南竿島で宿を選ぶなら、空港や福澳港に近いエリアが利便性は高い。ただ私があえてオススメしたいのは、島の西端に位置する津沙村だ。アクセスはやや不便だが、その分得られる体験の濃度が違う。今回は1月のオフシーズンに数日滞在した経験をもとに、津沙村での暮らしぶりをシェアする。
津沙村とは

津沙村は南竿島の西端、雲台山の下方に位置する小さな聚落だ。南竿の中では中国大陸に最も近い場所にあり、入り江に面して石造りの家々が急斜面にへばりつくように建ち並ぶ。赤茶色の瓦屋根が段々と重なりながら海へと降りていく景観は、「南竿で最も美しい聚落」と言われ、プロヴァンスの鷲の巣村にも例えられる。

村の名前の由来は、かつてこの地にあった金色のきめ細やかな砂浜から。「金沙」と呼ばれていたのが、後に同じ発音の「津沙」に改められたという。今は金色というほどではないものの綺麗な砂浜が残っており、村の目の前すぐの場所で海水浴に興じることもできる。
私が滞在していた間にも、台湾の高校生らが旅行でこの浜を訪れていた。台湾本土では味わえない、綺麗で穏やかな浜と海。台湾人にとっても、この場所は特別さが感じられる環境なのだろう。

村は釀酒業でも知られており、老酒を仕込む甕が広場に並ぶ光景が日常だ。伝統的な石造り建築群は文化財として登録されており、保存状態も良い。近年は空き家をリノベーションしてゲストハウスを経営する動きも進んでいるが、私が訪れた1月はオフシーズンで、多くが休眠状態だった。

現在の津沙は正直なところ、他の集落に比べると、やや寂れた雰囲気が漂う。ただその分、古い建築群が醸し出す独特の味わいがそのまま残っている。観光客であふれず、漁師たちが行き交う光景は、台湾本土とは異なる風情を感じさせてくれる。観光地化されていないありのままの暮らしが、ここにはある。
なぜ津沙村を選んだのか

南竿の中心部は空港や港に近く便利だが、街っぽい雰囲気よりも少し田舎でのどかな聚落で過ごしたかった。海風に吹かれながらのんびりと時間を使い、何より南竿らしい雰囲気を味わいたかったのだ。津沙村はそうした条件をすべて満たしていた。石造りの家、老酒の甕、夕陽に染まる海。ここには南竿の原風景がそのまま残っている。
馬祖津沙背包客棧での滞在

今回泊まったのは「馬祖津沙背包客棧」。いわゆるドミトリー形式で予約していたが、1月のオフシーズンだったため他に客がおらず、一棟貸し切り状態になった。結果的に田舎の別荘にゆったりしに来たみたいな過ごし方ができてよかった。

伝統的な石造り建築を改装した宿なので、建物自体に味がある。窓を開けると路地が見え、朝は石段を降りてビーチまで散歩し、夕方は村の広場でぼんやり海を眺める。そんな贅沢な時間の使い方ができる場所だ。

若者向けの安宿ということもあり、オンシーズンには外国人旅行者の姿も見かけるらしい。ただ私が訪れた冬場は完全に貸し切りで、むしろその静けさが心地よかった。

アクセス
一応バスも通っているのでバスでのアクセスも可能だが、個人的にはフットワークを優先して電動スクーターで来ることをオススメする。空港や港からは距離があるが、島内の移動はスクーターがあれば自由度が格段に上がる。
村の暮らし

津沙村には商店街があるわけではなく、ありのままの生活が残っている。夜になると街灯が灯り、石畳の路地に温かい光が落ちる。古い理髮店の看板が壁に掛かったままになっている。村の広場には老酒を仕込む甕が置かれ、背後の斜面には石造りの家々が積み重なる。釀酒業で知られる村だけあって、年に何度か比較的大きな老酒のイベントが開かれるらしい。

夕陽も美しい。たそがれ時になると、海と石造りの家々がオレンジ色に染まり、なんとも言えない情緒が生まれる。時間に余裕があるなら、夕方を狙って村を散策するのがオススメだ。
津沙小館:村唯一の食堂

飲食店は「津沙小館」という一軒しか営業していない。夏にはもう少し増えるのかもしれないが、営業時間も17時から19時頃までとかなり短いので、タイミングが合わないと食いっぱぐれる。実際、滞在中に何度か食事を逃し、清水村まで走ることになった。

ただし津沙小館で食べられる料理は地元の味で美味い。淡菜(ムール貝)の酒蒸し、紅糟を使った炒飯、シンプルな炒高麗菜。どれも素朴ながら素材の味がしっかりしている。

店のおじさんが無言で地産の老酒を注いでくれる。メニュー表を見るとかなり多彩な料理が並んでいるが、実際に作れるものは日によって変わるようだ。
土産店と名産品

村にはちょっとした土産店もある。馬祖名物の干魚や、紅糟(老酒の酒粕)が有名だ。店内には試食用のテーブルが設けられており、様々な種類の干魚を味見できる。紅糟は大瓶で180元ほどで売られており、発酵食品好きにはたまらない。

#まとめ
津沙村は利便性を求める旅には向かないかもしれない。ただ、馬祖らしい風景の中でゆっくり過ごしたいなら、これ以上の場所はないと思う。夕陽、石造りの家々、老酒の甕、海風。そのすべてが、ここでしか味わえない時間を作ってくれる。
次回の後編では、津沙村の見どころを詳しく紹介する。