前回、困難を乗り越えてたどり着いた漁村で、村の爺さんの案内によりクリントンの建物を見学できた。そして爺さんが筏を持っているという。山道を戻るリスクを考えれば、筏で川を下って興坪へ戻れれば圧倒的に速いはずだ。高鉄の時間まで残り約1時間半。果たして間に合うのか。最終編では帰路の予想外の顛末をお伝えする。
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港での金額交渉

港へ到着し、筏の持ち主と思われるおばさんと何やら交渉を始める爺さん。おばさんから筏を借りつつ、爺さんが興坪へ連れて行く模様だ。そして爺さんが値段を言う。「200元でいいか?」
思ったよりかなり高い。おそらくモーター付き筏で15分程度の川登りのはずだが、そんなに掛かるのか。もしかして観光客だからと足元を見られているのだろうか。とは言えこちらも時間がなくなってきており背に腹は代えられない。少し強気で「それは高すぎる、100元で」と迫ってみる。
少し悩んだ爺さんは「190元でどうか」と返す。思ったほどの値下げはなかったが仕方ない。もしかしたら何か理由があるのか。

荷物を一通りまとめて、いよいよ筏に乗るというときに、爺さんが「車で行くけど良いな!」と言ってきた。筏で興坪まで川登りをするんじゃないのかと不思議に思ったが、まあ細かいことを突っ込んでも仕方ない。時間内に帰れればそれでいいので「大丈夫」と回答した。
あっという間の筏旅

爺さんは年に見合わぬ軽い足取りでひょいひょいと電動筏に乗り手招きする。続いて筏に乗る。遇龍河で乗った竹筏とは異なり、浸水のリスクが少なそうな電動筏だ。

そう言えばこのタイプの筏に乗って鵜飼漁業をしている鵜飼を大河背で目にした。伝統的な鵜飼の姿とは少し異なるが、今でもテクノロジーを駆使しながら鵜飼が存続しているというのは興味深い。ちなみに昨晩の夕食には、実際に漓江で獲れた小魚をいただいたが、陽朔名物のビール魚とはまたベクトルの異なる非常に美味しい料理だったので、興坪を訪れる際には是非ともチャレンジしていただきたい。

爺さんは錨をあげ筏を離岸、そしてエンジンを付けて発進した。どんどん遠くなっていく漁村。このまま川の向こうに漁村が消えていくのだろうかと筏に揺られながら淋しく思う。


と、つかの間。筏は川に沿った方向ではなく川に垂直に進んでいるではないか。そしてそのまますぐ対岸についた。え、向きでも変えるのかと思ったらそのまま錨を下ろし下船する爺さん。「早く早く」と手招き。

なんと筏旅はたった100メートル程度、漓江の対岸に渡っただけだった。もしかして騙されているのか。
トリッキーな復路乗継ぎ

そう思ったが実は違ったようで、そのまま爺さんは手招きし対岸の村、元宝榨という対岸の村落の中へと進んでいく。何もわからずついていくこと5分、ちょっとした集落の中に三輪トラック、いわゆるトゥクトゥクが停まっている。

なるほど、このとき完全に理解した。爺さんがなぜ車と言っていたか。おそらくこの地域はやはり規制が厳しく、観光許可を受けていない筏が観光客を乗せて漁村から興坪まで漓江を行き来するのはダメなのだ。代わりに対岸まで筏で渡し、そこから陸路で興坪(正確にはその対岸の大河背)まで、という算段だろう。なるほど、その手間を考えたら確かに200元も決して高すぎはしないかもしれない。

しかししばらく使っていない三輪車だったのか、爺さんはサラダ油のボトルに入ったガソリンを三輪車に注ぎ、エンジンを付けてああでもないこうでもないと調整をする。隣にある家が爺さんの家なのか、家の水道から水を汲んできてはガソリン口にだぼだぼと注ぐ。

大丈夫なのだろうか。ガソリンに対し相当の量の水を入れているがこんなので走れるのか。その後何度かエンジンをかけるがうまくいかない。また家に戻って水を汲んでくる。そしてまた注ぐ。何度も家に帰っては水を持ってきて注いで、という様子に、だんだん時間もなくなってきて焦り出す。

時計を見ると14時を過ぎている。高鉄の出発まで1時間半を切った。大丈夫だろうか。やっと三輪車のエンジンがかかった。
山道を三輪車で
爺さんがアクセルを踏み込みエンジン音を立てて三輪車が走り出す。
さて、いざ三輪車が発進したのだがこれがとにかく遅い。山道だからなのか時速20キロ程度しか出ない。このままだと間に合うだろうか。もしかして歩きで山道を戻ったほうが早かったか。そんな不安が頭をよぎる。

道は舗装されているが山道特有のカーブが続く。三輪車は左右に揺れながら進む。時折対向車とすれ違う。バイクや電動車が多い。爺さんは慣れた手つきでハンドルを操る。
そんな中、30分ちょっとほどの山道をアップダウンを繰り返しながら進んでいく。標高が上がるにつれて景色が開けてくる。振り返ると漓江が見える。あの川の向こうに漁村がある。あの山道を歩いて越えてきたのだと思うと、改めて困難な道のりだったと実感する。
やがて頂上付近を越え下り坂に入り、スピードが上がる。三輪車が揺れる中、荷台につかまりながら時計を確認すると時間はギリギリだった。
途中、雨が降り出した。横殴りの雨をかぶりながら山を進む。荷台には屋根がないため容赦なく雨がかかる。
しかしこの雨が往路に降らなくて良かった。もし往路で雨が降っていたらあの山道は完全にぬかるんで歩行不可能だっただろう。果樹園での迷走もさらに困難を極めたはずだ。タイミングに感謝する。
大河背到着――そして興坪へ
しばらくして見覚えのある道に出た。ちょうど今朝まで泊まっていた大河背、朝に散歩をしたあたりの道が見えてきた。いよいよ港が近づいてきた。

港の手前で爺さんは車を止める。そして「興坪に行くには先の港で渡し船に乗りなよ」と指示してくれた。すでに何度もこの渡し船は渡っているから知っている。ありがとう。足早にお礼を告げて手を振って走って港へ行く。
本当にギリギリだったがおかげさまで何とか港までたどり着け、その後スムーズに川を渡って興坪へ行くことができた。無事タクシーも捕まえ、時間内に陽朔駅へたどり着くことができた。

総括ーーこの旅を振り返って
興坪漁村への旅は想像以上に困難なものだった。地図にない道、1時間の迷走、水の枯渇、体力の限界。しかしそのすべてを乗り越えてたどり着くことができた。
山の上から見た漓江の絶景。500年の歴史を持つ古村の静寂。親切な爺さんとの出会い。クリントンが立った場所に立った感動。そして文旦の味。筏と三輪車での帰路。
これらすべてがこの旅の報酬である。
漁村を訪れる方へ
最後にこれから漁村を訪れようと考えている方々へ、この旅を通じて得た教訓をまとめておく。
時間に余裕を持つことが最も重要である。片道2時間、往復4時間、村での滞在2時間として最低でも6〜7時間は確保するのが理想的だ。その日のうちに次の場所へ移動するような計画は避けるべきである。可能であれば興坪か陽朔に宿泊し丸一日を漁村訪問日に充てることを強く推奨する。
荷物は最小限にすべきだ。12キロのバックパックは明らかに重すぎた。急な斜面を登る際この重さが大きな負担となった。カメラ機材やドローンを持ち込みたい気持ちは分かるが、体力と相談して本当に必要なものだけに絞るべきである。そういった意味でも、興坪近くに宿をとり、荷物を置いた上で訪れるのが得策だろう。
ドローンは有効である。今回道に迷った際ドローンが救世主となった。上空から道を探せるのは大きなアドバンテージである。ただし、中国国内でドローンを飛行するにあたって、しかるべき事前準備を済ませること。また、飛行には十分注意すること。
帰りのルートも考えておくべきだ。今回は幸運にも爺さんが筏と三輪車で送ってくれたがこれは保証されたものではない。山道を往復する覚悟で計画を立てるべきである。もし村で筏の手配を頼める機会があれば積極的に交渉してみると良いだろう。ただし規制があるため直接興坪まで行けるとは限らない。
そして一人で行かないことを推奨する。可能であれば複数人で行くべきだ。道に迷った際、二人いれば一人が道を探しもう一人が待機するといった役割分担ができる。また万が一怪我をした際にも助けを求めやすい。
興坪漁村は到達困難な秘境である。しかしその困難を乗り越えた者だけが味わえる特別な体験がそこにはある。もしあなたが冒険心を持ち困難を厭わず本物の体験を求めるのであれば、興坪漁村への挑戦をおすすめする。
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