前回の記事で「世界最悪の航空会社」と評されたチュニスエアの搭乗体験をレポートしたところ、多くの読者から反響をいただいた。その中でも特に多かったのが「遅延についてはどうだった?」という質問だった。
確かに前回のロンドン→チュニス便では若干の遅延はあったものの、それほど深刻ではなかった。しかし、チュニスエアの悪評で最も頻繁に耳にするのが「とにかく遅れる」「3時間遅延は覚悟しろ」といった定時性に関するものだ。
そんな中、またしてもチュニスエアを利用する機会がやってきた。今度はチュニス→マルセイユ便、朝6時50分発のTU930便だ。チュニス・カルタゴ空港発となると、遅延リスクは一層高まるのでは?という淡い不安を抱きつつ、チュニスエアの「真の実力」を検証してみることにした。
チュニスエアの遅延問題 - データで見る深刻な実態
今回の搭乗前に、改めてチュニスエアの定時運航率について調べてみた。AirHelpの2024年データによると、チュニスエアの定時運航率は4.7/10点という惨憺たる結果。これは109社中でも最下位レベルの数字だ。
#Tunisie Tunisair et Nouvelair derniers dans le nouveau classement annuel, AirHelp Score
— Tunis Tribune (@tunistribune) December 7, 2024
Les deux compagnies aériennes tunisiennes, #Tunisair et #Nouvelair, arrivent dans les dernières places dans un récent classement mondial des compagnies aériennes.
Le rapport annuel classe… pic.twitter.com/5SRVa1CYI5
一般的に航空業界では、15分以内の到着を「定時」とみなすが、チュニスエアの場合、この基準をクリアできるのは全便の半分程度とされている。特にチュニス発の便については「2時間遅れは普通、3時間遅れもざら」という口コミが後を絶たない。
果たしてこれは本当なのか?早朝便という条件下で、チュニスエアの実力を見定めてみよう。
搭乗前日から当日まで - 早朝からの検証開始

チュニジア最終日、翌朝のフライトに備えて荷物をまとめていると、チュニスエアからオンラインチェックインの案内メールが届いた。前回同様、この辺りのシステムはしっかりしている。意外にこの辺りはちゃんとしているんだなと一安心。
当日は朝3時30分起床。早朝移動は不確定要素が多いため、かなり早めに動くことにした。5時前にはチュニス・カルタゴ国際空港に到着したが、予想に反して空港は賑やかだった。みんな早朝便を利用するのか、それとも大幅遅延で空港にいざるを得ない人が多いのか?真相は定かではないが、早朝とは思えない活気があった。

出発案内板を確認すると、TU930便は特に遅延表示もなく、予定通り6時50分発となっている。チェックインカウンターでの手続きもスムーズで、スタッフの対応も丁寧だった。この時点では、まさか定時運航するとは思っていなかった。
搭乗開始

6時30分頃、搭乗開始のアナウンスが流れた。そして驚くべきことに、定刻ぴったり6時50分に出発したのだ。他社ですら数分程度の遅延はしょっちゅうなのに、あのチュニスエアが分単位で正確な運航を見せるとは。お見事とも言える正確性だった。

機内に入ると、CAさんたちも余裕がある様子。定時運航の効果は乗務員の働きやすさにも現れるのかもしれない。機材は前回同様やや古めのエアバスA320だったが、整備状態は良好に見えた。
機内での体験
座席は相変わらず狭めだが、1時間30分の短時間フライトなら十分耐えられる。

前回同様、嬉しかったのは機内食が出てきたことだった。たった1時間30分のフライトなのに機内食があるなんて!今回は早朝ということもあってか、フライトが短かったからか、軽めの朝食だった。

内容はヨーグルトとプロセスチーズ、そして謎に菓子パンが3つ。なんとも偏った組み合わせだったが、機内食があるだけでも嬉しいものだ。他の航空会社なら飲み物だけで済まされてもおかしくない短時間フライトで、これだけのサービスがあるのは評価できる。

フライト時間が短いため機内エンターテイメントの不足も気にならず、窓から見える地中海の美しい景色を存分に楽しむことができた。
マルセイユ到着

そしてマルセイユ・プロヴァンス空港には、なんと9時25分定刻ぴったりに到着した。出発も到着も分単位で正確とは、チュニスエアでこんな体験ができるとは思わなかった。これは間違いなく貴重な経験だった。
到着後の手続きも問題なし。「これが本当に世界最悪の航空会社なのか?」と疑いたくなるほど、全てがスムーズに進んだ。
後日調査で判明した衝撃の事実
と言うわけで私のフライトは無事問題なく飛んだわけだが、後日、この便の運航状況を調べてみると、私がいかに貴重な体験をしたかが判明した。私が搭乗した便以外は、同ルートでほぼ毎日のように遅延が発生していたのだ。
具体的なデータを見ると、同月14日は39分遅延、17日は1時間11分遅延、18日は1時間23分遅延、20日に至っては2時間54分遅延という具合だ。私の便だけが奇跡的に定時運航だったのである。

この発見により、チュニスエアに対する評価はさらに複雑になった。確かに大部分の便で遅延が発生しているが、完璧な運航ができる日もあるということだ。つまり、設備や人材に致命的な問題があるわけではなく、運営面での課題が主因である可能性が高い。
結論 - 予測不可能な航空会社の実態
今回の体験は、前回の記事とはまた少し異なる示唆を与えれくれた。遅延を覚悟して挑んだチュニスエア2度目の搭乗は、予想に反して非常にスムーズだった。定時出発、定時到着、そして快適な機内サービス。しかし、それは例外的な幸運だった可能性が高いことが後の調査で判明した。
チュニスエア利用を検討している旅行者へのアドバイスは以下の通りだ。遅延は依然として高確率で発生するものと覚悟し、時間と心に余裕を持った旅程を組むこと。ただし、運が良ければ定刻通りに、快適な空の旅を楽しめる可能性もあることを心に留めておくこと。
そして何より、チュニスエアは予測不可能な航空会社だということ。「3時間遅れも当たり前」という噂はデータを見ればあながち間違いとは言えないが、実際には完璧な運航を見せることもある。それもまた、旅の醍醐味の一つとして楽しめる心構えがあれば、意外に悪くないチャレンジになるかもしれない。
重要なのは、チュニスエアには「まともな運航ができる潜在能力がある」ということが証明されたことだ。運営面での改善次第で、大きく変わる可能性を秘めている航空会社と言えるだろう。
次回はいよいよLCCバージョンのTunisair Expressの搭乗レポートをお届けする予定だ。果たして親会社とは異なる運営を見せてくれるのか、それとも似たような体験になるのか。チュニジア航空業界の謎はさらに深まりそうだ。