
南太平洋の島国ナウルが、国名を変えようとしている。
といっても、ナウルという国名を知っている日本人がどれだけいるだろうか。面積約21平方キロメートル、人口約1万人。バチカン、モナコに次いで世界で3番目に小さい独立国で、地図上ではほとんど点にしか見えないような島だ。地理の授業で一度だけ登場して、そのまま記憶の海に沈んでいった、という人も多いかもしれない。
そんなナウルが今、世界的な注目を集めている。現在の「ナウル共和国」から、現地語の呼称「ナオエロ(Naoero)共和国」への国名変更に向けた憲法改正案が2026年5月13日に議会で全会一致で可決され、今後は国民投票でその是非が問われることになった。
そして、その名前の響きから、一部の日本男子の間ではどよめきが起こっているというのだ。
植民地支配が生んだ「よその国の発音」
そもそもなぜ国名を変えるのか。背景には植民地支配の長い歴史がある。
ナウルで話されている言語はナウル語(ドレリン・ナオエロ、Dorerin Naoero)で、国民の大多数が英語とともに日常的に使っている。政府の説明によれば、「ナウル」という名称はもともと現地の言葉「ナオエロ」を外国人が正しく発音できなかったことに由来する。つまり住民が自ら選んだ名前ではなく、外からやってきた支配者の都合で便宜的につけられたものだったのだ。
ナウルの歴史を辿ると、1888年にドイツ領となったのを皮切りに、第一次世界大戦中にオーストラリアが占領し、戦後は英国・オーストラリア・ニュージーランド3か国による国際連盟の委任統治領となった。第二次世界大戦中には日本に占領され、戦後は再び3か国による国連信託統治領を経て、ようやく1968年1月31日に独立を果たした。実に80年近くにわたり、さまざまな国に支配され続けた島だ。
その間につけられた「ナウル」という名前は、独立後もそのまま国際社会に定着してしまった。デービッド・アデアン大統領は今回の提案について「わが国の伝統、言語、そしてアイデンティティーをより忠実に反映する」ことが目的だと説明している。議会では出席した16人の議員全員が賛成票を投じ、可決に必要な3分の2の多数を確保した。
政府はこの動きを「スワジランドからエスワティニへの改称や、トルコがTürkiyeを国際表記として求めたケース、太平洋ではチューク(Chuuk)の改称と同様の動き」と位置づけている。自分たちの言葉で自分たちの国を呼ぶ、という動きは世界的な潮流になりつつある。
「ナオエロ」になったら何が変わる?
さて、国民投票で可決されれば、変更は航空機・船舶の登録名から国連などでの公式表記、公文書、国家のシンボルに至るまで幅広く反映される予定だ。国際社会的には粛々と手続きが進むだけの話である。
ただ、日本語話者的な観点からすると、少し話が変わってくる。
「ナウル」という国名は、世界的に見れば決してそこまで有名ではなく、どちらかといえば地理の授業で一度聞いたことがある程度の存在感だった。ところが「ナオエロ」になった瞬間、日本語話者の一部が反応するであろうことは、もはや避けられないだろう。「ナ」「オ」「エ」「ロ」という4文字が並ぶだけで、ある種意味深な連想をしてしまう人種が一定数いることは周知の事実だ。
エセックス大学、オマーン国際空港(おまーん・こくさいくうこう)のように、何故かとは言わないが、何かのきっかけでネットミームとして定着してしまった地名・施設名は世界に数多くある(もっとも、オマーン国際空港という名前の空港は実在しないのだが)。「ナオエロ共和国」も、国民投票が可決された暁には、そういったミーム地名の仲間入りをする可能性が十分にある。Xあたりでひっそりとバズる未来が、なんとなく見えてくる。
当のナウル国民にとっては、長年の植民地支配の歴史に決別し、自分たちの言葉を取り戻す真剣な国家的意思決定だ。それは間違いない。ただ、遠く離れた日本のインターネットの片隅では、別の意味でひっそりと盛り上がる人たちが出てくるかもしれない。
国民投票の結果を、固唾を飲んで……あるいはニヤニヤしながら待っている人が、世界のどこかに一定数いることは想像に難くない。
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