
中国の街を歩いていると、時折不思議な光景に出くわす。路上に並ぶ露店で、見慣れない緑色の物体が山積みにされているのだ。よく見ると、表面には無数の穴が開いており、独特の模様を形成している。これが「蓮蓬」(lián peng)――蓮の実が入った花托部分だ。
日本では蓮といえば、レンコン(蓮根)を思い浮かべる人が多いだろう。しかし中国では、蓮の実も日常的に食べられている。特に夏から秋にかけて、路上の露店でこの生の蓮蓬が売られる光景は、中国の都市部ではごく普通の風景だ。
今回は蘭州の路上でこの蓮蓬を購入し、実際に食べてみた体験をレポートする。
中国の蓮食文化――実も根も花も食べる

中国における蓮の食文化は非常に古く、紀元前から食用として栽培されてきた歴史がある。日本で一般的なレンコン(蓮根)はもちろんのこと、蓮の実、蓮の葉、さらには蓮の花まで、蓮のあらゆる部分が食材として利用されている。
蓮子(lián zǐ)と呼ばれる蓮の実は、乾燥させてスープやデザートの材料として使われることが多い。月餅の餡や、薬膳スープ、甘いデザートスープなど、用途は多岐にわたる。漢方薬としても重宝され、安眠効果や滋養強壮の効能があるとされている。
一方、蓮蓬(lián peng)は蓮の実が入ったままの花托部分で、旬の時期には生のまま路上で販売される。中に入っている若い蓮の実を取り出して、そのまま生で食べるのが一般的だ。
夏から秋にかけての旬の時期になると、中国の各都市の路上や市場で、この蓮蓬を売る露店が現れる。庶民的な食べ物として親しまれている。
蘭州の路上で蓮蓬を買ってみた
9月中旬、蘭州の街を歩いていると、路上に蓮蓬を売る露店を見つけた。

リヤカーのような台車に、鮮やかな緑色の蓮蓬が山積みにされている。看板には「莲子」の文字と「清热去火」(熱を冷まし火を下げる)という効能が書かれている。売り手は中年の男性で、道行く人々に声をかけながら商売をしていた。
近づいてみると、蓮蓬の表面には無数の穴が開いており、その中に蓮の実が入っているのが見える。初めて見る人には、やや奇妙な見た目かもしれない。実際、この蓮蓬の模様を見て不快感を覚える人もいるという(トライポフォビアと呼ばれる症状)。
値段を聞くと、1つ5元とのこと。試しに1つ購入してみることにした。売り手がビニール袋に蓮蓬を1つ入れて手渡してくれた。

地元の人々が次々と購入していく様子を見ると、確かに日常的な食べ物なのだと実感する。
購入した蓮蓬を持って、蘭州から列車で次の目的地へ向かうことにした。車内で食べてみようと思ったのだ。
蓮の実の食べ方――車内で実食

列車の座席に座り、購入した蓮蓬を取り出した。一緒に買っておいたお茶も並べて、ちょっとした試食会のような雰囲気に。

蓮蓬を手に取ってみる。平べったい円盤状の形をしており、表面はやや硬く、緑色でツヤがある。直径は10センチ程度だろうか。穴の部分を覗くと、中に緑色の蓮の実が詰まっているのが見える。

食べ方は簡単だ。蓮蓬の穴から蓮の実を一粒ずつ取り出していくだけ。指で軽く押すと、実がポロッと取れる。取り出した蓮の実は、鮮やかな緑色をしている。大きさは直径1センチ程度で、表面は薄い皮に包まれている。
まずは1粒、表面の緑色の皮を剥いてみた。

薄い皮を剥くと、中から白い可食部分が現れた。この白い部分が食べられる部分だ。そのまま口に入れてみる。
噛むと、独特の食感があった。野菜とナッツの中間のような食感だ。シャクシャクとした歯ごたえがあり、水分も含んでいる。
味は――わかりやすい旨味があるわけではない。しかし、マイルドで優しい味わいだ。強いて言えば、マカダミアナッツを野菜っぽくしたような感じだろうか。淡白だが、嫌な感じではない。むしろ、気がつけばポリポリと次の粒に手が伸びてしまう。そんな中毒性のようなものがある。
2粒目を食べる。今度は中心部分に小さな緑色の芯があることに気づいた。この芯の部分が苦いらしく、道理で後味がちょっと渋いと感じた。試しにこの部分だけ食べてみると、強烈に苦い。この芯は「莲子芯」(lián zǐ xīn)と呼ばれ、漢方薬としては価値があるが、食べる際には取り除くのが一般的だという。

芯を取り除いて食べると、苦みはほとんどなくなった。一層マイルドな味わいと、野菜とナッツの中間のような食感だけが残る。
次々と実を取り出していく。1つの蓮蓬から、20粒近いの実が取れた。食べ進めるうちに、この淡白な味に慣れてきた。というより、むしろクセになってくる。塩をつけて食べたりしても美味しいかもしれない、と思った。
窓の外を流れる景色を眺めながら、蓮の実を食べ続ける。列車の座席テーブルには、蓮蓬と各種のお茶が並び、なかなか風情のある光景だ。
全て食べ終わった頃、口の中にわずかな清涼感が残っていることに気づいた。「清热去火」という効能の看板は、あながち嘘ではないのかもしれない。
まとめ:中国の夏秋の風物詩
蓮の実を食べてみて感じたのは、これが「おやつ」というよりは「食習慣」の一部なのだということだ。
強い味があるわけではなく、特別に美味しいというわけでもない。しかし、マイルドで優しい味わいは、気がつけばポリポリと食べ続けてしまう不思議な魅力がある。味の濃い中華料理に囲まれる旅ならではの、口休めとしてピッタリのアイテムなのである。野菜とナッツの中間のような食感も面白い。塩やその他の調味料をつけて食べたら、また違った美味しさがあるかもしれない。
路上で売られている蓮蓬は、中国の夏秋の風物詩の一つだ。もし中国を旅行中に見かけたら、ぜひ試してみてほしい。ただし、中心部の緑色の芯は取り除くことをお忘れなく。