前回は、陽朔の官邸民宿での宿泊体験についてお伝えした。
今回は、この宿泊の拠点となった旧県村(Jiùxiàn Cūn)の散策についてレポートしていこう。
旧県村とは:1400年の歴史を持つ古村

旧県村(旧县村)は、陽朔県白沙鎮に属する小さな村で、遇龍河沿いに位置している。その歴史は唐代の武徳四年(西暦621年)にまで遡る。当時、ここは帰義県の県城(県の中心地)があった場所で、それが「旧県(古い県城)」という名前の由来だ。
つまり、この村は1400年以上の歴史を持つことになる。現在は静かな農村だが、かつては地域の行政・経済の中心地だったのだ。
陽朔県城(西街エリア)からは約7〜8キロ。電動スクーターで走れば15〜20分程度の距離だ。遇龍河沿いの田園風景を楽しみながら走ると、あっという間に到着する。
陽朔中心エリアからは少し距離があるため、観光客は少なく、ありのままの農村生活が垣間見れる点が魅力の、まさに「隠れた名所」なのだ。
散策の拠点:阳朔官邸から出発

散策は、宿泊している「阳朔官邸精品酒店」を拠点にスタートした。この官邸自体が旧県村の名物建築の一つで、日帰り観光客も訪れる有名な場所だ。150年前の清朝末期に建てられた本物の官邸で、現在は精品酒店(ブティックホテル)として運営されている。
門をくぐると広がる前庭、奥庭をぐるりと囲むロの字型の水路、木造の梁と青レンガの壁。ここに泊まれば、朝も夜も、この歴史的建築をじっくりと味わえる。
村の構造:舗装道から石畳の古き良きエリアへ

村の中心部は舗装された道路で、電動バイクで走る地元の人、道を横切るアヒルの群れ、そして遠くに見えるブーゲンビリアに彩られた古民家。のどかな農村の日常がそこにある。
しかし、鐘楼から奥の裏路地に入ると、雰囲気が一変する。石畳の古き良きエリアに入るのだ。

狭い石畳の路地、苔むした壁、古い木製の門。そして、赤い提灯に照らされたアーチ型の門。まるでタイムスリップしたような感覚になる。ここが本当の旧県村だ。
二つの名家:毛氏と黎氏
旧県村を理解する上で重要なのが、この村を代表する二つの一族、毛氏と黎氏の存在だ。

毛氏は村の原住民で、宋代(960-1279年)にはすでに文風が盛んで、人材を多く輩出していた。明朝の陳璉が著した『桂林郡志』には、宋代の人物・毛倫が「陽朔の仙桂の人」として記載されている。毛氏宗祠は「旧式祠堂」と呼ばれ、古い形式を今に伝えている。
一方、黎氏は後から移住してきた一族だが、清代に多くの官僚や文人を輩出し、村の発展に大きく貢献した。科挙試験で進士に合格した黎近良、両広巡撫(広東・広西地域の高級官僚)を務めた黎桂生、黎鳳梧などがその代表だ。黎氏宗祠は「新式祠堂」と呼ばれ、保存状態が良く知名度も高いため、多くの観光客が訪れる。
毛氏宗祠を訪ねる
「毛氏宗祠」に入ってみた。

門をくぐると、広い中庭。そして奥には祖先を祀る祠堂がある。天井には木製の梁が露出しており、細かな彫刻が施されている。「旧式祠堂」という呼び名の通り、古い建築様式がそのまま残されている。

壁には「旧県民居 - 陽朔県登録保護の不可移動文物」というプレートが掲げられていた。つまり、この建物は文化財として正式に保護されているのだ。
毛氏は旧県村で最も古い一族。この宗祠は、村の長い歴史を今に伝える貴重な建築だ。
黎氏宗祠:村で最も有名な建物
「黎氏宗祠」は、村の中心付近にある立派な建物だ。

門の両脇には、金色の文字で書かれた対聯(ついれん、対になった詩句)が掲げられている。門をくぐると、広い中庭には盆栽が置かれ、丁寧に手入れされているのがわかる。

中庭の一角に桂花酒などの特産品が並べられていた。大きなペットボトルに入った桂花酒、そして袋詰めの乾燥桂花。どれも手作りの素朴な雰囲気だ。

無人販売のようで、スタッフはいなかったが、宿で飲んだ桂花酒が美味しかったので、ここで買って帰るのもいいかもしれないと思った。
祠堂の入口には、村人たちが腰掛けて談笑している。隣の宅院にも村民が集まっている。門口の敷居には大きな黄色い犬が寝そべっている。旧県村の時間は、ゆっくりと、のんびりと流れている。
夜の旧県村:ライトアップされた古民居

特に美しいのは夜の旧県村だ。日が沈むと、古民居が一斉にライトアップされる。
赤い提灯が灯り、石畳の路地が柔らかな光に包まれる。アーチ型の門をくぐると、その先にまた別のアーチ型の門が見える。まるで迷路のように、古民居が院院相通、戸戸相連(中庭で繋がり、家同士が連結している)構造で繋がっている。
石段を上がり、アーチ型の門をくぐる。その先には中庭があり、さらにその奥にまた別の門がある。隣の中庭とつながっているのだ。この複雑な構造こそ、清代の官邸建築の特徴だ。
古民居の再利用:民宿、カフェ、茶館へ
旧県村の古民居の多くは、現在では民宿やカフェ、茶館に改装されている。

特に有名なのが「秘密花園」だ。南アフリカ人のオーナーが20軒以上の家主を説得し、6棟の古民家を借り上げて作り上げたという。
最初は裸足で自ら作業し、最終的には村の人々と協力して独自の「秘密花園」を完成させたという逸話も残っている。この民宿は村の奥深くに位置しており、まさに「秘密」の名にふさわしい。

鐘楼の周辺には、「葛縣老茶館」といった施設も点在している。どれも古民居の外観をそのまま保ちながら、内部は快適に改装されている。
門をくぐると、中庭には木製の椅子とテーブルが置かれ、壁には伝統的な絵画が飾られている。天井からはランタン型のライトが下がり、柔らかな光を放っている。
これらの施設は、単なる観光客向けの店ではなく、地元の人々も利用する生活の場だ。民宿の外院は一般にも開放されており、自由に見学できる。心配せず、気軽に入ってみるといい。
のどかな村の風景

村を歩いていると、地元の人々の日常が垣間見える。電動バイクで買い物に出かける人、軒先で談笑する老人たち、桂花を詰む女性たち。そして道を悠々と横切るアヒルの群れ。

特にアヒルの群れは印象的だった。3羽のアヒルが首を伸ばして、まるで行進しているかのように道を横切っていく。また、別の場所では道の真ん中でアヒルの親子が団子になって日向ぼっこを楽しんでいる。背後には古民家とカルスト山が見える。この光景こそ、旧県村の日常だ。
泊まるからこそ見えるもの
最後に。旧県村は、バスツアーのルートに含まれることもあり、日帰り観光客も訪れる。彼らは村を歩き、写真を撮り、30分から1時間程度で次の目的地へ向かう。
しかし、宿泊客はこの村の本当の姿を見ることができる。朝の静けさ、村人たちの日常、夜のライトアップされた古民居、そして遇龍河から聞こえる水の音。電動スクーターがあれば、朝早くから遇龍河沿いをサイクリングしたり、近くの遇龍橋や富里橋を訪れたりすることもできる。
旧県村を拠点にして、遇龍河エリアをじっくりと探索する。それは、単なる観光ではなく、歴史と文化に触れる旅となる。このエリアを訪問する際には、是非一泊し、ゆったりと村の様子を楽しんで頂きたい。