以前、中東情勢の悪化を受けてカタール航空とハマド国際空港について書いた記事に、読者から多くの反響をいただきました。そして今、同じ質問が別の航空会社にも向けられています。「エミレーツはどうなるのか?」「ドバイ経由の乗り継ぎはもう使えないのか?」「エティハドは?」「アブダビ経由はどうだ?」と。
ドバイとアブダビ。隣接する二つの首長国にそれぞれ本拠を置く、エミレーツ航空とエティハド航空。どちらも今回の事態で運航停止に追い込まれており、UAE経由の旅程を組んでいた旅行者には二重の打撃となっています。
正直に言います。2月28日にドバイ国際空港のターミナルが損傷を受けた瞬間、私の中で何かが変わりました。世界最大の国際線ハブが、戦闘の余波で機能停止に陥るという事態は、「想定内リスク」ではなく「現実」になったのです。
カタール航空記事と同様に、今回も政治・経済・航空インフラの三つの観点から、エミレーツ・エティハド両航空会社とドバイ・アブダビ空港の将来を冷静に分析してみます。
そして、本記事の後半では、日本からヨーロッパ方面へ渡航する場合の、現実的な代替ルートをいくつか考察します。
- 状況整理:2月28日〜3月1日に何が起きたのか
- カタールとUAEの決定的な違い
- エミレーツ航空とドバイの空港事情
- エティハド航空とアブダビ空港
- 過去の教訓:2022年フーシ派攻撃を振り返る
- 長期閉鎖リスクの現実的評価
- カタール vs UAE——今、どちらがよりリスクが高いか
- 私の結論:短期は明確にアウト、長期は情勢次第
状況整理:2月28日〜3月1日に何が起きたのか
2月28日の米・イスラエルによるイラン共同攻撃を受け、イランは即日、湾岸諸国の米軍基地への報復攻撃を実施しました。UAEでは首都アブダビ近郊のアル・ダフラ空軍基地がミサイル攻撃を受け、UAE政府は領空を「部分的・一時的に閉鎖」と発表。
そしてドバイ国際空港(DXB)のターミナルが損傷を受け、スタッフ4名が負傷しました。パーム・ジュメイラ付近でも4名が負傷、アブダビ市内ではパキスタン人1名が死亡しています。
エミレーツ航空はドバイ発着の全便を一時停止。エティハド航空もアブダビ発着便を停止しました。航空データ会社Ciriumによると、ドバイ・ドーハ・アブダビの3ハブを持つエミレーツ、カタール航空、エティハドの3社合計で、1日9万人のトランジット客を運んでいます。そのすべてが、現在止まっています。
カタールとUAEの決定的な違い
カタール航空について書いた昨年の記事では「短期リスク、長期安泰」という結論を出しました。しかし今回、UAE・エミレーツ・エティハドを分析するにあたって、まず前回時点での話との本質的な違いを整理する必要があります。
最大の違いは、今回の戦争がより一段深刻なレベルで展開されているということ。そして、もう一つは、UAEがイスラエルと国交を持つ国だという点です。
2020年のアブラハム合意でUAEはイスラエルと国交を正常化し、アラブ世界において「イスラエルと手を結んだ国」という立場を選びました。カタールが一貫して「中立的仲介国」を標榜してきたのとは対照的に、UAEはイスラエル側に軸足を置いています。
イランが今回の報復でUAEを標的に含めたのは、この文脈があるからとも考えられます。「米軍基地があるから攻撃した」という側面はもちろんありますが、UAEはそれだけでなく「イスラエルと同盟関係にある敵対国」として認識されるリスクを構造的に抱えています。
エミレーツ航空とドバイの空港事情
ドバイ首長国政府100%出資の国営企業であるエミレーツ航空は、ドバイ経済の象徴的存在です。年間収益は約350億ドル規模で、ドバイのGDPへの直接・間接的な貢献は絶大。ドバイという都市国家の国際的地位そのものが、エミレーツ航空の存在によって支えられているといっても過言ではありません。
ドバイの空港は二つある——DXBとDWC
ここで、ドバイの空港事情について整理しておきます。読者の方から「ドバイにはバックアップ空港があるのでは?」という質問を受けることがありますが、その通りです。
現在エミレーツ航空の主要ハブとして機能しているのがドバイ国際空港(DXB)です。2024年の利用者数は過去最多の9,230万人を記録しており、国際線利用者数では世界トップクラスを誇ります。
一方、ドバイ中心部から南西約40kmのジュベル・アリ地区にはアール・マクトゥーム国際空港(Al Maktoum International Airport、通称DWC)があります。「ドバイ・ワールド・セントラル」という大規模都市開発計画の中核として2010年に開港し、現在は主に貨物便やプライベートジェット、一部旅客便の発着に使われています。
2024年4月、ドバイ首長はこのDWCを総工費約350億ドル(約5兆4,000億円)をかけて世界最大の空港に拡張する計画を正式発表しました。5本の滑走路、400のゲートを備え、年間2億6,000万人の旅客処理能力を持つ超巨大空港として、2032年までにDXBの機能をすべてDWCへ移転する計画です。
つまりエミレーツ航空には、DXBが長期使用不能になった場合のフェイルセーフとして、DWCを活用できるという選択肢が存在します。ただし現時点のDWCは本格的な旅客ハブとして機能しているわけではなく、即座に代替できる状況ではないことは念頭に置く必要があります。
エティハド航空とアブダビ空港
アブダビを拠点とするエティハド航空は、アブダビ首長国政府100%出資の国営航空会社です。拠点空港はザーイド国際空港(Zayed International Airport)——2023年に旧アブダビ国際空港から改称された空港で、アブダビ首長の名を冠しています。
エティハドの年間収益は約60〜70億ドル規模で、エミレーツの約5分の1です。さらに注目すべきは、エティハドが近年経営再建中の航空会社だという点です。2010年代後半からの積極的な他社出資戦略が裏目に出て経営危機に陥り、大規模なリストラと路線縮小を経てようやく黒字化を果たしたばかりのタイミングで、今回の事態を迎えました。
アブダビ政府の支援を受けられることは確実ですが、長期的な運航停止が続けば、エミレーツ以上に経営への打撃が大きくなる可能性があります。停戦後の運航再開においても、エミレーツより回復が遅れるリスクは念頭に置いておくべきでしょう。
過去の教訓:2022年フーシ派攻撃を振り返る
カタールに2017年の外交危機という試練があったように、UAEにも近年の試練があります。
2022年1月、フーシ派がアブダビへのドローン・ミサイル攻撃を実施。石油施設と空港周辺が標的となり、3名が死亡しました。この時、UAE政府は数日以内に空港の完全復旧を実現し、エミレーツ航空も短期間で通常運航に戻っています。
しかし今回は規模が根本的に異なります。2022年のフーシ派攻撃は「散発的な嫌がらせ」の域を出ませんでしたが、今回はイランが国家として正式に宣言した報復攻撃です。弾道ミサイルとドローンが湾岸5カ国の米軍基地を同時攻撃するという前例のない事態であり、そのひとつにドバイ国際空港のターミナルが実際に含まれました。
「2022年も乗り越えた」という楽観論が今回は通用しない理由は、ここにあります。
長期閉鎖リスクの現実的評価
では「長期閉鎖」はあり得るのか。最悪ケースと現実的シナリオを分けて考えます。
最悪ケース: イランの体制が崩壊せず、革命防衛隊の残存勢力が長期的な散発攻撃を継続するケースです。この場合、ドバイ・アブダビへのミサイル・ドローン攻撃が繰り返される可能性があります。フーシ派(イエメン)による紅海・アラビア海での攻撃も続けば、湾岸全体の安全保障環境が悪化し、民間航空の正常化が半年以上かかることも考えられます。
現実的シナリオ: ハメネイ師死亡後のイランで穏健派が主導権を握り、数週間〜2ヶ月以内に停戦合意が成立するケースです。この場合、UAE領空は段階的に再開され、エミレーツ・エティハド両社も順次運航を再開する流れになるでしょう。UAEはイランとも経済的に深い関係を持っており(ドバイにはイラン系ビジネスコミュニティが多数存在します)、全面対立よりも早期正常化を望む国内圧力も働きます。
停戦が実現すれば1〜2ヶ月での正常化は十分可能です。しかし今の段階では「停戦がいつ来るか」が最大の不確定要素であり、それまでの期間は「ドバイ・アブダビ経由は使えない」と考えるべきでしょう。
カタール vs UAE——今、どちらがよりリスクが高いか
同じ湾岸ハブでも、現時点でのリスクの性質は異なります。
カタールはアル・ウデイド米軍基地という巨大ターゲットを抱えつつも、イスラエルとは国交がなく、伝統的に「中立仲介国」の立場を取ってきました。昨年9月のドーハ爆撃以降、その中立性は傷ついていますが、今回の攻撃でも軍事基地への攻撃が中心であり、空港への直接ダメージは現時点では限定的です。
UAEはイスラエルとの国交正常化という政治的立場があり、イランから見れば「より明確な敵対国」という側面があります。そしてすでにドバイ国際空港(DXB)のターミナルが実際に損傷を受けているという事実は、カタールよりも「次の攻撃」が来る蓋然性を高める要因です。
少なくとも現時点のリスク評価では、UAE(ドバイ・アブダビ)経由の旅程のほうが、カタール(ドーハ)経由よりも不確実性が高いと私は判断しています。
私の結論:短期は明確にアウト、長期は情勢次第
カタール航空記事では「短期リスク、長期安泰」という結論を出しました。エミレーツ・エティハド・UAE経由については、その判断をやや修正する必要があります。
短期(現在〜1ヶ月): 明確にアウトです。領空閉鎖・全便停止が続いており、旅程に組み込める状況にありません。
中期(1〜3ヶ月): 停戦の有無次第です。イラン情勢が早期に収束すれば再開の見通しが立ちますが、長期化すれば散発的攻撃が続くリスクがあります。
長期(3ヶ月以降): エミレーツ航空の経営基盤の強さ、UAE政府の財政力、DWCというバックアップ拠点の存在を考えれば、長期的な消滅というシナリオは考えにくい。ただしエティハドについては財務的な脆弱性がある分、回復に時間がかかる可能性があります。また「以前と全く同じリスク水準に戻る」かどうかは、イスラエルとUAEの関係、そしてイラン新体制との関係がどう着地するかにかかっています。
ドバイ・アブダビ経由を検討していた方へ
中東経由でヨーロッパへの渡航を検討していた方へ。旅程の組み直しは早いほど良いです。多くの航空会社が3月6〜7日を期限とした無料変更・払い戻しの対応期間を設けています。この窓口を使い損ねないようにしてください。
代替ルートとして現実的なのは、シンガポール・クアラルンプール・バンコク経由の東南アジアルート、そしてエチオピア航空を利用したアディスアベバ経由便です。詳しくは下記の関連記事をご参照ください。
そして、今後の展開によっては、あまり有名ではないものの「アラブ首長国連邦第3のハブ空港」として知られる「シャールジャ国際空港便」が早期代替便確保のための穴場となるかもしれません。下記より事前に情報をチェックし、運航再開の際にいち早く座席確保できるよう準備をしておきましょう。
エミレーツが再びドバイから世界中に飛び立ち、エティハドがアブダビから翼を広げる日は、必ず来ます。ただその日がいつかは、まだ誰にも分かりません。状況の更新は引き続きお伝えします。
追記:戦争時は旅行保険が原則無効に!
最悪飛行機に乗れなくなっても旅行保険がカバーしてくれるーーそんな甘い考えは、残念ながら現実的ではありません。実は、多くの海外旅行保険では、「戦争免責」というルールが定められており、戦争が理由に発生した損害については一切の補償を受けられない事となっています。詳しくは下記記事にて解説しているので、正しい保険選びに役立ててください。
この記事は2026年3月1日時点の情報に基づいています。状況は急速に変化しています。各航空会社の公式サイトおよび外務省海外安全情報を必ずご確認ください。
過去の中東渡航リスク関連記事はこちらから:
中東・アラブ旅行情報オープンチャットの新設のお知らせ
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