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香港のシェアサイクルアプリ「Loco Bike」で自転車観光を楽しもう!と思ったら難が多すぎて全然使い物にならなかった

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私は海外旅行の際、各国のバイクシェアリングサービスを積極的に利用している。これまでこのブログでも、中国の「Hello Ride」やロンドンの「サンタンデール・サイクル」など、さまざまな自転車シェアサービスを紹介してきた。現地の風を感じながら街を自転車で駆け抜けるのは、観光の醍醐味の一つだ。

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そんなわけで、香港でも同じように自転車をレンタルして颯爽と街を走ろうと意気込んでいた。ところが、実際に使ってみると、想像をはるかに超える「難」の連続だったのだ。今回は、その一部始終をレポートしたい。

Loco Bikeとは

Loco Bikeは香港で展開されているドックレス型の自転車シェアリングサービスだ。2017年頃から香港でサービスを開始し、スマートフォンアプリを使って近くの自転車を探し、QRコードをスキャンして解錠、使用後は指定エリア内の任意の場所に返却できるという、いわゆる「乗り捨て型」のシステムを採用している。

このシステムは、ロンドンのサンタンデール・サイクルのように決まったドッキングステーションに返却する必要がないため、理論上はより柔軟な利用が可能だ。中国の大都市で普及したMobikeやOfoといったサービスと同様のビジネスモデルで、香港でもそのような便利さを期待していた。

料金体系は比較的シンプルで、30分単位の従量課金制と、デイリーパスやマンスリーパスなどのプラン契約が用意されている。アプリ内で支払いが完結するため、現金を持ち歩く必要もない。また、アプリは英語や中国語だけでなく、日本語にも対応しており、インターフェース面では観光客フレンドリーな印象を受ける。

香港政府も環境保護や交通渋滞緩和の観点から、自転車利用を推進する方針を打ち出しており、Loco Bikeのようなシェアサイクルサービスはその一環として位置づけられている。実際、新界(ニューテリトリー)エリアを中心に自転車専用レーンの整備も進んでおり、インフラ面でも徐々に改善が見られる。

第一の難関:SMS認証が届かない

まずはアプリをダウンロードし、アカウント登録からスタート。最初のステップは電話番号の入力とSMS認証だ。アプリは日本語にも対応しており、「これは良い予感だな」と思っていた。ところが、日本の電話番号(+81)を入力しても、一向にSMSが届かない。

何度トライしても、待てど暮らせど認証コードは送られてこない。スパムフォルダも確認したが、そこにも見当たらない。接続は問題なく、他のアプリでの通知も正常に届いているので、端末側の問題ではなさそうだ。

結局、仕方なくサブで持っている中国の電話番号(+86)を使用して、なんとかSMS認証を突破した。しかし、中国の電話番号なんて持っていない一般の日本人観光客は、既にこの時点でアカウント登録を挫折することになるだろう。これは大きな問題だ。日本語対応しているということは、日本人ユーザーも想定しているはずなのに、肝心の認証システムが機能していないというのは、サービス設計として矛盾している。

利用規約とルールの確認

SMS認証を突破した後は、利用規約への同意やルールの確認などのステップを踏んでいく。表示される説明画像には、公共の駐車場に停めること、赤色の禁止区域では停めないこと、短期駐車エリアでは24時間以内に必ず移動させること、政府の禁止区域では停めないことなどが図解されている。

ルールを見てみると、基本的には各国のバイクシェアとそう変わりはない。特に、決まった返却ポートがなく、返却可能エリアの中なら自由に返せる点は、中国のHello Rideにかなり近いシステムだと感じた。アカウント登録が一通り完了し、クレジットカードも登録。これで準備万端、あとは近くの自転車を探して乗るだけ...のはずだった。

アカウント開設完了!これで準備万端、と思いきや

第二の難関:観光エリアはほぼ全域「駐車禁止」

ところがどっこい。実際にアプリで自転車を探そうとすると、ここで衝撃の事実が判明した。香港のダウンタウン、九龍エリアや香港島には、ほとんど自転車が配置されていないのだ。それどころか、このあたりは地図上で真っ赤っ赤。全域が「駐車禁止区域」に指定されているではないか。

尖沙咀(Tsim Sha Tsui)、中環(Central)、銅鑼湾(Causeway Bay)といった主要観光エリアは軒並み禁止区域となっており、仮にどこかで自転車を借りてこれらのエリアに乗り入れたとしても、返却することができない。つまり、観光客が最も訪れたい場所では、このサービスが実質的に使えないのだ。

たしかに、少し外れた新界エリア、例えば沙田(Sha Tin)や大埔(Tai Po)などでは、禁止区域を外れ、貸し出し可能な自転車も多数ある。しかし、多くの観光客が颯爽と自転車で駆けたいのは、香港島や九龍といった中心部のはずだ。これじゃ全然意味がない!

なぜこうなっているのか:香港の都市構造と交通事情

中心部は軒並み全滅。新界での利用がメインターゲットのようだ。

ここで一つ考察を加えたい。なぜLoco Bikeは観光エリアで使えないのか。その理由は、香港の独特な都市構造と交通政策にある。

香港島九龍半島の中心部は、世界でも有数の人口密度を誇る超高密度都市だ。道路は常に車や人で溢れており、自転車が走行できるスペースは極めて限られている。また、急な坂道が多いという地形的特徴も、自転車利用には不向きだ。さらに、地下鉄(MTR)やバス、トラムといった公共交通機関が非常に発達しており、短距離移動でも効率的に移動できるため、都心部での自転車需要がそもそも低い。

香港政府としても、すでに飽和状態の都心部道路に自転車を大量に流入させることは、交通渋滞や事故のリスクを高めると判断しているのだろう。実際、過去に中国本土で急拡大したシェアサイクルサービスが、無秩序な駐輪や放置自転車の問題を引き起こした事例は記憶に新しい。香港当局はこうした事態を避けるため、厳格なゾーニング規制を敷いているものと考えられる。

どういう人に向いているのか

では、Loco Bikeは一体どういう人に向いているのだろうか。結論から言えば、香港の郊外エリアに住むローカル住民、または郊外での長期滞在者が主なターゲット層だと考えられる。

例えば、新界エリアに住んでいて、最寄りのMTR駅まで自転車で行きたい人、週末にサイクリングを楽しみたい家族連れ、あるいは大学キャンパス周辺での移動手段として利用する学生などには便利だろう。実際、地図を見ると、香港中文大学や香港科技大学の周辺エリアには自転車が多数配置されている。

また、サイクリングロードが整備されている沙田や大埔などでレジャー目的で利用するのであれば、Loco Bikeは有効な選択肢になる。これらのエリアは比較的平坦で、自転車専用道も整備されており、のんびりとしたサイクリングを楽しむには最適だ。

逆に、短期間の観光で香港を訪れ、主要観光スポットを効率的に回りたいという人には、全くおすすめできない。そもそもサービスエリア外なので使えないし、仮に使えたとしても、香港の都心部は坂道が多く、交通量も膨大で、自転車で走るには危険すぎる。素直にMTRやトラムを使った方が、安全で快適、かつ効率的だ。

まとめ

Loco Bikeは、システムとしては他国のシェアサイクルと遜色なく、アプリのインターフェースも使いやすい。しかし、日本の電話番号でSMS認証ができない問題、そして何より観光エリアでは全く使えないという致命的な制約がある。

香港政府の交通政策や都市構造を考えれば、この制約は理解できる。しかし、観光客にとっては非常に不便であり、「香港の大都会で自転車をレンタルして街を回りたい」という期待は、残念ながら叶わないと言わざるを得ない。

もしあなたが香港旅行を計画していて、シェアサイクルの利用を考えているなら、都心部観光では期待せず、郊外でのレジャー利用に限定することをおすすめする。そうでなければ、私のように期待を裏切られることになるだろう。

以上、香港のLoco Bikeに挑戦して、見事に玉砕した話でした。