現在、中国で急速に姿を消しつつある「ニーハオトイレ」。かつて全土に広く存在し、地域住民の交流の場としても機能していたこの独特なトイレ文化も、都市開発と共に過去のものとなりつつある。
しかし今回、青海省の奥地でまさかの現存個体と遭遇。それも、かなり原始的な構造を保った特殊なタイプだった。その衝撃の体験をレポートしたい。
※本記事ではトイレの写真が登場する。汚物など、極度に嫌悪感を催す恐れのあるものは写り込まないよう細心の注意を払っているが、トイレという題材を扱う記事である以上、神経質な方は閲覧を控えていただくことをお勧めする。
青海省の荒涼とした大地で突然の便意

青海省海南蔵族自治州の景勝地を周遊していた時のこと。とある集落で昼食を楽しんでいると、急に便意を催した。
飲食店でトイレの在り処を尋ねると、「店の外をぐるっと回ったところにあるよ」との返答。言われた通りに歩いていくと、荒涼とした大地にブロックが積まれた小さな小屋がぽつんと建っている。一応、男女別に分かれているようだ。


地元のチベット族のおじさんおばさんはもちろん、青海省のインスタ映えスポットをツアー周遊中と思われる若い観光客集団も、この小屋を普通に出入りしている。そんな様子を見て特に身構えることなく中に入ったところ...
衝撃の内部構造:これぞ原始的ニーハオトイレ
扉を開けて驚愛。中は正真正銘のニーハオトイレ、それもかなり原始的な作りだった。
床には木の板や鉄板が並べられているだけ。その隙間が計3本。細い隙間が1本(幅約3cm)、太い隙間が2本(幅約10cm程度)という構造だ。

先客のおじさんは、その細い隙間に向かって立ちションをしている。察するに、細い隙間は小専用、太い隙間は大専用ということらしい。しかし、それぞれの隙間の間に目隠しや仕切りなどは一切ない。つまり、利用している様子が丸見えの状態だ。
崖上便所の生態系
とは言え便意には抗えない。お構いなしにしゃがみ込む。向きはこれで合っているのだろうか、などと考えながら用を足す。恥ずかしがるとかえって滑稽に見える。素知らぬ顔で平然とやってのけるのがきっとスマートだろう。
このトイレの構造がまた凄い。崖の上に建った小屋から、数メートル下の崖下へとただ汚物が落下していくだけの仕組み。下を覗くと、先人たちの遺産がすでに小さな池を形成している。香りも中々凄まじい。
薄いベニヤ板一枚で隔てただけの女性用からも、威勢良く同じ池へと落下していく様がよく見える。私が今まさに捻り出したそれを追いかけるがごとく、誰かのそれがほぼ同時に池へと飛び込んでいく。一切の羞恥心を忘れ、なんというか、ローカルコミュニティの仲間入りをした気分になった。
チベットじいちゃんとの邂逅
ほどなくして、地元のチベット族と思われるおじいちゃんが入ってきた。私が格闘しているすぐ横の隙間へとやって来る。
恥ずかしいと感じたのも束の間。おじいちゃんは私にはまったく目もくれず、体勢や角度を変えながら「ああでもない、こうでもない」とベストポジションを試行錯誤し始める。「ニーハオトイレはどの向きで用を足すのが正解なのか」は往々にして議論の題材として扱われるが、どうやらローカル住民も同様の疑問を抱いているようである。
最終的に、なぜか私の方を向いた状態でしゃがみ込み、力み始めた。おいおい、この角度ですると暴発して私にションがかからないか...と不安になったが、そんな心配を横目に弱弱しく放たれた小。よかった。私の方に散ってくるような悲惨な問題は起こらなかった。
色々と初めての光景を目にするあまり頭がいっぱいになり、せっかくのニーハオトイレで隣に客人が来たにも関わらず、すっかり「ニーハオ」と話しかけるのを忘れてしまった。
消えゆく文化への想い
ニーハオトイレは今や絶滅危惧種だ。しかし数十年前までは中国全土に広く存在し、スマートフォンもなかった時代、実際に「ニーハオ」にとどまらず地域住民が談笑を楽しむ貴重な交流の場として機能していた。
今回、生憎そういった会話こそ発生はしなかったものの、実際にその文化の一角を垣間見ることができて、正直嬉しく感じた。都市化が進む中国で、こうした原始的なコミュニケーション空間が残っているのは貴重な体験だった。
まとめ
青海省で遭遇した原始的ニーハオトイレは、現代中国ではもはや貴重な文化遺産と言っても過言ではない。隙間の向こうに見える崖下の池、薄いベニヤ板越しの生活音、そして何より地元住民との無言の連帯感。
これらすべてが、かつて中国全土で日常的に行われていたコミュニケーションの形だったのだ。観光地化が進む現代中国において、こうした生の文化体験ができる場所は本当に貴重になっている。
当ブログでは、そういった貴重な文化遺産の魅力を発信すべく、今後ともニーハオトイレを発見した暁にはレポートを投稿していきたい。
皆様も、もしも旅先でニーハオトイレに遭遇する機会があれば、ぜひ「ニーハオ」の一声を忘れずに。それこそが、この独特な文化の本来の姿なのだから。
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