
最近、日本でも徐々に店舗が増えつつある蘭州ラーメン。SNSで見かけることも多くなり、気になっている方も多いのではないでしょうか。しかし、本場中国・蘭州で食べる蘭州ラーメンは、果たして本当に美味しいのか?「どうせ現地補正でしょ」なんて声も聞こえてきそうですが、今回は実際に蘭州市を訪れ、現地の人気店でその真価を確かめてきました。
蘭州ラーメンとは?中国ラーメンの代表格
蘭州ラーメン、正式には「蘭州牛肉麺」は、中国甘粛省蘭州市を代表する麺料理です。そしてただの地方料理ではありません。中国全土で「ラーメンと言えば蘭州牛肉麺」と言われるほどの国民的料理なのです。
実は、日本で「ラーメン」と呼ばれる料理のルーツも、この蘭州牛肉麺にあるという説があります。手打ち麺を熱いスープで食べるというスタイルは、まさに蘭州牛肉麺から始まったと言っても過言ではありません。中国全土、北は北京から南は広州まで、どの都市に行っても必ず蘭州牛肉麺の看板を見かけます。それだけ中国人の生活に深く根付いた料理なのです。
小話①:実は「蘭州牛肉麺」が正式名称

日本では「蘭州ラーメン」として親しまれていますが、現地では「蘭州牛肉麺(ランジョウニウロウミエン)」と呼ぶのが一般的。実はこれ、中国人でも誤解している人が多いんです。
中国全土に「蘭州拉麺」という看板の店が山ほどあります。しかし蘭州の地元民に言わせると、「いやいや、正式には蘭州牛肉麺だから!」となるわけです。この「蘭州拉麺 vs 蘭州牛肉麺」論争は、蘭州人にとってはよくある語りぐさ。プライドをかけた名称問題なんですね。
確かに、牛肉がしっかり入った料理なので、「牛肉麺」という名前の方が実態に即しています。「ラーメン」や「拉麺」という日本語・中国語がついた時点で、すでに現地とは違う料理になっているのかもしれません。
「一清二白三紅四緑五黄」に込められた美学

蘭州牛肉麺の一杯には「一清二白三紅四緑五黄(イーチン・アルバイ・サンホン・スールー・ウーファン)」という明確な美学が存在します。
一清(イーチン):清く澄んだスープ。牛骨を長時間煮込んで作られる透明感のあるスープは、蘭州牛肉麺の命とも言えます。濁りのない黄金色のスープは、何時間もかけて丁寧にアクを取り続けた証です。
二白(アルバイ):白い大根。薄くスライスされた大根は、シャキシャキとした食感がスープに爽やかさを加えます。
三紅(サンホン):赤いラー油。真っ赤な見た目は食欲をそそりますが、実は辛さだけでなく香りと風味を添える重要な役割を果たしています。
四緑(スールー):緑のニンニクの芽とパクチー。この青々とした香味野菜が、スープ全体を引き締めます。
五黄(ウーファン):黄色い麺。手打ちの麺は、コシと弾力が自慢。選べる太さのバリエーションも豊富で、極細の「毛細(マオシー)」から平打ち麺の「韮葉(ジウイエ)」まで、好みに応じて選べます。
この五つの要素が揃って初めて、本物の蘭州牛肉麺と呼ばれるのです。単なる味の追求だけでなく、色彩のバランス、そして哲学まで込められた一杯。これが蘭州牛肉麺の奥深さです。
いざ、蘭州市の人気店「磨沟沿老字号牛肉面」へ
さて、蘭州市内を歩くと、本当に至る所に牛肉麺の店があります。ちょっと大きめの通りを歩けば、必ず数軒は目に入るほど。街全体が牛肉麺で溢れていると言っても過言ではありません。地元の人々は朝から牛肉麺をすすり、昼も夜も牛肉麺。この街にとって牛肉麺は、もはや空気のような存在なのです。

せっかく本場に来たのだから、とにかく現地でも評判の店に行きたい。そこで、事前に神戸でたまに通っている蘭州ラーメン店の店主におすすめを聞いたところ、即座に「磨沟沿」の名前が返ってきました。「あそこは本物だよ」という店主の言葉に、期待が高まります。なお、正式名称は「磨沟沿老字号牛肉面(磨沟沿总店)」。
ちなみに東京にも店舗がある有名な「馬子禄」の本店も蘭州にあるのですが、東京でも食べられるしな...ということで、今回はあえて磨沟沿へ。
長蛇の列!この熱気、この混沌
午後1時頃、磨沟沿老字号牛肉面に到着。扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは人、人、人。なんと30人ほどが店舗の端から端まで、まるで龍のように列を作っているではありませんか。店内は麺を茹でる湯気と、ニンニクとスパイスが混ざり合った独特の香りで充満しています。

「一体何分待つんだ...」と一瞬怯みましたが、列の進むペースを観察していると意外と早い。厨房では何人もの職人たちが機械のように動き、次から次へと丼を完成させていきます。結局、並び始めてから15分程度で注文にたどり着けました。この回転の速さこそ、人気店の証でしょう。
独特の注文システム:まるで市場のようなライブ感

列がじりじりと前に進み、やがて注文カウンターに到着。ここで大声で注文を伝え、決済を済ませてレシートを受け取ります。周りでは中国語が飛び交い、店員の声が響き渡る。まさに市場のようなちゃきちゃきとした雰囲気です。私も負けじと声を張り上げ注文します。
このカウンターではサイドディッシュも注文可能。ザーサイやチャーシューなど、色とりどりの小皿料理が並んでおり、これが人気らしいです。しかし今回は初訪問ということもあり、まずは牛肉麺そのものに集中することに。

さらに前へ進むと、サイドディッシュのコーナーが現れます。先ほど注文した人たちは、ここで食堂形式でセルフサービスで皿を取っていきます。

そしていよいよ、厨房エリアへ突入。ここが圧巻です。職人たちが麺の塊を持ち、腕を大きく広げて引っ張り、叩きつけ、また引っ張る。バンッ、バンッという音が店内に響き渡ります。麺は見る見るうちに細く長く伸びていき、あっという間に均一な細さに。この手打ち麺のパフォーマンスを見ているだけで、期待が膨らみます。

大きな寸胴鍋では麺が勢いよく茹でられ、湯気が立ち上っています。順番が来たら、レシートをおばちゃんに渡します。すると彼女は質問を畳みかけてきました。
「麺はどうする?細い?太い?」
「ラー油入れていい?」
私は細麺で、ラー油多めと注文。するとラー油係のおにいさんは、ニヤリと笑いながら、これでもかというほどラー油をドバドバと投入。真っ赤なスープが丼の中で膜を張ります。その瞬間、後ろに並んでたおじさんから、おおっという声が。どうやら私、かなり攻めた注文をしたようです。

いざ実食!予想を覆す複雑な旨味

ついに手元にやってきた蘭州牛肉麺。湯気が顔にかかり、ニンニクとスパイスの香りが鼻腔をくすぐります。スープの表面は真っ赤で、まるで溶岩のよう。これは...ヤバいかもしれない。

震える手でレンゲを持ち、まずはスープをひとすすり。ごくり。
お、意外と辛くない!
いや、正確に言えば辛いんです。辛いんですが、日本で食べる「激辛ラーメン」のような、舌を攻撃してくる一方的な辛さではありません。ラー油の辛味の奥に、牛骨の深いコク、香辛料の複雑な香り、そしてほのかな塩味が層を成しています。辛さは確かにありますが、それは味全体を引き立てる脇役に過ぎないのです。
とはいえ、額から汗が吹き出します。背中もじんわりと熱くなってきました。しかしこの汗は不快ではありません。むしろ、体の中から温まる心地よさ。

麺をすすります。細麺は想像以上にコシがあり、スープとの絡みも完璧。小麦の香りがふわりと口の中に広がります。手打ちならではの不均一さが、逆に食感にリズムを生んでいます。
そして、ニンニクの芽。これが最高なんです。シャキシャキとした食感と、鼻に抜ける強烈な香り。日本では経験したことがないようなパンチ感。ひとすくい食べるごとに、スープの味が変化していくような感覚。パクチーの爽やかさも加わって、重くなりがちなスープに軽やかさを与えています。
牛肉は、スープの中でほろほろに煮込まれています。箸でつまむと、繊維がほぐれて口の中で溶けていきます。時々噛むと、肉の旨味がじゅわっと染み出してきて、スープにコクを加えます。台湾牛肉麺のような、大きくて硬い肉がゴロゴロ入っているタイプは個人的に苦手なのですが、磨沟沿の牛肉は主張しすぎず、でも確かにそこに存在している。このバランスが絶妙です。
白い大根もいい仕事をしています。スープの濃厚さをリセットしてくれる、いわばクレンザーのような役割。一口大根を噛むと、口の中がさっぱりして、また麺をすすりたくなります。
気づけば、汗だくになりながらも丼を空にしていました。最後の一滴までスープを飲み干したくなる衝動に駆られましたが、さすがに塩分が気になってやめておきました。でも、本当はもっと飲みたかった。それくらい、この一杯は完璧でした。
小話②:実は青海省発祥?蘭州vs青海の牛肉麺論争

数日後、青海省出身の若者と飲む機会がありました。当然、話題は牛肉麺に。すると青年は目を輝かせながら、こう言い放ったのです。
「蘭州の牛肉麺?ああ、あれね。悪くはないけど、やっぱり青海には敵わないよ」
不思議に思って理由を聞くと、彼はやや興奮した様子でこう続けました。
「蘭州の店はケチなんだよ!肉をケチる!青海の牛肉麺は、もっとたっぷり肉が入ってるんだから!」
なるほど、確かに磨沟沿の牛肉麺も、肉の量は控えめでした。でもそれがケチなのか、それとも料理としてのバランス、哲学を重視した結果なのか。
また、中国では有名な話ですが、実は蘭州牛肉麺のルーツは青海省にあるという説もあるそうです。回族の料理として青海省で生まれ、それが蘭州に伝わって現在の形になったとか。だとすれば、青海の人々が「本物は我々だ」と主張するのも理解できます。
地域によって解釈が違う、これもまた食文化の面白さですね。
とはいえ、今回磨沟沿で食べた牛肉麺は、間違いなく私の人生ベストに一杯でした。肉の量がどうであれ、あの完璧なバランスは忘れられません。
おまけ:蘭州酸奶で胃を守ろう
余談ですが、蘭州牛肉麺を食べる前に試してほしいのが、ご当地グルメの「蘭州酸奶(ランジョウスゥアンナイ)」です。蘭州の街を歩くと、あちこちでヨーグルト瓶を見かけます。蘭州ではヨーグルトがかなりポピュラーで、朝食やおやつとして日常的に食べられているようです。

甘酸っぱくて濃厚な蘭州酸奶は、それだけでも美味しいのですが、実はもう一つ重要な役割があります。ヨーグルトは胃の粘膜を保護してくれるということ。
真っ赤なラー油たっぷりの牛肉麺を、無防備な胃で迎え撃つと、後々痛い目を見るかもしれません。特に辛いものに慣れていない人は要注意。蘭州酸奶で胃を守りながら、賢く美味しく牛肉麺を楽しみましょう。
まとめ
本場・蘭州で食べる蘭州牛肉麺は、期待を遥かに超える美味しさでした。今回訪れた老舗人気店「磨沟沿老字号牛肉面」の牛肉麺は、あっさりとしたスープに程よい辛さ、ニンニクの芽のパンチ、そして繊細な牛肉。すべてが計算され尽くされた一杯です。
中国全土で愛される国民的料理、そして日本のラーメンのルーツとも言える蘭州牛肉麺。その本場で食べる一杯は、想像以上の感動を与えてくれました。
蘭州を訪れる機会があれば、ぜひ現地の牛肉麺を味わってみてください。日本で食べる蘭州ラーメンとはまた違った、本場ならではの魅力と、その土地の空気感に出会えるはずです。
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