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貴州省・肇興侗寨の篝火晚会に参加してみた|トン族の夜を彩る文化ショー【侗族大歌】

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トン族の村で、キャンプファイヤーに参加してきました

「トン族(侗族)」という少数民族をご存じだろうか。中国南部の山岳地帯、主に貴州・広西・湖南にまたがる地域に暮らす民族で、独自の言語・建築・音楽文化を持つ。今回はその代表的な集落のひとつ、貴州省・肇興侗寨(ちょうこうトンさい)を訪れ、夜に開催される伝統文化ショー「篝火晚会」を体験する機会を得たのでレポートしたい。

肇興侗寨とはどんな場所か

肇興侗寨は、貴州省黎平県に位置するトン族最大規模の村落のひとつ。村の中心を川が流れ、その両岸にトン族の象徴的建築である鼓楼(ころう)花橋(風雨橋)が5棟ずつ立ち並ぶ。

鼓楼は村の集会や祭礼の場となる塔状の建築物で、トン族の社会の中心だ。花橋は川をまたぐ屋根付きの橋で、雨宿りや休憩だけでなく、かつては若い男女の出会いの場でもあったという。「村があれば必ず鼓楼があり、楼があれば必ず風雨橋がある」という言葉がトン族には伝わっており、この2つが揃う場所は「福地」とされてきた。

花橋、あるいは風雨橋と呼ばれる、屋根付きの橋

現在は観光地として整備されており、入場にはチケットが必要。村内には宿泊施設も多く、1泊以上してじっくり回るのがおすすめだ。

きっかけは「大型連休にはイベントがある」という情報

肇興侗寨では文化発信の取り組みとして、五一(メーデー連休)などの大型連休にあわせてイベントが開催されると聞いていた。調べてみると、滞在日にもちょうど開催予定とのことだったので行ってみることに。

五一の演目スケジュール

ただ、正直なところ最初はそれほど期待していなかった。1人90元という金額は決して安くはないが、一方通行的に、演劇をぼんやり眺めるだけなんじゃないかと思っていたのだ。ところが実際に参加してみるとその予想はいい意味で裏切られ、実際にはかなりインタラクティブな内容で、気づけば最後まで飽きることなく楽しんでいた。

チケットは1人90元。景区へのメインゲートで村への入場車票とのセット販売もされているが、現地でも単体購入が可能だ。今回はイベント会場に到着してから直接購入した。

なお、チケットには番号が振られており、その番号で後述する「敬酒礼」への参加者が抽選される仕組みになっていた。残念ながら我々の番号は当たらなかったが、それについては後ほど触れる。

会場の雰囲気

会場は村の中心部にある屋外の円形広場「肇兴十字街表演場」。中央に薪が積まれ、それを取り囲むように木製のベンチが弧を描いて並ぶ。正面には木造の舞台、その奥には村の鼓楼の一つである「智団鼓楼」がそびえる。大型連休真っただ中だったが、開演前はまだ客もまばらで、静かな夜の空気の中、赤くライトアップされた鼓楼だけが存在感を放っていた。

早めに会場入りして、前のほうの席をゲットしておこう

入場時に少し印象的なやりとりがあった。受付にいた若い女性に、どこから来たのかと声をかけられた。拙い中国語の発音から外国人だと気づいたのかもしれない。日本から来たと答えると、かなり珍しがられた。せっかくなので聞き返してみると、ここに住んでいるトン族だという。伝統衣装を着ていたものの、顔立ちだけではトン族なのか漢族なのか、あるいはそれ以外なのかまったく判別がつかない。少数民族というと外見的な特徴を想像しがちだが、そういう先入観を軽く崩された瞬間だった。

演目の流れ

ショーは大まかに言うと、「静かな鑑賞パート → 点火と祝祭パート → 観客参加型のフィナーレ」という構成になっている。前半は座って楽しむ本格的な民族芸能、後半になるにつれてどんどん観客を巻き込んでいく。この緩急のつけ方が絶妙で、最後まで飽きさせないのだ。

司会は民族衣装をまとった女性が務め、各演目の前に解説を挟みながら進行していく。中国語だが、内容が視覚的にも伝わってくるので多少言葉が分からなくても十分楽しめるはずだ。

演者は基本的に若者が中心だが、年齢層には幅があり、ベテランと思しき落ち着いた所作の人もいれば、あきらかに年若い演者もいた。観光向けのショーでありながら、世代をまたいで受け継がれているものの厚みのようなものが、そこにあった。

侗族大歌——指揮も伴奏もない合唱

ショー最初の大きな見どころ。司会者がマイクを手に語りかける。

「トン族大歌は、多声部・無指揮・無伴奏・自然なハーモニーによる民間の合唱芸術です。1980年代にはフランス公演も行われ、2009年にはユネスコの無形文化遺産代表一覧表に登録。国連からは『一つの民族の声であり、人類の文化である』と評価されています」といった旨の解説だ。

銀の頭飾りをつけた女性たちがステージに並ぶ。マイク一本だけを前に、楽器も指揮者もなく、声だけが静寂の中に広がっていく。《布谷催春》——カッコウが春を告げるという意味の曲だ。

心なしか、キーンと響く声質で絞り出された歌声は、独特な倍音を含んでいるように感じ、それ故に、得も言われぬエキゾチックさを孕んでる。そして重なり合うハーモニーは、西洋音楽のそれとは少し異なる独特の和声によって、未知の世界へと参加者を誘っていた。現地で聴いてはじめて、あの「人類の文化」という評価の重さが少し分かった気がした。

ただ、このショーが単純に「伝統の保存」だけを目指しているわけではないのも面白いところだった。別の演目では、エレクトロ・ポップ風のビートにのせて歌うパートもあった。アカペラの純粋さとは対照的な、モダンなアレンジだ。伝統を守りながら現代的な形で発展させていこうという姿勢は、ある意味でいかにも中国らしいダイナミズムで、それはそれで興味深かった。

松明の入場と点火——篝火晚会の核心

大歌が終わると、場の空気が一変する。暗闇の中、松明を掲げた演者たちがステージの奥から会場へと入場してくる。民族衣装のシルエットと揺れる炎が重なり、背後の鼓楼とともに象徴的な景色を描く。

そのまま中央に積まれていた薪に火が放たれ、キャンプファイヤーが勢いよく燃え上がる。ここから篝火晚会は文字通り「焚き火を囲む祭り」へと変わっていく。

着火後は、観客も参加型のキャンプファイヤータイムとなる。この時点でまだまだ半分ほどしか時間は経過していないのだが、会場は既に大盛り上がりを見せる。全員が立ち上がり、炎を囲みながら自由に踊る。

シャイな人は、事前に糯米酒をしこたま飲んで参加するのが吉だろう。

観客参加——ハンドドラムと十字ステップ

しばらくして、場が一気に和むパートがやってきた。「歓楽トン家人」という曲の演奏前に、司会者が会場に呼びかける。

「この曲には大琵琶、小琵琶、牛腿琴など、トン族の伝統楽器がたくさん使われています。鍋や釜、お椀など日常の道具も楽器になります。ところで、ハンドドラムを叩いてくれる方を2名募集します。チャレンジしてみたい方はいますか?」

トン族の音楽では、歌だけでなく伝統楽器も重要な役割を担う

すぐに手が挙がった。広西から来た子どもと、広東・肇慶から来た女性がステージへ。司会者が一人ひとりに出身地を確認し、同じく広西から来た人は手を挙げて!と客席に語り掛ける度に、あちこちから歓声が上がる。広西の家族連れ、広東の観光客グループ。やはり、アクセスの良さからか、南方からの参加者が大半の様子だった。

司会者がドラムの叩き方を説明する。続けてトン族の若者から簡単な十字ステップも教わり、2人はそれぞれ列の両サイドへ。演奏が始まると、ぎこちなくも一生懸命ドラムを叩く姿に会場が沸いた。

敬酒礼の抽選

ところで、前に触れたチケット番号による抽選についても、その後の展開に触れておこう。

イベントの最中に、チケット番号が読み上げられる場面があった。トン族の女性たちが酒壺を繋いで「お酒の滝」を作り、当選者がその流れを口で受けるという、貴賓向けの最高の歓迎礼儀だ。当選番号が読み上げられ、運よく選ばれた観客が2名、ステージへ上がった。

女性たちに囲まれながら、幾重にも重ねられた碗を差し出される様子は、見ているだけでも迫力がある。我々の番号は外れたが、次回への密かな楽しみにとっておくことにした。

刺繡文化の紹介と「最美繡娘」

ひとしきり賑やかなパートが続いた後、司会者がトーンを落として語りかけてくる。

「一針に一つの世界、一糸に一つの華やかさ。刺繡は私たちトン族の里で長い歴史を持ち、その精巧な技術で知られています。中国には四大刺繡(蜀繡・蘇繡・粤繡・湘繡)がありますが、私たちのトン繡はこの地域独自の刺繡法です。そして美しい村では、娘が生まれると、母親は自らの手で精巧な嫁入り道具を一式刺繡します。一針一針にトン族の勤勉さと知恵が込められ、機織りの一つ一つに母の祝福と願いが込められています」

解説に合わせて演者が実際の刺繡布を広げてみせる。緑と赤のコントラストが鮮やかな幾何学模様で、細かさに思わず目が引き寄せられた。

続く「最美繡娘(もっとも美しい刺繡娘)」というダンスでは、その文化が舞踊として表現される。ステージ端で2人が向き合って座り、その周囲でほかの演者たちが踊る構成。

確かにこの村では、いたる所で刺繍関連のグッズが販売されており、またいたると所で刺繍に夢中になっている女性を多く見かけた。そういった刺繍文化の浸透には、背景としてトン族ならではの伝統があったのだと改めて勉強になる。説明と実演が一体になったこの流れは、ただ見るだけでなく文化の背景がきちんと伝わってくる、丁寧な構成だと思った。

全員でキャンプファイヤーを囲む

ショーの締めくくりは、観客全員参加のダンスだ。「侗家姑娘爱唱歌(トン族の娘は歌が好き)」という曲で演者がお手本を見せる。

「最初の動作は両手を頭の上に挙げて叩く!準備して、左叩いて、右叩いて!次は両手で太ももを叩いてジャンプ!前に進んで手を振る、後ろに下がって手を振る!」。観光客も演者も混ざり合いながら、燃え上がるキャンプファイヤーの周りをぐるぐると回っていく。

最後は全員が手を繋いで「百人の輪(百人堂)」を作り、司会者の合図で両手を高く挙げながら、篝火の周りを走り回る。会場が一体となり、見ず知らずの中国人参加者たちと手を取り合う。学生時代の野外活動以来となるキャンプファイヤーを、遠い異国の山奥で中国人と分かち合う。ある意味で新鮮であり、そして懐かしさをも感じる体験となった。

まとめ

演目終了後には、演者たちとの記念撮影タイムも。ぜひ、恥ずかしがらずに参加しよう。

90元という価格は少々高額かもしれないが、内容のボリュームはかなり高い。五一期間ということで村全体が祝祭モードだったのも相まって、非常に印象的な体験となった。まだまだ知名度が低く、貴州の山奥という立地もあってか、まだ近隣客が中心のローカルな祝祭感が残っている。

篝火晚会は通常、夜20時〜21時・21時半〜22時半の2回開催されているようだった(時期によって変動の可能性あり)。会場は「肇兴十字街表演場」。

肇興侗寨に泊まるなら、夜のこのショーはぜひ組み込んでほしい。侗族の伝統と現在を垣間見れる、旅のハイライトとなるはずだ。