
カタール航空でヨーロッパへ。エミレーツでアジアへ。中東のハブ空港を経由する旅程は、今やバックパッカーからビジネス旅行者まで、多くの人にとって「普通の選択肢」になっています。
しかし2026年2月28日、その「普通」を揺るがす事態が起きました。イスラエルとアメリカ軍が共同でイランの首都テヘランに対して大規模な先制攻撃を実施したのです。
イランやイスラエルの旅行をか考えている人はもちろん、ドーハ経由でパリへ。ドバイ乗り換えでロンドンへ、などといった旅程を組んでいる人、あるいはこれから組もうとしている人に向けて、今起きていることや今後のリスクを整理します。
※その後の情勢の急変動を受け、3月1日に新しい記事を執筆しました。こちらの記事についても合わせてご確認ください。
- 2月28日に何が起きたのか
- 外交交渉の最中に放たれた爆弾
- アメリカは「共同作戦」だったのか
- これまでの危機と何が違うのか
- カタールとUAE——ハブ空港の現状
- 旅行者・トランジット利用者が今すぐ確認すべきこと
- 私の見解
- 今後72時間の注目点
- 中東・アラブ旅行情報オープンチャットの新設のお知らせ
2月28日に何が起きたのか
イスラエルのカッツ国防相が「先制攻撃」を実施したと正式に表明。テヘラン中部・北部など複数の地点で黒煙が上がり、市民はパニック状態に陥りました。テヘランの証券取引所も営業を停止しています。
イスラエルの狙いはイランの核・ミサイル関連施設とみられ、複数拠点への同時攻撃という規模の大きさが際立ちます。2025年6月の攻撃から約8カ月、イスラエルは再びイラン本土への直接攻撃に踏み切りました。
外交交渉の最中に放たれた爆弾
タイミングが重要です。攻撃前日の2月27日、仲介役のオマーン外相がCBSテレビに出演し、こう語っていました。「イランはウランの希釈に同意し、IAEA査察も受け入れる方向だ。アメリカとの合意まであと少し」——外交解決の機運が最も高まった瞬間に、爆撃が始まったのです。
アメリカは「共同作戦」だったのか
今回の攻撃について、イスラエルとアメリカが共同で実施したという見方も出ています。根拠となるのはいくつかの状況証拠です。
アメリカ国務省は攻撃前日の2月27日、イスラエル駐在の大使館員と家族に国外退避を許可しています。報復攻撃を事前に想定していなければ、このタイミングでの退避許可は不自然です。またトランプ大統領は攻撃前から「軍事攻撃が必要な時もある」と繰り返し発言しており、ルビオ国務長官は3月2日のイスラエル訪問を既に予定していました。
アメリカ政府は公式には関与を認めていませんが、「イスラエルが単独で決定した」という説明をそのまま受け取る向きは少なく、少なくとも事前の黙認、あるいはより積極的な協力があったとみる専門家も多い状況です。
※後の報道で、アメリカも当攻撃に参加していたとの発表がありました。そのため、やはり26日の会談での結果を受けてのアクションであることが示唆されます。
これまでの危機と何が違うのか
中東では過去にも幾度となく緊張が高まりましたが、今回の局面はいくつかの点で性質が異なります。
2024〜2025年にかけてのイランとイスラエルの応酬は、お互いが「やりすぎない」という暗黙のラインを守りながらの応酬でした。しかし今回は、テヘラン市内の複数地点が同時攻撃を受けています。「エスカレーションを管理する」という前提が崩れた可能性があります。
また、昨年9月のドーハ攻撃(イスラエルがカタール首都でハマス指導部を標的に空爆)によって、「中東のハブ都市は直接攻撃されない」という前提もすでに崩れていました。今回の攻撃はその延長線上にあります。
カタールとUAE——ハブ空港の現状
カタール(ドーハ)
昨年9月の攻撃以降、カタール政府はイスラエルへの強い怒りを公にしています。ムハンマド首相は「国家テロ」と断言し、カタールが長年担ってきた「中立的仲介国」としての立場は事実上、機能不全に陥りました。
現時点でハマド国際空港の運航に公式な支障は報告されていません。カタール航空は2017年の外交封鎖(サウジ・UAEなど4カ国による国境封鎖)という前例のない危機すら乗り越えた航空会社です。国家の全面バックアップという基盤の強さは変わっていません。
ただし今回は、外交危機ではなく軍事攻撃が首都を直撃したという点が根本的に異なります。イランの報復攻撃の余波が湾岸地域に及ぶ可能性を、これまでより真剣に考える必要があります。
UAE(ドバイ・アブダビ)
UAEは表向き中立を保ちつつ、イスラエルとはアブラハム合意(2020年)以来の国交正常化関係にあります。この「イスラエルと国交を持つアラブ国家」という立場が、今後どう影響するかは注目点です。
エミレーツ航空の拠点であるドバイ国際空港は現在も正常運航していますが、UAE自体もイランの報復ターゲットになり得るという指摘があります。2022年にはフーシ派によるアブダビへのドローン攻撃が実際に発生しており、湾岸が「完全に安全な後方」ではないことはすでに示されています。
旅行者・トランジット利用者が今すぐ確認すべきこと
イスラエル(テルアビブ)経由の旅程: 現時点でイスラエル当局はベン・グリオン空港への来訪自粛を呼びかけています。イスラエル発着の旅程は直ちに見直しが必要です。
ドーハ・ドバイ経由の旅程: 現時点で空港機能に問題は報告されていませんが、イランの報復攻撃の規模と標的次第で状況が急変する可能性があります。乗り継ぎ時間に余裕を持たせた旅程にしておくことを勧めます。
旅行保険: 紛争リスクをカバーするかどうか、約款を今すぐ確認してください。多くの一般的な旅行保険は戦争・紛争を免責事項としています。
フレキシブルな予約: 変更・払い戻しが可能な運賃と宿泊プランを選ぶことが、今の中東旅行における最低限のリスク管理です。
私の見解
中東のハブ空港を「ただの乗り換え地点」として無意識に使ってきた時代は、少なくとも一時的には終わったと考えるべきでしょう。
カタール航空もエミレーツも、世界トップクラスの航空会社であることに変わりはありません。ドーハもドバイも、今日この瞬間は平常運転しています。しかし「有事でも大丈夫」という根拠なき楽観は、今この時点では危険です。
旅行を諦める必要はありません。ただ、情報を持って動いてほしいのです。
今後72時間の注目点
最大の焦点はイランの報復です。その規模・標的・タイミングによって、中東全体の状況が一変します。湾岸のハブ空港への影響が出るとすれば、この報復の連鎖がどこまで広がるかにかかっています。
また3月2日のルビオ国務長官のイスラエル訪問も重要です。外交的な出口を模索するのか、軍事行動を追認・拡大するのか。アメリカの次の動きが状況を大きく左右します。
引き続き情報をアップデートしていきます。中東を旅する人が、リスクを理解した上で、それでも豊かな旅ができる環境であり続けることを願いながら。
中東・アラブ旅行情報オープンチャットの新設のお知らせ
この度、より有益でコスパ抜群の旅行情報発信や、旅行に関してお困りの方々からの個別質疑応答を行えるよう、LINEオープンチャットを新設しました!中東やアラブ地域への旅行を計画中の方や、ご興味・ご質問のある方はぜひご参加くださいませ!
この記事は2026年2月28日時点の速報情報に基づいています。状況は急速に変化しています。外務省の海外安全情報および各航空会社の公式発表を随時ご確認ください。