
フィジーの伝統文化を語る上で欠かせないのが、カヴァセレモニーだ。南太平洋の島々で何世紀にもわたって行われてきたこの儀式は、単なる飲み物を楽しむ会ではなく、村のコミュニティを結びつける重要な社交の場でもある。
今回、フィジーのヤサワ諸島にあるYaqeta村で、本物のカヴァセレモニーに参加する機会を得た。村の人々と共に過ごした夜、カヴァの独特な味と効能、そして村人たちの温かい交流について、詳しくレポートしたい。
なお、村への訪問の経緯や準備、セブセブ(カヴァの根)の調達方法、村での滞在の詳細については、別途「Yaqeta Villageホームステイシリーズ」として記事を書いているので、そちらも参照していただきたい。
カヴァセレモニーとは何か
カヴァセレモニーは、フィジー、トンガ、サモア、バヌアツなど南太平洋の島々で行われる伝統的な儀式だ。カヴァ(フィジーではヤコナとも呼ばれる)という植物の根を乾燥させて粉末にし、水と混ぜて作った飲み物(この飲み物も、カヴァと呼ばれる)を、特定の作法に従って参加者が順番に飲んでいく。

もともとは首長との謁見や重要な決定をする際の儀式として行われていたが、現在では村の社交の場としての役割が大きい。冠婚葬祭、記念日、あるいは大切な記憶を偲ぶために、村人たちが集まってカヴァを飲みながら語り合う。
観光客向けセレモニーと本格的なセレモニーの違い
ここで重要な前提を説明しておきたい。

今回私たちが参加したのは、かなり本格的な、本来は村人コミュニティーのみで完結するタイプの土着的なセレモニーだった。そのため、正式な作法としてセブセブ(カヴァの根の献上)の持参が必要となった。
しかし、多くの文化体験施設やリゾートでは、もっとライトな形式でセレモニーのデモンストレーションを行っている。そういったイベントに観光客として参加をする場合は、ここまで準備や気負いをする必要はないだろう。

ただし、リゾートにおいても、カヴァセレモニーは神聖な場なので、過度に露出の高い服装などは控える必要がある。敬意を持って参加することが大切だ。
セブセブ:村を訪れるための儀式
本格的な村でのカヴァセレモニーに参加する場合、まず「セブセブ」という儀式が必要になる。

セブセブとは、村を訪れる余所者が首長に贈る伝統的な贈り物のことだ。具体的には、カヴァの根の束を持参し、村長に献上する。これなしでは村に入ることができない、というほど重要な儀式だ。
私たちがどのようにカヴァの根を調達したかについては、過去記事「【移動編】フィジー離島の「Yaqeta Village」で伝統的ホームステイ② セブセブ(カヴァ)調達からYasawa Flyerでの船出まで」で詳しく紹介しているので、そちらを参照していただきたい。簡単に言えば、ナンディ市内のNadi Marketで約39フィジードル(約3,000円)で購入した。決して安くはないが、これが村に入るための敬意の証だ。
なお、カヴァには品質の違いがある。若いカヴァ(2、3年もの)、特に最近本土で機械的に生産されているカヴァは効果が弱い。一方、10年など老いた木ほど効果が強く、価格も高い。
カヴァは高価で、離島では手に入らないため貴重だ。だからこそ、村では毎日セレモニーをやるというわけには行かない。特別な機会に、村人たちが集まって楽しむのだ。

村に到着後、ホストのRustyさんにカヴァの根を託した。セブセブの儀式は、カヴァセレモニーの中で行われるという。
カヴァセレモニーの始まり
夕方、日が傾き始めた頃、Rustyさんが声をかけてくれた。カヴァセレモニーが始まるから、集会所へ行こう、と。

この日のセレモニーは、先々月(100日前)にRustyさんの親族が亡くなったことにちなんでの会だという。おそらく複合的な理由で開催がされたようだが、カヴァセレモニーは毎日開催というわけではなく、何か大切な記憶を思い出す、偲ぶために開催する、という意味合いが強いらしい。

集会所は村の中心部にある開放的な建物だ。トタン屋根はあるが、壁はなく、風が通り抜ける。中には大きなカヴァボウル(タノア)が置かれており、既に何人かの男性が座っていた。
最初は男性だけだった。村の男性たちが輪になって座り、カヴァボウルを囲む。後から、家事や夕食の仕込みを済ませた女性たちも加わってくる。
セブセブの献上
カヴァセレモニーが始まってしばらくすると、私たちが持参したカヴァの根が正式な儀式を通して献上される場面があった。

本来であれば村長に対して献上をする形なのだが、この日は村長は欠席していたため、代理の方が進行を務めてくれた。
Rustyさんが代理の方の前にカヴァの根を置き、現地語(Yaqeta語)で何か説明している。代理の方は、私たちが訪問をしセブセブを献上してくれた、ということを読み上げてくれた。そして、私たちに向かって笑顔で何か言った。Rustyさんが通訳してくれる。
私たちを歓迎する。このカヴァを受け取り、共に飲もう、と。
こうして、私たちは正式に村のゲストとして認められ、カヴァセレモニーに参加する資格を得たのだ。
カヴァの作り方と作法
カヴァは、その場で作られる。

セレモニーの最中、カヴァの根を粉末にする工程を見させてもらった。村の若者たちが、鉄の臼の中にカヴァの根を入れて、それを鉄棒でガンガンと突いて粉砕する。少し私もチャレンジさせてもらったが、思いのほか鉄棒が重く、コントロールが効かず苦労した。村人たちは笑いながら見守ってくれた。

粉末になったカヴァを布袋に入れ、タノア(大きな木製のボウル)に入れた水の中で揉み込んでいく。粉末が水に溶け出し、灰色っぽい泥水のような液体になる。
準備ができると、一人の男性が儀式の進行役を務める。彼がココナッツの殻で作ったカップ(ビロ)にカヴァを汲み、参加者に順番に渡していく。

作法は以下の通りだ。
この流れを、参加者全員が順番に繰り返していく。
カヴァの味
さて、肝心のカヴァの味だが、正直に言って、美味しいものではない。
見た目は泥水そのもので、ホワイトコーヒーのような色をしている。口に含むと、土臭く、やや苦みがあり、とろみのある液体だ。
そして、飲み込むと、すぐに効果が現れる。舌と喉の粘膜が麻痺し始めるのだ。歯医者の部分麻酔のような、あるいはビンロウを噛んだときのような、独特の痺れが広がる。
最初は戸惑うが、慣れてくると不思議と心地よい。効能としては、明確な酔いというよりも、ほんのりとしたリラックス感がある。体が少し重くなり、心が落ち着く。多量に飲むと、千鳥足になることもあるらしい。
興味深かったのは、カヴァの味が美味しくないというのは村人たちにも共通のようだということだ。飲むとき、みな渋い顔をしたり、なみなみと注がれたビロを目の前に、困惑する様子を見せたりする。皆おそらく、その効能や酩酊感は好きなのだが、味そのものが好きというわけではないようである。
カヴァの効果と個人差

カヴァには独特の効能がある。基本的にはアルコールと同じような酩酊感があるのだが、その作用は大きく異なる。
アルコールは人を興奮させ、時にはアグレッシブにさせる危険を帯びている。一方、カヴァはその逆で、人をリラックスさせる効果があるのだという。
カヴァに含まれる「カヴァラクトン」という成分には、鎮静作用、抗不安作用があり、実際に抗うつ剤などとして精神医療にも使われているそうだ。不安を和らげ、心を落ち着かせ、社交の場で心を開きやすくする。
実際に私たちもそれを感じ取ることができた気がする。最も、雰囲気にのまれてのトリップ感なのか、それともカヴァの作用による酩酊感なのか定かではなかったが、あのセレモニーの場の中で、村人たちと心を通わせ、リラックスしながら、会話を楽しむ、そんな気分を感じ取れた。

なお、カヴァはアルコールと同様、飲みすぎると気持ち悪くなるなどの副作用があるらしい。またアルコールと同様に、飲み慣れればだんだん耐性がつくようなのだが、個人差がかなりあるという。
Rustyさんによれば、ざっくり平均して、成人男性なら20杯くらいを飲めるだろう、とのことだった。
私たちはある程度耐性があるほうだったのか、繰り返し飲んでも気分が悪くなることはなかった。しかし、別のリゾートでカヴァセレモニーに参加した際には、参加者の女性が、少量7杯程度で、もう気分が悪いからこれが限界かもしれない、と訴えていたのが印象的だった。
ちなみに、アルコールハラスメントのようなものはないので、もう十分だと感じたら素直に断って問題ない。村人たちも、無理に勧めることはなく、それぞれのペースを尊重してくれる。
カヴァセレモニーの雰囲気
カヴァセレモニーは、午後からヌルっと始まり、日が暮れるにつれて人が増えてくる。
最初は男性だけだったが、夕食の準備を終えた女性たちが次々と加わってくる。子どもたちも周りで遊んでいる。フィジーでは未成年はカヴァを飲めないことになっているが、実質的には15、16歳くらいから参加する若者もいると聞いた。
村人たちは、カヴァを飲みながら、とりとめのない話をする。今日あったこと、家族のこと、村のこと。時折、ギターを弾いて歌を歌う人もいる。笑い声が絶えない。
私たちも何度もカヴァを勧められた。最初は少量で良いと言われたが、慣れてくると普通の量を飲むようになった。一口で飲み干して、また次へと。何度も飲む。
村人たちは、夜遅くまで、いや明け方近くまでカヴァセレモニーを続けるという。実際、私たちが眠りについた後も、外では賑やかな声が聞こえていた。そして朝3時くらいになって、ぞろぞろと会場から帰ってくる足音が聞こえた。
カヴァセレモニーの意味
カヴァセレモニーは、単なる飲み会ではない。村人たちにとって、これは最も重要な社交の場なのだ。
村には太陽光発電による限られた電気しかなく、夜は照明が使えない。テレビやインターネットなどの娯楽も限られている。カヴァセレモニーこそが、村の重要な娯楽であり、コミュニティを結びつける時間なのだ。
村人たちは、様々な理由をつけてカヴァセレモニーを開く。クリスマス休暇に家族が本土から帰ってきた、退院をして何年目だ、亡くなった家族を偲んで何日目だ、など。これは思い出を風化させないためであり、そしてソーシャライズのためだ。
一人でカヴァを飲んでいても、絶対に次々と人が集まってくる。カヴァの力はすごい、とRustyさんが笑いながら言っていた。
まとめ
Yaqeta村でのカヴァセレモニーは、忘れられない体験となった。
泥水のような見た目、土臭い味、舌と喉を麻痺させる効能。最初は戸惑ったが、村人たちと共に何度も飲むうちに、この儀式の意味が理解できた。
これは単なる飲み物ではない。村のコミュニティを結びつけ、思い出を共有し、心を開いて語り合うための、神聖な時間なのだ。カヴァの持つリラックス効果が、人々を穏やかにし、心を開きやすくする。
このような貴重な場を提供してくださったRustyさんをはじめ、Yaqeta村の皆さんに心から感謝したい。彼らの温かい歓迎が、この体験をより深いものにしてくれた。
フィジーを訪れる機会があれば、まずはリゾートや文化体験施設でのライトなカヴァセレモニーから体験してみるのも良いだろう。そして、もし機会があれば、本物の村でのセレモニーに参加してみてほしい。
そして、当ブログでは、今回我々がお世話になったYaqeta村での滞在レポートを事細かに綴っている。フィジーの伝統的な暮らしに興味がある旅人は、ぜひそちらも参照していただきたい。