前回は西岸を北上した。今回はその続き。北岸を東へ走り、清水村で思いがけない再会を果たしながら、南竿一周の旅を締めくくる。
そういえば前回、南竿80據點も芙蓉澳も紹介したが、あのあたり一帯が四維村と呼ばれる集落だ。南竿で最も北に位置する、観光地化されていない静かなエリア。濃い時間を過ごしておきながら、地名を出し忘れていた。
南竿86據點

同じく四維村、南竿80據點を後にして島を時計回りに進むと、南竿86據點がある。訪れた時点では工事中で立ち入り禁止だったが、迷彩塗装が剥がれかけたコンクリートの外壁に、「介閲感知圖書館」という名の施設案内プレートが貼られていた。

プレートに描かれた見取り図を見ると、「時間之書」「記憶之書」「海之色」「海之鏡」「日界之間」といった詩的な名前の展示室が、地下のトンネルに沿って配置される計画になっている。カフェスペースも設けられるようだ。
53洄藝據點がアートギャラリーとして生まれ変わったように、86據點も軍事遺構を文化空間として再生させるプロジェクトの一環なのだろう。崖に面した建物の屋上には砲台のドーム型構造物がそのまま残っており、背後に広がる海と離島の景色は今でも十分に絵になる。完成したらまた来てみたい。
海濱大道を東へ

86據點から先、海濱大道という北岸沿いの道を東へ進んでいく。山と海が両側に迫る中を、スクーターで気持ちよく走れる区間だ。左手に后沃水庫の静かな水面が現れ、カーブを曲がるたびに海の角度が変わる。路肩には石のベンチが置かれた遊歩道が並走しており、歩いても気持ちの良さそうな道だった。

しばらく走ると珠螺という集落に差し掛かる。このあたりに據點の番号の最終番号もあり、軍事施設としての島の実質的な東の終点にあたる。正直なところ写真もほとんど撮っておらず、景色は悪くないが立ち止まるより走り続けるのが自然な区間だった。
清水村

珠螺を過ぎてしばらく進むと清水村に出る。福澳港にも近く、島の中でも比較的開けた雰囲気のある聚落だ。
比較的遅くまで飲食店が開いているので、滞在中、晩御飯を食いっぱぐれたときに何度かここまで食事に来た。
清水村に立ち寄ったのには、もうひとつ理由があった。以前、復興村で出会った地元のおばちゃんが、「息子がここでカフェをやっているから寄ってみて」と教えてくれていたのだ。

坂道沿いに「CLio」という看板を見つけた。薄暮の路地に柔らかいロゴが光っている。入ってみると、コンクリート打ちっぱなしのカウンターと古材を使った壁が組み合わさった、離島とは思えないスタイリッシュな空間が広がっていた。ショーケースにはケーキが並んでいる。

日本語が堪能な息子さんにも会うことができ、島のグルメ情報をいくつか教えてもらった。島の中間部にあるためスクーター一周の途中休憩としても最適で、地元の若者たちが思い思いに過ごしていた。

馬祖清水湿地
清水村のすぐそばに馬祖清水湿地がある。「國家級清水」と金色の文字が刻まれた台座にカニのモニュメントが乗っていて、いかにも格式のある景勝地という雰囲気だ。

ここには湾を囲む遊歩道が整備されており、魚のオブジェが並ぶ親水テラスや、少し先に廟も見える。夕暮れ時まで居ると、丘と海と廟が夕日のオレンジに染まる景色はなかなか良かった。

ただし干潮時の浜に目を向けると、流れ着いたゴミが一面に堆積している様子が中々惨たらしい。

最北端では軍事施設の残骸越しに中国大陸の風車を眺めながら、政治的に睨み合う両国の緊張に思いを馳せたが、ここ清水湿地では、その緊張がより生活に近い形で現れている。漂流してくるゴミをめぐって、海峡を挟んだ住民同士が実務的に睨み合っているような構図だ。軍事であれゴミであれ、この地理が生み出す独特の緊張感は、訪れた者だけが感じ取れる空気だと思った。
なお遊歩道は福澳港まで続いているらしく、港側からのアクセスも可能とのこと。今回はこのまま福澳港へとスクーターによる一周完走とした。
一周を終えて

コンパクトな島なので、2日あれば見どころに立ち寄りながら一周できるサイズ感だ。電動スクーターのバッテリーも交換なしで一周できる程度の距離感だった。
走り終えて改めて感じたのは、集落ごとの個性の大きさだ。同じ南竿島の中でも、賑わいのある介壽や馬港、アートと基地が同居する仁愛周辺、急斜面の漁村・津沙や牛角、北端の四維村などと、それぞれが全く異なる表情を持っている。海と、自然の浜と、軍事遺構と、急斜面にへばりつく民家と、廟の数々。台湾本島とも中国大陸とも異なる、ここ馬祖だけの風景がある。
強いてひとつだけ選ぶならば、やはり泊まった津沙村が一番お気に入りのエリアだった。また来るときも、きっとあの石積みの村に泊まると思う。
まとめ
全7回にわたってお届けした南竿島スクーター一周シリーズ、いかがだっただろうか。南竿は交通量も少ないため、急斜面が多いことを除けばスクーター初心者でも安心してツーリングが楽しめる風土が揃っている。公共交通機関の少ない島だからこそ、是非微型電動車を使って、のびのびとした旅を楽しんでいただきたい。