前回の記事で、中国ビザ免除措置が2025年末で期限を迎える可能性について書いた。仮に延長されなくても、トランジット特例(通称:240時間ルール)があるから実質的にほぼ自由に観光できるだろう——そう思っている人は多いだろう。
だが、ちょっと待ってほしい。トランジット特例には細かいルールがあり、特に複数の中国国内空港を経由する旅程では、知らないうちにルール違反になっている可能性がある。
最近、格安航空券サイトで中国国内の複数空港を経由するチケットが安く売られている。一見お得に見えるが、これがトランジット特例のルールに抵触する可能性があるのだ。旅程が破綻して入国できない、あるいは途中で足止めされるリスクがある。

2026年以降、ビザ免除が終了した場合、こうした複雑な旅程を組む人が増えるはず。だからこそ、今のうちにトランジット特例の「注意点」を徹底的に整理しておきたい。
(免責事項)本記事は2025年10月時点の公式情報に基づく予想であり、実際の運用や今後の制度変更を保証するものではありません。渡航前には必ず中国国家移民管理局(NIA)や在日中国大使館の最新情報をご確認ください。
※【続報】11月4日アップデート!:晴れて、ビザ免除が2026年末まで延長されることが決定しました!制度詳細については、下記の続報記事をご確認ください。
トランジット特例の基本ルール(2024年12月改定版)

まず基本を確認しよう。中国のトランジット特例は2024年12月17日に大幅に拡充された。第三国への確定済み航空券(座席指定済みの発券済みチケット)を持っていること、指定された出入国地点(口岸)から入出国すること、指定されたエリア内にのみ滞在すること、そして日本など55か国・地域の国籍であること(2025年6月時点、インドネシアが追加)が条件だ。
大幅に拡充されたトランジット特例
2024年12月の改定で、トランジット特例は劇的に便利になった。滞在期間は72時間/144時間から240時間(10日間)に延長され、対象口岸は39か所から60か所に拡大、滞在可能エリアは19省・市・自治区から24省・市・自治区に拡大された。そして重要なのは、省をまたいだ移動が公式に認められた点だ。
つまり、第三国への航空券さえ持っていれば、10日間、24の省・市・自治区を自由に移動できるということだ。これは実質的に、かなり自由度の高い旅行が可能になったことを意味する。
トランジット特例の「許可地域」とは
240時間特例では、指定された24の省・市・自治区内・約60の出入国地点(口岸)であれば、省をまたいだ移動も公式に認められている。
中国国家移民管理局の公式発表(2024年12月17日)には、以下のように明記されている:
"Foreign nationals entering China through the visa-free transit policy can make cross-province travels within the allowed areas for visa-free transit travelers in these 24 provinces."
つまり「複数都市を経由する=自動的にNG」ではない。問題になるのは、その都市や出入国地点が公式の許可地域リストに含まれているかどうかだ。
24省・市・自治区の内訳
対象となる24の省・市・自治区のうち、北京市、天津市、上海市、重慶市の4直轄市をはじめ、河北省、遼寧省、黒龍江省、江蘇省、浙江省、福建省、山東省、河南省、湖北省、湖南省、広東省、四川省、雲南省、陝西省の14省、さらに新規追加された安徽省、海南省、貴州省の3省は全域が滞在可能だ。
ただし注意が必要なのは、一部地域のみ滞在可能な省もある点だ。山西省は太原市と大同市のみ、江西省は南昌市と景徳鎮市のみとなっている。広西チワン族自治区は南寧、柳州、桂林、梧州、北海、防城港、欽州、貴港、玉林、賀州、河池、来賓の行政区域に限定されている。
必ず中国国家移民管理局の公式リスト(24省・60口岸のリスト)を事前に確認すること。
注意:特例でも入れないエリアがある

ここからが重要だ。トランジット特例が大幅に拡充されたとはいえ、中国全土が対象ではない。特に注意が必要なのは、新疆ウイグル自治区(ウルムチ、カシュガルなど)、チベット自治区(ラサなど)、内モンゴル自治区(フフホト、包頭など)、青海省(西寧など)、寧夏回族自治区(銀川など)、吉林省(長春、延吉など)、甘粛省(蘭州、敦煌など)といったエリアだ。
これらの地域を訪れたい場合は、トランジット特例では入域できない。通常のビザ(Lビザなど)を取得する必要がある。格安航空券でこれらの空港を経由する旅程を見つけても、トランジット特例は使えないので要注意だ。
具体的なケースで見る「注意すべき旅程」
制度の概要は理解できても、実際の旅程がトランジット特例の対象になるかどうかは判断が難しい。ここからは、多くの旅行者が悩むであろう具体的な旅程を見ていこう。格安航空券サイトで実際に見かけるような例を挙げながら、何に注意すべきかを整理したい。
ケース1:複数の特例対応空港を経由する旅程
格安航空券サイトで実際に検索すると、こんな旅程が出てくる。中国東方航空で、東京からイスタンブールへ。羽田から一度北京へ飛び、中国国内線を利用して今度は西安へ飛び、そこから最終目的地イスタンブールへと向かう経路だ。中国国内で2つの空港を経由する点が少々面倒だが、イスタンブール直行便と比べて価格が半分、あるいは3分の1以下になることも珍しくない。
この例について言えば、北京(直轄市・全域対象)と西安(陝西省・全域対象)は、公式リストで許可地域に含まれているため、240時間特例の対象となり得る。中国国内で複数空港を経由することについても問題とならない。
陸路移動(高速鉄道)の場合
「北京→西安は飛行機じゃなくて高速鉄道で移動したい」と考える人もいるだろう。許可地域内の移動であれば、制度上は高速鉄道の利用も認められている。今回の経路についても基本的にはOKだ。
ただし、許可地域外へ陸路で移動することはできない。列車を乗り継いでちょっくら内蒙古へ行ってみよう、などというプランは不可能だ。また、移動先が正式に許可された地域であるかを事前に確認していないと、発券時や乗車時に拒否されるリスクがある。この点、パスポート照合を行う中国の鉄道はごまかしが全く効かない。
さらに、タクシーなどで無理やり許可地域外へ移動しようとした場合、悪質とみなされ、最悪の場合は逮捕される可能性もある。後で調べればすぐにバレる。
ケース2:特例エリア対象外の空港を経由する旅程
記事冒頭でスクリーンショットを挙げたこちらのケース。実は、これはビザなしでは不可能な旅程である。
新疆ウイグル自治区のウルムチは国際線が就航しているが、公式の240時間口岸リストに含まれていない。ウルムチ(新疆)やラサ(チベット)、フフホト(内モンゴル)などは、公式の240時間口岸リストに含まれていないため、これらでの乗り継ぎは特例対象外となり、通常のビザが必要だ。
つまり、これらの空港で乗り継ぐ場合、たとえ第三国への旅程であっても、トランジット特例は使えない。ビザが必要になる。
ケース3:香港からの陸路入国→広州空港→第三国
具体例:東京→香港→広州(陸路)→バンコク(空路)
香港から広州へは陸路で簡単に行ける。「香港で降りて、陸路で深センに入り、広州から飛行機でバンコクへ」という旅程を考える人もいるだろう。理論上は「香港→広州(陸路入国)→バンコク(空路出国)」で、トランジット特例のルールに則っているように見える。
香港・マカオは制度上は「別地域(third country/region)」として扱われる。 したがって、香港から中国本土への入国は「第三国からの入国」とみなされ得ると言える。
しかし、ここで注意が必要だ。陸路での入国は、空路での入国と比べて審査官の判断に幅がある可能性がある。香港西九龍駅が公式リストに含まれていても、実際の入国審査でどのように扱われるかは、審査官の裁量や当日の状況によって変わる可能性がある。
確実性を求めるなら、最初から広州へ空路で入国する方が無難だ。または、最初から通常のビザを取得しておくのが最も確実な方法だろう。理論上は可能に見える旅程でも、実務上の運用には予測できない要素があることを理解しておくべきだ。
特例拡充の背景を読み解く

さて、ここで一歩引いて中国政府がなぜトランジット特例をここまで拡充したのか考えてみたい。
建前と本音
表面的には、中国への入国には「ビザが必要」という原則が維持されている。日本との関係においても、ビザ免除措置は2025年末までの期限付きとされており、延長するかどうかは政治的判断に委ねられている。
だが一方で、240時間(10日間)という滞在期間、24省を自由に移動できる範囲、60か所の出入国地点——これらを見ると、実質的には「第三国への航空券さえあれば、ほぼ自由に旅行できる」制度設計になっている。
経済と外交のバランス
おそらく政府としては、微妙なバランスを取りたいのだろう。経済面では、観光客やビジネス客は歓迎したい。インバウンド消費は経済にプラスだし、実際に中国を見てもらうことは国際的なイメージ改善にもつながる。一方で外交面では、ビザ政策を外交カードとして使いたい。簡単にビザ免除を恒久化してしまうと、関係が不安定になった時の交渉材料を失う。
トランジット特例の拡充は、この両立を図る巧妙な方策と言えるかもしれない。表向きは「ビザ免除は延長しない」というスタンスを取りつつも、実質的な観光客の流入はトランジット特例で確保できる。政治的なメンツを保ちながら、経済的な実利も得られる妙案だ。
従来ルールから予想する2026年以降の状況
2026年以降、ビザ免除が延長されなかった場合、トランジット特例を利用する日本人旅行者は確実に増える。だが、今後中国側がルールを変更する可能性も十分にある。
現在対象となっている都市やエリアが、政治的・経済的理由から変更される可能性がある。特に国際関係が悪化した場合、対象エリアが縮小されるリスクは否定できない。また、これまで運用上曖昧だった部分(陸路入国、複数都市経由など)について、明確な基準が設けられ、審査が厳格化される可能性もある。「確定済み・座席指定チケット」の定義がより厳格になり、スタンバイやオープンチケットは完全に認められなくなる可能性も考えられる。
繰り返しになるが、これらはあくまで現時点の制度に基づく予想であり、実際の運用や今後の制度変更を保証するものではない。
格安航空券を買う前にチェックすべきこと
複数の中国国内空港を経由する格安航空券は、確かに魅力的だ。だが、トランジット特例のルールを理解せずに購入すると、条件次第では入国・移動を拒否されるリスクがある。旅程が破綻すれば、取り返しがつかない。
まず、経由する中国国内の空港すべてが、公式の許可口岸リストに含まれているかを確認しよう。中国国家移民管理局の公式リスト(24省・60口岸)を見て、ウルムチ、ラサ、フフホトなどが対象外であることを確認する必要がある。
次に、経由地の省・自治区が240時間特例の対象か。新疆、チベット、内モンゴル、青海、寧夏、吉林、甘粛は対象外だ。一部地域のみ対象の省(山西省、江西省、広西)の場合、訪問予定地や経路が許可エリアに含まれているかも重要だ。
陸路移動(高速鉄道など)を含む場合、移動先が許可地域に含まれているか。高速鉄道利用時はパスポートスキャンがあり、許可地域外への移動は拒否される可能性がある。香港・マカオからの陸路入国を含む場合、理論上は可能でも実務上の運用には不確実性があるため、空路での入国がより確実だ。
第三国行きの確定済み・座席指定チケット(発券済み)を持っているか、出発地と最終目的地が異なる第三国か(日本→中国→日本はNG)なども確認しておきたい。
これらを確認した上で、少しでも不安があるなら、航空会社や中国ビザ申請センターに問い合わせること。または、最初から通常のビザを取得しておくのが確実だ。

まとめ:旅程破綻リスクに要注意
トランジット特例は2024年12月の改定で大幅に拡充され、便利になった。24省を10日間自由に移動できるのは魅力的だ。
ただし、中国全土が対象ではない。新疆、チベット、内モンゴル、青海、寧夏、吉林、甘粛などは対象外であり、これらのエリアを訪れるには通常のビザが必要だ。また、格安航空券サイトで複数都市を経由するチケットを見かけても、安易に飛びつかないこと。条件次第ではトランジット特例の対象外とみなされるリスクがある。
一番強調したいのは、旅程破綻リスクの怖さだ。 空港で「ビザがないと入国できません」「この先の便には乗れません」と言われてからでは遅い。追加でビザを取得する時間もなければ、高額な航空券を買い直すしかない。最悪の場合、旅行自体が台無しになる。旅行前には必ず最新情報を確認し、リスクを最小限に抑える準備をしておこう。
(再度の免責)本記事は2025年10月時点の公式情報に基づくものであり、今後の制度変更や実際の運用を保証するものではありません。渡航前には必ず最新の公式情報をご確認ください。
※【続報】11月4日アップデート!:晴れて、ビザ免除が2026年末まで延長されることが決定しました!制度詳細については、下記の続報記事をご確認ください。
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