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【青海省バスツアー体験記①】中国語初心者が現地の団体ツアーに参加したら、ルールが細かすぎて絶望した話

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「個人旅行より、もっとディープな旅がしたい」

青海省。中国西部、チベット高原の玄関口に位置するこの地は、天空の鏡と称される茶卡塩湖や、中国最大の湖・青海湖など、息をのむような絶景が広がる場所だ。

私は普段、海外旅行では個人行動を好む。自分のペースで歩き、自分の興味のままに動く。それが旅の醍醐味だと思っていた。しかし今回、私はあえて「現地の中国人向け団体バスツアー」に参加することにした。外国人向けのパッケージツアーではない。中国人が普段利用する、いわば「ガチ」の現地ツアーだ。携程旅行(Ctrip)のアプリを開き、中国語で書かれた無数のツアープランの中から一つを選び、予約ボタンを押した。

せっかくのチベット自治州訪問。ならばとことん異国感を味わいたい、という想いが強かった。

なぜそんなことをしたのか。かねてより、異国の地で現地人に混ざって団体行動をすることに、密かな憧れがあった。言葉も文化も違う人々と同じバスに揺られ、同じ景色を見る。個人で動くよりも、もっとディープで、もっと濃密な体験ができるのではないか。そんな期待があった。

この時の私は、まだ知らなかった。中国の団体バスツアーが、想像を絶するほど「ストイック」で「厳格」で、そして何より「早口」だということを。

「中国語、まあまあできるし大丈夫でしょ」

予約を完了した時点で、私の中国語レベルはこんな感じだった。特に検定を持っているわけではないが、日常会話なら何とかなる。レストランで注文できるし、タクシーで行き先を伝えることもできる。これまで何度か中国を一人旅してきた経験もある。

「まあ、ツアーガイドの説明くらいなら、だいたい理解できるだろう」そう高をくくっていた。いざとなれば翻訳アプリを使えばいい。スマホがあれば何とかなる。そんな楽観的な考えだった。しかし、この甘い見積もりが、後に私を絶望の淵に叩き落とすことになる。

予約したツアーの概要

中国最大の湖、青海湖を眺めながらバスで大移動をするツアー

今回利用したのは、西寧市を起点に、日月山、青海湖、茶卡塩湖を巡る一日周遊ツアー。朝6時出発、夜22時帰着という、16時間におよぶ超長丁場だ。このルートは青海省観光の王道中の王道らしく、似たようなプランを提供する業者が複数存在する。私が選んだのは、比較的早めに西寧に戻ってくるプランを提供している業者だった。というのも、この日の夜、私は西寧から敦煌行きの夜行列車に乗る予定があったからだ。

CTripでは、日月山・青海湖・チャカ塩湖を1日で回るツアーが数多く扱われている

料金は、日帰りツアーとしては驚くほど安い。個人で包車(チャーター車)を手配すれば軽く5倍以上の費用がかかるだろう。団体行動の効率性と、中国の観光産業の価格競争力を実感する。バスは40人乗り。この日の参加者は35人ほど。年齢層は20代から50代まで幅広く、意外なことに若い女性の姿が目立った。バスツアーといえば高齢者の団体をイメージしていたが、青海省は「映える」観光地が多いため、若者にも人気なのだろう。

特にチャカ塩湖は天空の鏡のような幻想的な景色が中国の若者にも大人気

外国人でも携程旅行でオンライン予約できるのはありがたい。もっとも、ツアー会社側が外国人の参加を想定しているかどうかは、甚だ疑問だが。

朝6時、まだ暗い西寧の街

集合は朝6時、西寧市内の指定集合場所へ。9月中旬の西寧は、朝6時ではまだ真っ暗だ。街灯に照らされた道路には、ほとんど人影がない。ひんやりとした空気が頬を刺す。私はトラブルに備えて余裕を持って行動することにしていた。集合時間の10分前、5時50分には現地に到着するつもりで宿を出た。

しかし。集合場所に着いてみると、すでに大型バスが停まっており、車内は明るく灯っている。そして恐ろしいことに、すでに大半の乗客が乗り込んでいるではないか。日本人である私が「10分前行動」を実践したところで、中国人はもっと早く来ていた。中国人というと、時間にルーズなイメージを持っている人もいるかもしれない。しかし少なくともこのツアーに参加している人々は、日本人以上に時間厳守、いや、時間前倒しの精神を持っていた。

慌ててバスに乗り込む。すでに多くの座席が埋まっている。私が座らされたのは、最前列、ガイドさんの真横の席だった。おそらく、外国人である私が言葉の問題で迷子になったり、説明を理解できなかったりするのを心配しての配慮だろう。そして定刻通り、午前6時ちょうど、バスは静かに発車した。

全員WeChat交換、そしてグループ作成

バスが動き出してすぐ、ガイドさんが立ち上がった。

「各位游客、大家早上好(皆さん、おはようございます)」

コテコテの大きな声。彼女の名前は仮にリンさんとしておこう。

まず最初に指示されたのは、全員がリンさんとWeChatで繋がること。そして彼女が参加者全員のグループチャットを作成した。35人全員が一つのグループに入れられる。このグループが、この日一日、極めて重要な役割を果たすことになる。

20分間ノンストップの早口アナウンス

WeChat交換が終わると、リンさんはマイクを手に取り、本格的な説明を始めた。そして、始まった。彼女の口から、まるでマシンガンのように中国語が飛び出してくる。早い。とにかく早い。そして止まらない。ずっと喋り続けている。

私は何とか自力で理解しようと、必死に耳を傾けた。しかし、彼女の話すスピードは容赦がない。しかも内容が細かすぎる。

「車内ではヒマワリの種とピーナッツは食べてはいけない。なぜなら清掃が大変だからではなく、カリカリという音が休みたい人にとってうるさいから…」

「今日一日、買い物店には一切立ち寄らない。酸素ボンベすら買わない。全部自分で準備して…」

そして恐ろしいことに、この「ルール説明」は20分近く続いた。ノンストップで、休憩なしで。

テクノロジーを総動員して何とか食らいつく

チベット高原では、しばしばヤギやヤクと邂逅する

生半可なリスニング力では追いつけない。私は仕方なく、現代のテクノロジーを総動員する。

まず、スマホボイスレコーダーアプリで録音。その音声ファイルをGoogle Geminiにアップロード。AIに文字起こしをさせる。文字起こしされたテキストを速読。この繰り返し。

まるでハッキングでもしているような気分だった。いや、実際これは言語の壁をハックしているのかもしれない。最前列の特等席で、必死にスマホを操作する私の姿は、さぞ奇妙に見えたことだろう。

判明した「ルール」の数々:分刻みでシビアな時間管理

何とかAIと人力を総動員して理解したルールの中で、最も厳しかったのが時間管理だった。今日のツアーは「散拼団」と呼ばれるタイプのツアーだという。つまり、個別に申し込んだ客を一台のバスに集めた「寄せ集めツアー」だ。全国各地から来た見ず知らずの人々が、この一日だけ同じ行程を共にする。だからこそ、時間管理が極めて重要になる。

リンさんは言った。「全員が同じ料金を払っている。私とドライバーは仕事だからいくらでも待とうと思えば待てるが、時間通りに来た他の客には、遅刻者を待つ義務はない」そして、もし遅刻したら、車内の全員に謝罪すること。「遅刻して乗車したら、車内の34人の乗客に一人ずつ謝ってください。良いですね?」彼女の口調は真剣そのものだった。これは冗談ではなさそうだ。

具体的な時間設定も分刻みで設定されている。日月山では、第一地点で30分、第二地点で30分、合計1時間。青海湖では、到着が10時25分、出発が11時55分で、滞在1時間30分。しかし「11時30分には出口に向かって歩き始めること」という指示がある。つまり、観光地内を移動する時間も計算に入れて、25分前には行動を開始しなければならない。

青海湖では、ミニバスでの移動があるため時間前行動が必須

茶卡塩湖はもっと複雑だ。到着13時50分、出発16時50分で3時間の滞在だが、この間に入場、ミニ列車で片道5キロ移動、湖で写真撮影、戻りの列車で塩彫刻広場へ、電気自動車で出口へ、というスケジュールをこなさなければならない。「16時20分には出口行き電気自動車に乗ること」と指定されている。30分のバッファしかない。一つでも乗り遅れたら、確実にバスの出発時間に間に合わなくなる。

景点内での列車移動を伴うチャカ塩湖では時間がとにかくシビア

WeChatグループでの逐一報告システム

そして、ここからが本当に驚いたシステムだった。リンさんは各観光地での行動ルールを説明した後、こう言った。

「各観光地で、帰りのバスや電車に乗ったら、必ずWeChatグループに報告してください。『電車に乗りました』『バスに乗りました』と。全員の報告を確認して、初めて私たちは安心できます」

つまり、観光地内での移動の節目節目で、参加者は一人一人、グループチャットにメッセージを送らなければならない。35人全員が。リンさんはそのメッセージを一つ一つ確認し、全員の安全と行動を把握する。

実際に茶卡塩湖で体験してみると、その徹底ぶりに驚いた。観光地内を移動するミニ列車に乗り込むと、スマホが次々と通知音を鳴らす。WeChatグループを開くと、参加者たちが次々と報告している。

「上车了(乗りました)」
「已上车(もう乗りました)」
「在车上(車内にいます)」

35人が次々とメッセージを送る。スマホの画面が猛烈な勢いでスクロールしていく。私も慌てて「已上车」と打ち込んで送信。これをやらないと、リンさんが心配してしまう。帰りの電気自動車に乗るときも同じ。全員が「乗りました」報告をする。

このシステムには驚いた。そして同時に、この徹底ぶりに感心した。

さらに、リンさんは各観光地で常に一緒に行動するわけではない。入口と出口、主要な見どころ、そして集合時間を説明したら、後は各自で自由に動く。「私は導遊旗(ガイド旗)を持って景区内をうろつきません。なぜなら、見たい景色は人それぞれ違うから」

確かに理にかなっている。でもこれは、自分で観光ルートを理解し、時間を管理し、なおかつWeChatで報告できることが前提だ。つまり、中国語が完璧に理解できなければ、かなり厳しい。私のような外国人にとっては、かなりのプレッシャーだった。

余談:酸素ボンベ問題

ところで、リンさんは説明の中で「今日一日、酸素ボンベを買う店にも立ち寄らない」と言っていた。青海省は標高が高く、西寧市街でも標高2,261メートル、今日訪れる海南チベット族自治州では、最高3,800メートルに達する。私は事前に調べて、高山病対策として携帯用酸素ボンベを西寧から持ってきていた。

酸素ボンベは西寧の街中の薬局で取り扱いがある

しかし、ふと疑問に思った。「今日一日、酸素ボンベを買う店にも立ち寄らない」と言われても、持ってきていない人はどうするんだろう?もう手遅れなのでは?まあ、おそらく事前の予約確認メールか何かで注意事項が書かれていたのだろう。中国語が完璧に読めない私が見落としただけかもしれない。実際、バス車内を見回しても、酸素ボンベを手に持っている乗客は何人もいた。みんなちゃんと準備してきているようだった。

次回予告

厳格なルール説明を何とか乗り切った私たちを待っていたのは、さらに衝撃的な展開だった。次回「その2」では、このクセの強すぎるガイド・リンさんの正直すぎるアドバイスと、バス車内で目撃した乗客のストイック過ぎるツアーの楽しみ方について詳しくお伝えしたい。

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