
モロッコ旅行で訪れたカサブランカのハッサン2世モスクについて記録しておこうと思う。海岸線に佇むこのモスクは、事前に写真で見ていた以上に存在感のある建物だった。
1993年に完成したハッサン2世モスクは世界で3番目に大きく、高さ210メートルのミナレットが天に向かって伸びている。大西洋に面した立地が特徴的で、潮の満ち引きによってモスクの一部が海に囲まれる幻想的な光景を見ることができる。
海に浮かぶ建築

故ハッサン2世国王の名を冠したこのモスクは、まるで海から立ち上がる白い宮殿のようだ。青い海と白壁のコントラストが絵画のような美しさを作り出している。特に海側から見上げるミナレットは青空をバックに映え、格別の美しさがある。

建築にはモロッコ各地の最高級素材が使われており、アガディールの大理石、タフラウトの花崗岩、中央アトラス山脈の杉材が見事に調和している。外壁に施された精緻な幾何学模様、美しいタイル装飾、細部にまでこだわり抜かれた彫刻の数々は、伝統的なモロッコ建築の粋を集めたものだ。
高さ210メートルのミナレットは完成当時世界一の高さを誇り、頂上には夜間にメッカの方向を指し示すレーザー光線が設置されている。午後の陽光を浴びて輝く外壁を眺めていると、モロッコの職人たちの技術の高さを実感できる。

内部見学の驚き

非イスラム教徒も見学可能な内部は、収容人数25,000人という広大な礼拝堂が圧巻だった。長さ200メートル、幅100メートルの巨大な空間に入ると、まず目に飛び込んでくるのは天井から吊り下げられた巨大なシャンデリアだ。ヴェネツィアのムラーノ島から取り寄せられたガラス製のシャンデリアが、午後の陽光を受けて空間全体を美しく照らし出している。

このモスクの最も特徴的な部分が、中央の礼拝ホールに設けられた透明な床だ。建物の一部が海の上に建設されているため、大西洋を見下ろすことができる設計になっている。これはハッサン2世国王が語った「神の玉座は水の上にある」という言葉を体現した空間だという。

床一面に敷かれた絨毯は、モロッコの6,000人もの職人が5年間かけて手作業で織り上げたもので(諸説あり)、精巧な模様と鮮やかな色彩が見る者を魅了する。中央アトラス山脈の杉材、アガディールの大理石、タフラウトの花崗岩など、すべてモロッコ産の最高級素材が使われた内装は芸術作品そのものだ。
ミフラーブ(メッカの方向を示すくぼみ)周辺の装飾は特に美しく、細かなゼリージュ(モザイクタイル)装飾や漆喰の彫刻が施されている。午後の光が斜めに差し込む中、これらの装飾が作り出す影の戯れが、空間をより神秘的に演出していた。

地下のハマム(公衆浴場)も見学でき、独立した入り口を持つこの施設は隠れた見どころの一つだ。タデラクトという特別な漆喰技法で仕上げられた壁面は、卵黄と黒石鹸を混ぜた独特の材料で作られており、しっとりとした美しい質感を持っている。清めの部屋も同様に美しく設計されており、モスクが単なる礼拝の場所ではなく、地域コミュニティの中心的な役割を果たす総合的な施設であることがよく分かった。

小さな散歩仲間
モスク周辺を散策していると、野良猫が足元にすり寄ってきた。人懐っこいその猫と一緒に海岸沿いを歩いてみることにした。

猫は慣れた様子で石畳の道を歩き、時々振り返って私がついてきているかを確認してくれる。地元の人々にとってはよく見る光景のようで、猫と観光客が一緒に歩いている姿を微笑ましく見守ってくれた。

お土産物屋さんやカフェが点在する周辺では、地元の人々との交流も楽しめる。ある商店の店主によると、この猫は毎日観光客を案内しているらしく、「きっと前世はツアーガイドだったんじゃないか」と冗談を言って笑わせてくれた。こうした温かい交流も旅の良い思い出になった。なお、個人的な印象としてはカサブランカの人達は他モロッコ都市と比べて洗練されており、率直に言って性格が良い。他の都市で見られたような、ぼったくってきたり、差別意識を持ちながら接してきたり、といった心配がほとんどなく、観光客である私に対しとても親切に接してくれる人達ばかりだった。
カサブランカという安らぎの場所

そう。私にとって、実はこのモスク訪問には特別な意味があった。それまでの数日間、モロッコの各都市を巡る中で、マラケシュのメディナでの執拗な客引き、フェズの迷路のような路地でのガチ迷子体験など、常に気を張っていなければならない緊張感があった。美しい街並みや文化に感動する一方で、観光客として警戒心を持ち続ける疲れが蓄積していた。
そんな中でカサブランカに到着した時の安堵感は大きかった。比較的治安が良く、現代的な都市としての側面も持つカサブランカは、心の避難所のような存在だった。このモスクでの静寂な時間は、旅の疲れを癒してくれる貴重なひとときとなった。
午後の穏やかな光の中でモスクの美しさを堪能できたことも、この体験をより深いものにしてくれた。心が落ち着いた状態だからこそ、建築の細部まで、水面に映る光の美しさまで、すべてを心から楽しむことができたのかもしれない。
午後から夕方への移ろい

モスクの見学を終えた後は、猫と一緒に海岸沿いの遊歩道を散歩した。大西洋からの心地よい海風を感じながら、モスクの全景を眺める時間は至福のひとときだった。
夕日が海に沈む時間帯になると、モスクの白い壁が夕焼けの光で薄いピンク色に染まり、さらに美しい光景を楽しむことができた。猫は海風に毛をなびかせながら、堤防の上で海を眺めている。地元の人々が夕涼みを楽しんでいる中、観光客の私も、猫とともに、地元の人々のような気分でゆったりとした時間を過ごすことができた。

海風と共に過ごすこの時間は、建築の美しさや海の雄大さ、地元の人々との温かい交流、そして思いがけない小さな散歩仲間との出会いが組み合わさって、忘れられない体験となった。
まとめ
ハッサン2世モスクは建築の美しさと立地の特殊性で非常に印象深い場所だった。特にモスク内部での体験は独特で、開閉式の屋根から差し込む自然光、海底から見上げるような視点、地下のハマムの美しさ、そして6,000人もの職人が手がけた精巧な装飾の数々。これまで訪れたどのモスクとも違う、独特の神聖さと美しさを感じることができた。
午後の時間帯の訪問は特におすすめだ。光の変化と共にモスクが見せる様々な表情を楽しむことができる。モロッコを訪れる際は、ぜひこのモスクを訪れてみてほしい。きっと予想を超えた美しい思い出を作ることができるはずだ。
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