
チュニジア南部を旅していると、どうしても避けて通れないのがスターウォーズの存在だ。
この国には映画『スターウォーズ』シリーズの撮影地が点在しており、今も多くのファンが聖地巡礼に訪れている。特に有名なのが、マトマタ地方にある「Hotel Sidi Driss」。主人公ルーク・スカイウォーカーが育った家(内部)として撮影された場所で、もともとはベルベル式伝統洞窟住居なのだが、今はホテルやレストランとして改装されている。
スターウォーズファンはもちろん、ファンでなくとも、チュニジア南部を旅するなら、この独特な穴居住宅の文化は見ておくべきだろう。スターウォーズ云々を抜きにしても、マトマタの伝統的な住居様式は建築学的にも興味深い。
そんなわけで、メドニンからレンタカーを走らせ、Sidi Drissを目指すことにした。
◎別記事で、アナキン・スカイウォーカーの家「Ksar Hadada」の訪問レポートについても執筆しているので、是非合わせて読んでみてください。
マトマタのトログロダイト住居とは
チュニジア南部には、大きく分けて二つの特徴的な伝統建築が存在する。
一つは、タタウィン周辺に見られる「クサール」と呼ばれる要塞型の穀物倉庫群。もう一つが、マトマタ地方に特徴的な「トログロダイト(Troglodyte・あるいはトログロディットとも)」と呼ばれる穴居住宅だ。

トログロダイトとは、「洞窟に住む人」を意味するギリシャ語に由来する言葉で、地面を垂直に掘り下げて作られた住居様式を指す。クサールが地上に積み上げる建築であるのに対し、トログロダイトは地下に掘り下げる建築。全く異なるアプローチで、同じ砂漠地帯の厳しい環境に適応している。
その構造は驚くほど合理的で、まず、地面を円形に10メートルほど掘り下げ、中庭を作る。そして、その中庭を囲む壁面に、横穴を掘って居住空間や貯蔵庫を作る。さらに複数の中庭を地下通路でつなぐことで、一つの家族や集落が機能するのだ。
砂漠地帯では、日中は40度を超える灼熱、夜は10度以下まで冷え込むという極端な温度差がある。だが、地下に掘られた住居は、土の断熱効果によって年間を通じて安定した温度を保つことができる。夏は涼しく、冬は暖かい。エネルギーを使わない究極のエコ住宅とも言える。
現在でも、一部のベルベル人家族は伝統的なトロダイト住居で生活を続けているが、多くは観光業へと転換している。Sidi Drissもその一つで、かつては実際に人々が暮らしていた住居を、ホテルとして運営している。
メドニンからマトマタへ

今回、マトマタへはレンタカーでアクセスした。メドニンの街を出ると、景色は一気に荒涼とした大地に変わる。
道路沿いには時折オリーブの木が見えるものの、基本的には茶色い岩肌と乾いた土が広がるばかり。チュニジア北部の風景とはまた違う、これぞ砂漠地帯という光景だ。
車を走らせること約1時間半。徐々に起伏のある地形になり、丘陵地帯に入っていく。そして突如として、地面に大きな穴が開いているような奇妙な風景が目に飛び込んでくる。これがマトマタのトログロダイト住居だ。

地上から見ると、ただの窪地にしか見えない。だがその窪地の周囲には、洞窟のように掘られた部屋が存在している。まるで地面が突然口を開けているかのような、不思議な光景だ。
道路沿いにも、いくつかのトログロダイト住居が点在している。今も実際に人が住んでいるものもあれば、観光用に改装されたものもある。中には、崩れかけて放棄されたものも見られる。

マトマタに近づくにつれ、観光地の雰囲気が強くなってくる。案内標識が増え、お土産物屋の看板が目立ち始める。そして、Sidi Drissへの案内標識も現れた。
Sidi Driss到着
マトマタの集落に入ると、案内標識に従ってSidi Drissへ向かう。
駐車場に車を停めると、近くには観光バスが停まっていた。欧米からのツアー客が多い様子。スターウォーズの人気は世界共通なのだと、改めて実感する。

入口に近づくと、まず目に飛び込んでくるのが圧倒的なスターウォーズ押しの装飾だ。
白い壁には「SIDI DRISS」の文字と共に、巨大なスターウォーズのロゴ。そしてその周囲には、映画に登場する宇宙船やキャラクターのイラストや装飾が所狭しと配されている。青い三角形の壁面には、ライトセイバーやストームトルーパーのヘルメットまで飾られていた。

ここまでやるかというほどの徹底ぶりに、思わず苦笑いしてしまう。伝統的なベルベル建築を見に来たはずなのに、完全にスターウォーズのテーマパークと化している。ベルベルの古き良き暮らしを覗き見てみたかったのだが、果たしてマトマタ訪問は吉と出たか凶と出たか?
次回予告
メドニンからの車旅を経て辿り着いたのは、これでもかってくらいのスターウォーズ空間。今のところちょっと作り物感が濃すぎる予感?果たして伝統的な洞窟生活を垣間見ることはできるのだろうか。乞うご期待を!
