の約款では、身代金やそれに準じる財物については明確に支払い対象外と記載されています。これは国際的な保険業界の常識でもあり、テロ組織への資金提供を防ぐ観点からも当然の措置と言えるでしょう。
他に選択肢はないの?
AIG損保以外にも、一部の外資系保険会社や専門保険会社では戦争リスクに対応した商品を提供している場合があります。また、法人向けの「海外危険地域渡航保険」という商品もありますが、これは個人での加入は困難で、保険料も非常に高額になります。今回ざっと調べた限りでは、AUG損保の特約付きプランが最も現実的な選択肢だと言えそうです。
また、企業の駐在員や出張者の場合は、会社が加入している法人保険でカバーされている可能性もあるため、総務部や人事部に確認することをお勧めします。
まとめ:知らないと本当にヤバい保険の盲点
海外旅行保険の「戦争免責」は、多くの旅行者が見落としがちな重要なポイントです。特に現在のような国際情勢が不安定な時期には、この知識の有無が文字通り生死を分けることもあり得ます。
AIG損保の「条件付戦争危険補償特約」は、完璧ではありませんが、現在日本で個人が加入できる数少ない戦争リスク対応保険です。危険地域への渡航を検討している方は、保険料は高くなりますが、この特約の付帯を真剣に検討することをお勧めします。
ただし、最も重要なのは「そもそも危険な地域には近づかない」ことです。どんなに良い保険に入っていても、命を失ってしまっては意味がありません。外務省の危険情報をしっかりチェックし、安全第一で旅行計画を立てることが何より大切です。
保険はあくまで「万が一の備え」であり、危険を冒してまで旅行する理由にはならないということを、改めて心に留めておいていただければと思います。