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【青海省】知る人ぞ知る西寧のローカルチベットバー「诺尔布」訪問レポート

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西寧ーー青海省省都であるこの街は、チベット高原への入り口として知られている。せっかくこの地を訪れるなら、チベット文化を肌で感じたい。

渡航前、小紅書(シャオホンシュー)をスクロールしていると、一枚の写真が目に飛び込んできた。暖色の照明に照らされた、唐卡(タンカ)や銅製の法器が飾られた空間。チベット絨毯の上に並ぶ色とりどりのクッション。そして、大きなチベタンポットに注がれた奇妙な飲み物。

「诺尔布藏族风情酒吧」

その名前を見た瞬間、このバーに行くことを決めた。诺尔布(ノルブ)とは、チベット語で「宝物」を意味する言葉だという。

15年の歴史を持つ、チベタン文化の聖地

夏都大街の夏都家園東区北門のそば。高徳地図を頼りに歩いていくと、通りから少し引っ込んだ場所に、目を引く看板が見えてきた。チベット文字と漢字で書かれた「诺尔布」の文字。ドアの前に立つと、すでにチベット文化の香りが漂ってくるようだった。

この店は2011年の春に開店し、今では15年もの歴史を刻んでいる。営業時間は14:00から深夜2:00まで。メニューに書かれていた店の紹介文には、こんな言葉があった。

「诺尔布,是时间的珍宝,也是我们对彼此的纪念」

時間の宝物であり、お互いを記念するもの。その言葉の意味を、この夜、私は深く理解することになる。

入店

この夜、私は一人でバーの扉を開けた。時刻は夜9時頃。まだ西寧の夜が本格的に始まる前の時間帯だったのか、店内には客がほとんどいなかった。

気さくでおしゃれなオーナーが、笑顔で迎えてくれた。30代半ばくらいだろうか。チベット族特有の彫りの深い顔立ちに、どこか都会的な洗練さが加わった雰囲気の持ち主だ。

中国では、一人で飲みに出かける文化はあまり一般的ではないと思われがちだ。だが、このバーは違った。店内の各テーブルはアンニュイな装飾で彩られた半個室スタイル。一人でふらりと訪れても、誰にも気兼ねすることなく、自分だけの時間を過ごせる空間だった。実際、私の後にも地元の若者が何人か、一人で入店してきた。読書をする人、スマホをいじりながら静かに飲む人。それぞれが思い思いの時間を過ごしている。

店内探検:チベット文化の宝庫

注文する前に、まずは店内を見て回ることにした。

壁一面に飾られた唐卡(タンカ)。チベット仏教の仏や菩薩、マンダラが描かれた布製の掛け軸だ。その隣には、銅製の法器や経筒。階段の壁には、世界中からの訪問者が残した絵葉書や絵画がびっしりと貼られている。

店内の一角には小さな土産物コーナーがあり、チベットのアクセサリーが販売されていた。銀製のブレスレットやイヤリング。どれも職人の手で丁寧に作られたことが伝わってくる品々だ。

天井からは五色の経幡(タルチョ)が下がっている。どこかレトロで、それでいてサブカルチックな雰囲気。民族文化と現代的な感性が絶妙に融合した空間に、私はすっかり心を奪われていた。

注文:チベット文化の「黄金トリオ」

席に戻り、メニューを開く。事前にレビューをじっくり読み込んでいた私は、すでに注文するものを決めていた。

康巴酥油茶(ヤクのバターミルクティー)一壺、自酿青稞酒(チャンとも)、それと糌粑(ツァンパ)。

スタッフが笑顔でうなずき、その組み合わせは完璧だと言われた。チベット文化の黄金トリオらしい。

メニューの説明ページを見ると、康巴酥油茶について「藏式奶茶是藏族同胞每日数杯不离口的飲品」とある。チベット族の人々が一日に何杯も飲む、生活に欠かせない飲み物だという。生津止渇、提神醒脳、解除疲労、抵御厳寒といった効能が記されている。自酿青稞酒については「青稞甜酒藏語叫做"羌qiang"」と説明があり、青稞(大麦の一種)を醸造した酒で、藏族人民が最も好んで飲むものだという。正月や祭り、結婚式や誕生日には欠かせない存在らしい。

濃厚なる罪悪感

注文を終え、ドリンクが運ばれてくるのを待つ。10分ほどすると、まず酥油茶が到着した。

運ばれてきたのは、想像以上に大きなチベタンポット。金属製で、表面には精巧なチベット文様が彫られている。そして、鮮やかな黄色地にチベット柄が描かれたティーカップ。一人で飲むには明らかに多すぎる量だ。ポットには1リットル近く入っているだろうか。だが、この大きなポット自体が、すでに一つの体験だった。

カップに注ぐと、クリーム色のバター茶がとろりと流れ出る。ヤクのバターとミルクを使用しているという。湯気とともに立ち上る香り。爽やかでありながら、濃厚にミルキー。そして、わずかに感じる塩気の気配。

一口、口に運ぶ。濃厚。圧倒的に濃厚だ。バターの脂肪分とミルクの甘み、そしてほんのりとした塩味が、口の中で複雑に絡み合う。良い意味で罪悪感を感じる味わい。カロリーなんて気にしてはいけない。これは、標高2000メートルを超える高原で、厳しい寒さと戦いながら生きる人々の命の飲み物なのだ。

それでいて、不思議とくどくない。後味は意外にさっぱりしていて、むしろもう一口、もう一口と、ついつい飲み進めてしまう。体の芯から温まってくる感覚。これがチベット高原で何千年も飲み継がれてきた理由なのだと、体が理解した。

青稞酒の意外なまろやかさ

バター茶に夢中になっていると、残りの注文品も到着した。自酿青稞酒。そして糌粑。

青稞酒は一合瓶に入り、ティーカップと同じ黄色ベースのチベタン柄が描かれた陶器のグラスとともにやってきた。グラスの中に注ぐと、酒は清らかで透明だ。

事前情報では、青稞酒はアルコール度数が高いと聞いていた。中国の酒は容赦ない。白酒(バイジウ)なんて、アルコール度数50度超えが当たり前だ。心して飲まねば。

意を決して、ぐいと一口。意外だった。想像していたよりもずっと飲みやすい。生々しい発酵の香りが鼻腔をくすぐるが、アルコール自体は柔らかい。酸味と甘みがあって、見た目の透明さに反して、どこか濁りを感じる複雑な味わい。体感だと7%くらいだろうか。日本の地酒くらいの感覚だ。飲み進めると、ほんのりと青稞(大麦の一種)の穀物感が口の中に広がる。これなら、ゆっくり楽しめそうだ。

それにしても、この陶器のグラスは本当に美しい。暖色の照明を受けて、黄色の地にチベット柄が浮かび上がる。その見た目を肴に、ついつい杯が進んでしまう。

修行僧の気分

そして、糌粑。チベット族の主食であるこの食べ物は、青稞(大麦)を炒って粉にしたものを、バターと混ぜて固めたものだという。見た目は薄茶色の棒状で、まるで固めたきな粉のよう。一口かじってみる。

圧倒的にパサパサだ。口の中の水分が一瞬で持っていかれる。噛めば噛むほど、青稞の素朴な味わいが広がるが、とにかく乾燥している。これは、バター茶なしでは攻略不可能だ。

糌粑を一口かじり、すぐにバター茶を流し込む。すると、口の中で糌粑が柔らかくほぐれ、バター茶の脂肪分と混ざり合って、なんとも言えない一体感が生まれる。なるほど、これが黄金トリオの意味か。バター茶と糌粑は、切っても切れない関係なのだ。

ストイックな味わいではあるが、不思議と食べ進めてしまう。修行僧になった気分だ。チベット高原で暮らす人々は、毎日これを主食として食べているのだろうか。そう考えると、なんだか胸が熱くなった。

思いがけない出会い

一人で飲み切れないバター茶をチェイサーに、ちびちびと青稞酒を飲んでいた。店内には穏やかなチベット音楽が流れている。

そのとき、突然声をかけられた。振り向くと、同年代くらいの若い男性が立っていた。20代後半だろうか。人懐っこい笑顔が印象的だ。僕もバター茶と青稞酒を注文したんだけど、思ったより多くて。よかったら一緒に飲んでくれないか、と。

こういう交流は大歓迎だ。ただ、私も今、同じ問題を抱えている。私のテーブルを指差すと、同じく大量のバター茶と青稞酒が鎮座している。彼は大笑いした。じゃあ、一緒にこの問題を解決しましょう、と彼は自分のドリンクを持って、私のテーブルに座った。

よそ者同士の交乾杯

仮にミンさんとしておこう。彼は出張で数か月、西寧に滞在しているという。西安出身で、仕事の関係でこの地に来た。ここに来るのも初めてで、地元の同僚に勧められて訪れたとのこと。日本から来たんですか、とびっくりされたが、よそ者同士じゃないか。我々は意気投合した。

ミンさんが注文していた酸奶干(ヨーグルト干)を分けてもらう。白い塊状のもので、見た目はチーズのよう。一口食べてみると、糌粑よりずっと食べやすい。ヨーグルトを凝縮したような濃厚な酸味と、ほんのりとした甘み。そして、適度な塩気。これは酒のつまみに最高だ。糌粑は…ちょっと難しいですよね、とミンさんも苦笑していた。やはり現地の人でも、糌粑は修行の味なのだろう。

青稞酸奶甜酒と悪知恵

話も盛り上がり、すっかり青稞酒を飲み干してしまった。もう一杯いきましょうか、と今度は青稞酸奶甜酒を追加注文。こちらも強いのだろうか、と期待したが、運ばれてきたのは白濁した液体。ポットに入っているが、見た目は完全にヨーグルトドリンクだ。

あっと言う間に飲んでしまい、写真すら撮り忘れてしまったが、容器までほぼヨーグルト

一口飲んでみると、味もほぼヨーグルトドリンクだった。意外なほど飲みやすい。酸味があって、甘みがあって、とろりとした口当たり。アルコールはほとんど感じない。かなり弱いようだ。ミンさんにもお酌をし、二人であっという間に飲み干してしまった。

ここのお酒、かなり弱いですね、とミンさんが笑いながら言った。確かに、中国のアルコールといえば白酒の強烈なイメージがあるが、ここの酒はどれも優しい。

そのとき、ミンさんの目がキラリと光った。ちょっと待って、いいアイデアがあります、と彼はカバンから小さなボトルを取り出した。

白酒だ。これを混ぜたら、もっとおいしくなるかもしれませんよ、と。なんという悪知恵。だが、これは試してみる価値がある。

ミンさんは残りの青稞酒に、白酒を少量混ぜた。グラスに注いで、私に差し出す。一口飲んでみる。当然強烈だ。だが、確かにこれで中国のアルコールという感じになった。青稞酒のまろやかな甘みと、白酒のパンチが絶妙に融合している。喉を通るときの刺激が、なんとも心地よい。

思いがけない贈り物

気づけば、時計は深夜を回っていた。翌日、早朝集合の日月山・青海湖・チャカ塩湖周遊ツアーを控えていた。心残りだが、ここでお別れだ。ミンさんと握手を交わし、WeChat(微信)を交換した。

カウンターで会計を済ませようとしたとき、オーナーが呼び止めた。ちょっと待って、と彼は奥から小さな経筒を持ってきた。手のひらサイズの、銅製の筒だ。これ、あげます。記念品です、と。

マニ車ーー正式には転経筒と呼ばれるこの仏具は、チベット仏教において重要な意味を持つ。筒の中には経文が納められており、一回転させることで経文を一度唱えたのと同じ功徳があるとされている。チベット文化圏では、人々が手に持って回しながら歩く姿をよく見かける。

エキゾチックで美しいマニ車。手に取ると、ずっしりとした重みがある。回してみると、カラカラと心地よい音がした。

実は、この日は私の誕生日だった。中国に一人旅をしに来て、一人で誕生日を過ごす予定だった。まさか、現地の若者と一緒に飲み、祝ってもらい、店主から誕生日プレゼントまでもらえるとは思ってもみなかった。言葉にならない感謝の気持ちを込めて、深々と頭を下げた。

まとめ:诺尔布が教えてくれたこと

诺尔布藏族风情酒吧は、単なるバーではない。ここは、チベット文化の宝物が詰まった場所であり、旅人たちが出会い、物語を紡ぐ場所だ。バター茶の濃厚な味わい。青稞酒の優しいアルコール。糌粑の素朴な食感。そして、人との出会い。

一人で訪れても、決して孤独ではない。むしろ、一人だからこそ、この空間が持つ温かさを深く感じることができる。もしあなたが西寧を訪れる機会があれば、ぜひこのバーに足を運んでほしい。夕方の静かな時間に一人で本を読むもよし、異邦の友人と語らうもよし。

そして、康巴酥油茶と自酿青稞酒と糌粑を注文してほしい。黄金トリオが、あなたをチベット文化の深淵へと誘ってくれるはずだ。

店舗情報

- 店名:诺尔布藏族风情酒吧(城東区夏都大街店)

- 住所:夏都家園東区北門旁(夏都家園東区北門の隣)

- 電話:(0971)8298008 / 18809781030

- 営業時間:14:00-02:00

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