
前回記事では、バスガイドのリンさんによる20分間ノンストップの早口ルール説明から始まったストイックなバスツアーの導入をお届けした。分刻みの集合時間、WeChatグループでの逐一報告システム、遅刻したら全員に謝罪…。想像を絶するストイックさに、私は必死にボイスレコーダーとAIを駆使して食らいついた。
そんな中、ルール説明が一段落したと思った瞬間。リンさんの口から、さらに衝撃的な言葉が飛び出してきた。
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「安いヤクジャーキーは、実は●●●肉です」
ルール説明の後、リンさんは、観光地での注意事項について話し始めた。そして、私は耳を疑った。
「今日、日月山を越えると、本当の意味でチベット高原に入ります。チベット高原では、観光地で最もよく見るのは、ヤクと羊です。そして、ヤクがいるところでは、ある商品が作られます。ヤクジャーキーです」

ここまでは普通だ。青海省やチベットの特産品として、ヤクジャーキーは有名だ。しかし、次の瞬間。
「このヤクジャーキー、観光地では買わないことをお勧めします。なぜなら、観光地で売られているもの、特に68元以下の商品は、本物のヤクではありません」
「青海の草原では、毎年6月から9月にかけて、ある動物が姿を消します。それはネズミです。手のひらサイズの小動物、シュートゥン(鼠兔、ナキウサギ)です」
「68元以下のヤクジャーキー、あれは大体このネズミで作られています」
まさかの暴露。観光地で売られている「ヤクジャーキー」の多くが、実はネズミ肉だと、現役ガイドが堂々と暴露している。

「でも、観光地では、私の前で店主に『朝バスで言ってたネズミ肉のジャーキー、私まだ買っていい?』なんて聞かないでください。そんなことを言ったら、もうあなたは私の客ではありません。私たちもまだ仕事を続けなければならないんです」
つまり、車内でだけ教えてくれる裏情報、ということだ。私は車内を見回したが、中国人の乗客たちは特に驚いた様子もなく、普通に聞いている。もしかして、これは中国ではよく知られたジョークなのだろうか?それとも本当にネズミ肉なのだろうか?真偽は分からないが、少なくともリンさんは真面目な顔で言っていた。

「ショールは買うな。あなたは運送業者じゃない」
次のターゲットはショールだった。
「中国で最も購買力のある消費者層は、女性です。そして青海の観光地に来て、みんなが買うものがあります。それを着て観光地で写真を撮ると、自分で写真を拡大しても、自分がどれか分からなくなるもの。それはショールです」
確かに、青海湖や茶卡塩湖の写真を見ると、カラフルなショールを羽織った観光客がたくさん映っている。

「このショール、浙江省義烏で生産されています。皆さんの故郷から浙江省まで、青海から浙江省まで、とても遠いです。あなたは自然界の運送業者になる必要はありません」
「あのショールは、青海のこの一日だけしか着られません。あなたの故郷に持ち帰っても、まったく着ることはできません。だから、このものにお金を使う必要はありません」
実用性ゼロ、と言い切った。そして念を押すように。
「車を降りたら、私に『このショール買っていいですか』なんて聞かないでください。店主が隣にいたら、私は『じゃあ一つ買いましょうか』としか言えませんから」
なぜこんなに正直なのか:青海省の特殊な事情
私は不思議だった。通常、観光ガイドは観光地の店舗と提携していて、客が買い物をすればキックバックを受け取る仕組みになっている。これは中国に限らず、世界中の観光地で一般的な慣行だ。それなのに、このガイドは客に「買うな」と言っている。自分の収入源を自ら断っている。
そんなリンさんは、青海省の経済状況についても包み隠さず話した。
「青海省は2024年の一人当たりGDP、全国最下位です。青海は今、中国で最も貧しい省です。でもこれは、発展できないとか、資源がないという意味ではありません」
彼女によれば、青海省には豊富な鉱物資源がある。石炭、鉄、銅、リチウム、金。しかし、これらはすべて環境保護のため採掘が禁止されているという。
「柴達木盆地には地下に豊富な鉱物資源があります。リチウム、芒硝、食塩、カリウム塩、ナトリウム塩。でも地下の鉱物質が多すぎて、地表の植生はほとんど育ちません」
また、観光への依存度もそれほど高くない。地元の人々は、観光客相手の商売に頼らなくても生きていける。
おそらくリンさんには、自分の故郷を訪れる観光客に、詐欺まがいの商品を買わせたくないという思いがあるのだろう。そして彼女自身、地元出身のガイドとして、青海省の本当の姿を伝えたいのかもしれない。
優しさと申し訳なさと
最初の目的地、日月山に近づいたとき、リンさんが私のWeChatに個別メッセージを送ってくれた。日月山の見どころ、写真撮影ポイント、そして集合場所を、簡潔な中国語で説明したものだった。
「分からないことがあったら、すぐ連絡して」
本当にありがたい。同時に、申し訳ない。彼女は35人もの乗客を相手にしているのに、私一人のために特別な時間を割いてくれている。厳しいルールを説明していた時とは打って変わって、個別対応では非常に丁寧で優しい。このギャップに、私は少し驚いた。
また、私のすぐ隣の席に座っていたのは、寧夏省から来たという若い女性だった。彼女も一人旅だという。彼女は私が戸惑う様子を見て、時々翻訳アプリを使って要点を教えてくれた。

そして日月山に着いたとき、彼女は言った。
「大丈夫。私も一人だから、一緒に行動しましょう」
本当に優しい人だ。新しい友達ができた嬉しさもありつつ、世話を焼かせてしまい少し忝ないという気持ちになった。この日、彼女がいなかったら、私は時間に遅れたり、迷子になったりしていたかもしれない。
バスが草原を抜け、青海湖に近づく間、私たちは会話を重ね、少しずつ打ち解けていた。彼女は寧夏省の銀川から来たこと、仕事で疲れたから一人で旅に出たこと、青海省は初めてだということ。私も、日本から来たこと、中国の現地ツアーに興味があったこと、中国語が完璧ではないことを話した。
「日本人なのに、よく一人で中国のツアーに参加したね。勇気あるね」
彼女は笑いながらそう言った。勇気というより、無謀だったかもしれない、と私は心の中で思った。
車内で見た「中国爆美女のストイックさ」
バスの旅で面白かったのは、観光地そのものだけではなかった。私の真後ろの席に、3人組の若い女性たちが座っていた。彼女たちは、街中で見かけることがないような爆美女で、ある意味バスの中で浮いた存在に見えた(もっとも、一番浮いているのはまともに中国が喋れない筆者であったに間違いないだろうが)。

バスが西寧市街を出て、草原地帯に入る頃。窓の外には、果てしなく続く緑の大地、山々、そして青い空が広がっている。他の乗客たちは窓に顔を近づけ、スマホで写真を撮り始める。私も必死に外の景色を眺めていた。
しかし、私の後ろの爆美女たちは、カーテンを閉めきっていた。窓を完全に塞ぎ、外の景色を一切見ようとしない。日焼けを気にしているのだろうか。16時間のツアーのうち、約9時間ほどをバスの中で過ごさなければならないと言うのに。草原も、山々も、青空も、彼女たちにとっては興味の対象ではないようだった。
途中、昼食休憩の時間になった。バスは小さな集落の食堂街に停まった。ほとんどの乗客は、バスを降りて近くの食堂で地元料理を食べに行った。しかし、爆美女たちはバスを降りなかった。食堂から戻ってバスに乗り込むと、彼女たちは座席でウィダーゼリーのような栄養補助食品を啜っていた。
一体、何をしに来たんだろう。青海省の壮大な景色にも興味がなく、地元の美味しい料理も食べない。ただバスに乗って、最低限のカロリー摂取をしているだけ。
茶卡塩湖で、すべてが明らかになった
そして、最後の目的地、茶卡塩湖に到着した。バスのドアが開く。その瞬間、爆美女たちが立ち上がった。
そして、バッグから取り出したのは、銀色に輝く頭飾り。まるで孫悟空の緊箍児か、日本のロックバンドSuperflyを彷彿とさせる派手な装飾だ。
エキゾチックなデザインのドレスを纏い、バスから颯爽と降りていく。その気合の入れように、他の乗客たちも驚いて振り返る。彼女たちは堂々と、まるでランウェイを歩くモデルのように、茶卡塩湖の入口に向かって歩いていった。

どうやら、彼女たちは最もインスタ(というより中国ではWeChatのモーメンツか?)映えする目的地の茶卡塩湖で、とにかく映えるためだけにコンディションを合わせに来ていたようだ。
道中の景色は関係ない。食事も最小限。日焼けも徹底的に防ぐ。すべては、この瞬間のために。茶卡塩湖の真っ白な塩の大地で、完璧な写真を撮るために。
中国美女のレベチなストイックさには脱帽だった。
でも、これはこれで一つの旅のスタイルなのだろう。彼女たちには彼女たちの目的があり、それを達成するための徹底した準備と我慢がある。バスツアーには三者三様の楽しみ方があるのだな、と面白く感じた。
エピローグ:ストイックさの向こうに見えた、新しい旅の形
いろいろ気を使ってくれたリンさんや、一緒に行動してくれた寧夏省の女性には、心から感謝したい。彼らのサポートがなければ、この旅は成立しなかっただろう。嬉しいと思った反面、生半可な中国語力で参加すると、周りに迷惑をかけてしまうなとも感じた。私としては、そういった事情もあり、こういったバスツアーを「おすすめ、行ってみて!」と手放しにはリコメンドできないのがもどかしい。
ただ、もし十分な準備ができるなら、このタイプのツアーは本当に面白い体験になると思う。個人旅行では絶対に味わえない、現地人との濃密な交流。効率的な観光ルート。そして何より、クセの強いガイドさんの正直すぎるアドバイス。団体ツアー、想像以上にディープだった。
もし参加を検討するなら、ボイスレコーダーとAI文字起こしアプリは必携だ。時間厳守は絶対。そして、周りの乗客に助けを求める勇気と、テクノロジーをフル活用する覚悟が必要だ。
なお、今回は主にバスツアーのシステムやルール、そしてガイドさんや乗客たちとの交流について書いたが、各観光地(日月山・青海湖・茶卡塩湖)の詳細な様子や見どころについては、また別の記事で詳しくレポートしたいと思う。
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