
桂林・陽朔エリアの興坪古鎮。漓江下りの美しい風景で知られるこの町には、対岸に老寨山という絶景スポットがある。20元札の裏面にも描かれている山水風景を、高い位置から一望できる場所だ。
興坪古鎮を訪れた際、夕方に少し時間ができたので軽い気持ちで登ってみることにした。ネット上の情報では30分程度で登頂できるという記述も見かけていたし、体力には自信があったので問題ないだろうと思っていた。
結果として、この判断は完全に甘かった。今回は老寨山での体験を通じて、これから訪れる方に実際の様子をお伝えしたい。
老寨山について
老寨山は興坪古鎮の対岸、大河背側にそびえる山だ。頂上からは漓江を取り囲む独特のカルスト地形を一望でき、特に夕暮れ時や霧が立ち込める早朝は幻想的な景色が広がる。
ネット上では30分くらいで登頂できる小さな山という情報も見かける。観光地近くの気軽なハイキングスポットのようなイメージを持っていたが、実際はそう簡単ではなかった。
悪条件での登山開始

その日は雨が降ったり止んだりの不安定な天気だった。興坪古鎮に到着したのは夕方で、まもなく日没というタイミング。普通なら今日は止めておこうと判断すべき状況だったが、せっかく来たんだし夕焼けの写真でも撮ろうと決行してしまった。
当時は10キロのバックパックを背負っていた。旅の荷物を預ける場所もなく、そのまま登ることになった。

対岸の大河背へと渡る渡舟乗り場付近から登山道に入る。

最初は確かに緩やかな道で、整備された石段を数分歩くとすぐに小さな堂のような建物に到着した。もうここがゴールだろうか?

この堂は二階建てのあずまやのような構造で、中国式の瓦屋根が特徴的だ。ここからでも漓江とカルスト地形が見渡せる。もう着いたのかと思い、のんびりとドローンを飛ばして空撮を始めた。
想定以上に長くて急な登山道

ところが、ドローン映像を確認して驚いた。今いる場所はまだまだ山の下の方で、少なくとも100メートル以上は登らなければならないことが判明した。途中通った分岐を左折するとさらに続く登山道があり、本当の山頂はまだ遥か上だということがわかった。
うかうかしていられなかった。日は確実に落ちつつある。慌てて来た道を引き返し、見落としていた分岐を進んだ。確かにまだまだ先がありそうだ。少し速歩きすれば間に合うかもしれないと考えながら登り始めた。

しかし、道は思った以上に長く、そして急だった。10キロのバックパックが肩に食い込む。速歩きで進んでも、なかなか頂上に近づいている感じがしない。
道は次第に険しくなっていく。最初の整備された石段とは打って変わって、岩がむき出しの急勾配が続く。足元には落ち葉が積もり、雨上がりで滑りやすい。途中には崖に沿って作られた細い道もあり、一歩間違えれば危険な箇所も存在する。
途中で下山してくる登山者とすれ違った。「まだまだ長いよ、暗くなるから今引き返したほうがいいかも」と忠告してくれた。そこまで大変なのかと思いながらも、ここまで来たからにはと登り続けることにした。
後で気づいたことだが、彼が最後の登山者だった。この後は誰ともすれ違わない。もし何かあっても、助けは期待できない状況だった。

道中には、岩壁の下に無人販売の水が置かれているポイントもある。クーラーボックスにミネラルウォーターが並び、QRコード決済で購入できる仕組みになっている。こういう心配りはありがたい配慮だ。
突然現れる垂直の鉄はしご

さらに驚いたのが、途中に現れた垂直の鉄はしごだ。事前情報では聞いていなかったので、完全に不意打ちだった。古い石造りのアーチをくぐった先に、ほぼ垂直に設置された金属製のはしごが現れる。

若干錆びているように見え、大丈夫なのかと不安になる。雨上がりで濡れたはしごは滑りやすい。バックパックの重さでバランスも取りづらい。ここで滑り落ちても、もう誰も助けに来てくれない。かなり緊張しながら、慎重に一段ずつ登っていった。
はしごを登り切ると、また岩がむき出しの急な登山道が続く。辺りはどんどん暗くなっていく。
なんとか登頂

ハラハラしながらもなんとか登頂に成功した。頂上には「友好亭」と書かれた六角形の中国式あずまやがあり、無人販売のクーラーボックスに水がたくさん入っている。

手ぶらで来ても水分補給できるのはありがたい。登山で火照った体に冷たい水が染み渡る。

若干日没には間に合わなかったが、山頂から幻想的な霧立ち込める漓江の山水風景を眺めることができた。カルスト地形の独特の山々が連なり、その間を漓江が蛇行していく。興坪古鎮の街灯りが灯り始め、薄暗い空の下で山々のシルエットが浮かび上がる。この景色は確かに素晴らしかった。
しかし、景色に見とれている余裕はなかった。すぐに辺りは真っ暗になり始めていた。
真っ暗な山道での下山

山は平地よりも一瞬で暗くなる。加えて、止んでいた雨がまた一気に降り出した。山の中だから木が傘代わりになるが、足元はどんどん悪くなっていく。
あの鉄はしごに着く頃には真っ暗で、ほとんど何も見えない状態だった。登りの時の記憶を頼りに、手探りで慎重に下る。足を滑らせたらと思うと、本当に怖かった。一段一段、確実に足場を確認しながら降りていった。

その後もスマホのライトを照らしながら、ぬかるんだ山道を進んだ。何度も足を滑らせて転んだ。横が崖になっている箇所もあるので、滑り方にも気を使う。
ただ、バックパックが思わぬ形で役に立った。転んだ時にクッション代わりになってくれて、大怪我をせずに済んだのだ。背中から転んでも、バックパックが衝撃を吸収してくれる。バックパックがなければ、岩に直接背中や頭を打ち付けて、もっと深刻な怪我をしていたかもしれない。
暗闇の中、スマホのライトだけが頼りだった。雨に濡れた岩や木の根に何度もつまずきながら下っていった。途中で道を見失いそうになったこともあったが、なんとか正しいルートを見つけて進んだ。
無事に麓へ

なんとか麓まで辿り着き、興坪古鎮の明かりが見えた時は本当にほっとした。無事に戻れたことに心から安堵した。
結局、想定していた時間の3倍近くかかってしまった。もしかしたら、「30分で登頂できる」という情報は、私が最初に到着した下のあずまやまでの時間だったのかもしれない。あそこで景色を楽しんで引き返していれば、確かに30分程度の気軽なハイキングだったのだろう。
まとめ:老寨山に登る時の注意点
今回の経験を踏まえて、これから老寨山に登る方に向けて重要なポイントをまとめておきたい。
まず時間配分について。往復で最低2時間、余裕を持って2時間半は見ておくべきだろう。午前中の早い時間に登り始めるのがベストで、日没前の登山は絶対に避けること。私のように夕方から登り始めるのは本当に危険だ。
天候も重要な要素だ。雨上がりや雨予報の日は足元が非常に悪くなる。できれば晴れた日を選んでほしい。雨の中の下山は想像以上に大変だった。
老寨山は「興坪古鎮から近い」というのは、あくまで距離の話だ。登山の難易度や所要時間は想像より大変だった。それでも頂上からの景色は本当に素晴らしいので、しっかりとした準備と余裕のある時間配分で挑めば、素敵な体験になるはずだ。くれぐれも私のように油断しないように。