北アフリカの料理といえば、タジンやクスクス、ハリッサなど、国境を越えて愛される共通の味がたくさんありますよね。どこの国に行っても、細かな違いはあれど、基本的には同じような料理に出会えるものです。
ところが、「モロヘイヤ」という料理だけは例外のようです。健康食品として日本でも知られるあの緑の葉野菜を使った料理ですが、同じ「モロヘイヤ」という名前なのに、エジプトとチュニジアでは全く違う料理になっているという話を聞きました。
本当にそんなに違うの?実際に現地のローカルレストランで両方を食べ比べてみることにしました。
モロヘイヤとは?

日本では健康食品として知られるモロヘイヤ(ملوخية)は、栄養価の高い緑の葉野菜です。エジプトでは古代ファラオの時代から食べられており、あのクレオパトラも愛用していたと言われています。
しかし、エジプトやチュニジアでは「モロヘイヤ」は野菜の名前ではなく、料理の名前も表します。日本人が「肉じゃが」と聞けば特定の料理を思い浮かべるように、エジプト人が「モロヘイヤ」と言えば特定の調理法で作られた料理を指すことが多いのです。
そんなモロヘイヤは、チュニジアでもエジプトでも、一見どちらもスープ系の料理を指すのですが、全く違う味と見た目になります。
現地食レポ
さて、御託はこれくらいにして、実際に両国のレストランで「モロヘイヤ」を食べてみたので、その感想をレポートします。
エジプトのモロヘイヤ

エジプトのモロヘイヤを味わうべく向かったのは、ギザのピラミッドのすぐ近くにある「Restaurant Pyramids」。観光地らしく、地元民だけでなく観光客でも賑わうエジプト料理レストランです。店内には古代エジプトを彷彿とさせる装飾が施され、ピラミッド観光の余韻に浸りながら食事ができる雰囲気。メニューも英語併記で、観光客にも親しみやすい作りになっています。
メニューを見ると、確かに「モロヘイヤ」の文字が。
注文から約15分後、運ばれてきたのは、熱々のココットに入った鮮やかな緑色の液体。一見するとあおさ汁のよう。よく見ると無数の細かい葉の粒が浮いています。

口にしてまず驚いたのは、その食感。スプーンですくうと、とろりとした粘り気があります。これがモロヘイヤ特有のぬめり成分なのでしょう。口に含むと、最初は鶏肉のブイヨンの優しい味わいが広がり、その後からモロヘイヤの独特な風味が追いかけてきます。
味付けは本当にシンプル。塩、ニンニク、コリアンダー、そして鶏肉の旨味だけで構成されているようですが、その素朴さが逆に印象的。モロヘイヤの葉は細かく刻まれているため、スープと一体化していて、「野菜を食べている」という感覚はほとんどありません。
古代エジプトの王族が愛した理由がよくわかります。病気の時や疲れた時に食べたくなる、そんな優しく力強い味わいです。消化に良さそうで、体を内側から温めてくれる感覚があります。
チュニジアのモロヘイヤ

対照的に、チュニジア料理の「Baraka Restaurant」は、メディナ(旧市街)の中にある隠れ家的な存在。狭い路地を抜けて辿り着いた店内は、完全にローカル仕様。客席にはチュニジア人のおじさんたちがアラビア語で熱心に議論しており、観光客は我々だけという状況でした。メニューもアラビア語とフランス語のみで、まさに「知る人ぞ知る」地元の名店といった雰囲気です。

メニューを見ると、こちらにも「モロヘイヤ」の文字。

約15分後、運ばれてきたのは、エジプトのモロヘイヤとは似ても似つかない料理でした。大きな平皿に盛られた、深い茶色の濃厚な煮込み料理。具材として牛肉の塊、玉ねぎ、そして確かにモロヘイヤの葉が見えますが、エジプト版のように細かく刻まれているわけではなく、他の具材と一緒に煮込まれています。
香りは複雑で力強い。ハリッサ(チュニジアの辛味調味料)の辛味、クミンの香ばしさ、コリアンダーの爽やかさが絶妙にブレンドされています。これは明らかに「ご馳走」の香りです。
一口食べてみると、まず感じるのは牛肉の濃厚な旨味。長時間煮込まれて柔らかくなった肉が、口の中でほろほろと崩れます。
モロヘイヤの葉は完全に煮込まれて原型をとどめておらず、まるでステーキハウスのクリームドスピナッチのような状態になっています。この食感と味わいは、カレーやルンダンを足して割ったような、とにかく濃厚で複雑な味。完全に「こってり」系で、個人的にはめちゃくちゃ美味しかったです。この調理法は、明らかにオスマン帝国時代の複雑なスパイス使いの影響を感じさせます。
同じ食材、全く違う料理哲学
二つの料理を食べ比べて最も驚いたのは、同じモロヘイヤという植物を使っているのに、料理に対する哲学が全く違うということでした。
エジプトのモロヘイヤは、「モロヘイヤという食材をいかに活かすか」という発想から生まれた料理。主役はあくまでもモロヘイヤで、他の食材(鶏肉、香辛料)はその味わいを引き立てる脇役に徹しています。古代ファラオの時代から続く、素材への敬意が感じられます。
一方、チュニジアのモロヘイヤは、「モロヘイヤを使って、いかに豪華で複雑な料理を作るか」という発想。モロヘイヤは重要な食材の一つですが、牛肉やスパイスと同等の立場で、全体のハーモニーを作り上げています。
まとめ
今回の食べ比べを通じて、「モロヘイヤ」という一つの料理が、国によってこれほど違う意味を持つということを実感しました。
同じ植物を使いながら、エジプトでは「古代から続く日常の癒しの料理(さっぱり系)」として、チュニジアでは「特別な日のご馳走(こってり系)」として発達した。これは、それぞれの国の歴史、文化、そして人々の価値観の違いが生み出した、食文化の多様性の素晴らしい例だと思います。
どちらも素晴らしい料理で、それぞれに深い魅力があります。みなさんも機会があれば、ぜひ両方の「モロヘイヤ」を食べ比べてみてください。同じ名前の料理なのに、全く違う文化と歴史を味わえる、貴重な体験になるはずです。
今回訪れたレストラン
- エジプト料理:Restaurant Pyramids(كبابجي الأهرام براغيتو)
- チュニジア料理:Baraka Restaurant(مطعم البركة)
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