前回は、砂漠で暮らすノマドたちとの出会いと、井戸での水汲み体験をレポートした。井戸でヤギたちに水を与える光景は、まさに砂漠の生命力を象徴するような美しい体験だった。
第2回となる今回は、いよいよツアーのクライマックス。古代遺跡Old Ksar Ghilaneの探訪から、圧巻の砂丘体験までをお届けしよう。
Old Ksar Ghilaneの遺跡探訪

井戸を後にして、さらにクワッドで奥地へ向かう。今度は地形が一変し、波打つような砂丘が現れ始めた。これぞサハラ砂漠!映画やドキュメンタリーで見てきた、あの美しい砂丘の景色が目の前に広がった。

風によって作り出された砂の波は、まるで巨大な彫刻作品のよう。稜線は滑らかな曲線を描き、陰影が立体感を生み出している。
しばらく砂丘を駆け抜けていると、遠くに小さな建物が見えてきた。飲み物屋だ。こんな砂漠の奥地にも商売をする人がいることに驚く。それを目印に、その裏手には今回の目玉であるOld Ksarの遺跡が広がっていた。

クワッドを停め徒歩で散策開始。足元の砂はサラサラで、一歩一歩が砂に沈み込む。これまでブログで紹介してきたKsar HadadaやKsar Mrabtineは比較的保存状態が良く、現在も人が住んでいるものもあった。しかしこのOld Ksar Ghilaneは全く異なり、完全に廃墟と化していた。

壁の一部しか残っていない構造物が、砂漠の中に点在している。しかし、かつてここに人々が住み、商売をし、家族を育み、人生を送っていた痕跡がはっきりと見て取れる。

風化した石壁に手を触れると、石の表面はざらざらしていて、長年の砂嵐に削られた跡が残っている。何百年、もしかすると千年以上も前に積み上げられたであろう石が、今でもこうして形を留めている。当時の建築技術の高さと、この場所の重要性を物語っている。
部分的にしか残っていない壁の配置から、当時の城砦都市の規模を想像してみる。きっと隊商がここで休息を取り、物資を交換し、砂漠を越える準備をしていたのだろう。シルクロードならぬ、アフリカ大陸を縦断する交易路の重要な中継地点だったに違いない。

遺跡の中を歩いていると、ただの観光以上の特別な感情が湧いてくる。ここはまさに文明の十字路だったのだと実感する。

遺跡の散策を終えて飲み物屋に向かうと、そこには耳の聞こえないスタッフさんが一人で店を切り盛りしていた。砂漠のど真ん中で、ハンディキャップを持つ方が一人で商売をしているという事実に最初は驚いた。

しかし彼の表情は明るく、ジェスチャーと笑顔でのやりとりは、言葉よりも雄弁であるかのように感じた。冷えたコーラを受け取りながら、チュニジアにもこういった雇用に対する配慮や制度があることを知り、この国の懐の深さを感じた。
何より、砂漠という厳しい環境の中でも、人は助け合い、支え合って生きているということを実感できた瞬間だった。彼の店があることで、この遺跡を訪れる観光客も安心して水分補給ができるし、彼にとってもここが大切な働く場所になっている。
黄金色の砂丘を駆け抜ける

Old Ksarの遺跡を後に、いよいよこのツアーのクライマックスとも言える本格的な砂丘地帯へ向かった。ここからの景色は、まさにサハラ砂漠の真髄。壮大で、どこまでも続く黄金色の砂丘が地平線まで広がっている。
午後の傾いた太陽が砂丘を斜めに照らし、砂の一粒一粒がダイヤモンドのようにキラキラと輝いている。風によって作られた砂の波紋は繊細で美しく、自然が作り出すアートの素晴らしさを改めて実感させられる。

クワッドのエンジン音が砂漠の静寂を破り、砂煙を上げながら砂丘の稜線を駆け上がっていく。傾斜がきつい場所では、転倒しないように全身でバランスを取る必要があり、まさに全身運動だ。
砂丘の頂上から下り斜面を駆け下りる瞬間が、この旅で最も爽快だった。重力に身を委ね、砂丘を滑るように下っていく感覚。身体をジンバルのように、脱力しながらアップダウンの衝撃を逃していく。まるで砂漠の風になったような、言葉では表現できない自由感があった。

この瞬間、私たちは確実にサハラ砂漠の本質を体験している。砂漠の圧倒的な美しさと、そこに生きる人々の智恵を、肌で感じることができた。
同行者も、最初はクワッドに苦戦していたが、この頃にはすっかり慣れ、ガイドさんから操縦を取り戻していた。砂漠が人を変える、という表現があるが、確かにここに来ると何かが変わる気がする。日常の些細な悩みなど、この壮大な砂漠の前では吹き飛んでしまう。
ふとエンジンを止めると、砂漠の深い静寂に包まれる。風の音さえも聞こえないほどの静けさ。この瞬間、私たちは地球上で最も静かな場所の一つにいるのかもしれない。
砂丘の稜線に立ち、360度見渡す限りの砂漠を眺める。地平線は完璧な円を描き、空の青と砂の金色が美しいコントラストを作り出している。写真を撮りながら、この光景を記憶に焼き付けようと必死になる。でも実際のところ、この壮大さは写真では伝えきれない。五感全てで感じる体験なのだ。
ベースキャンプへ帰還

砂丘を堪能した後、ベースキャンプへの帰路についた。だんだんクサールギレンのオアシスが見えてきた時、不思議な安堵感を覚えた。Old Ksarからは4kmほどの距離だが、クワッドだとあっという間に感じる。
しかし、あの緑の塊が見えた瞬間、文明に戻ってきたという実感が湧いた。砂漠での体験があまりにも非日常的だったため、オアシスの緑が異世界への入り口のように見える。

ベースに帰還すると、普段使わない筋肉を酷使した疲労感がどっと押し寄せてきた。腕はパンパンに張り、足腰もガクガクしている。砂漠のざらざらとした砂の感触が肌に残り、ゴーグルを外した跡が目の周りにくっきりと白く残っている。完全に砂漠焼けだ。
でもこの疲れは心地よい疲れだった。体中に砂漠の記憶が刻まれている感じがする。きっと明日は筋肉痛になるだろうが、それもまたこの特別な体験の一部として愛おしく感じられる。
クワッドから降りて、改めてオアシスの緑を眺める。さっきまで360度砂漠の世界にいたのが嘘のよう。この小さなオアシスが、どれだけ貴重な存在なのかを改めて実感する。
第2回まとめ:歴史と自然の壮大なスケールに圧倒
Old Ksar Ghilaneの遺跡探訪から砂丘での爽快体験まで、この第2回では歴史と自然の両方の魅力を満喫できた。廃墟となった城砦遺跡では何世紀もの時の流れを感じ、砂丘では大自然の圧倒的な美しさに心を奪われた。
35ユーロという料金は決して安くないが、これだけの体験ができるなら十分に価値がある。プライベートツアーで、ガイドさんの丁寧な案内のもと、安全に砂漠を満喫できたことも大きな魅力だった。
チュニジア南部を訪れる機会があれば、ぜひKsar Ghilaneでのクワッドバイクツアーを検討してみてほしい。きっと人生で忘れられない体験の一つになるはずだ。
【ショップ情報】
- 料金: 35ユーロ/人(時期や内容によって変更の可能性有り)
- 予約方法: WhatsApp(+21625115277)
- 所要時間: 約90分
- 言語: 英語対応可