
広西チワン族自治区といえば桂林、というイメージが強い。カルスト地形の美しさは本物だし、一度は行く価値がある場所だと思っている。ただ陽朔の街は今や完全に観光地化されていて、西街周辺はもはや外国人バックパッカーと土産物屋が並ぶエリアになっている。桂林の景観を目当てに来たのに、人の多さと商業的な雰囲気が先に来る、というのが正直なところだ。
そういう経験をした人に紹介したい場所がある。広西賀州市鐘山県の「水墨画廊」だ。
同じカルスト地形、同じ岩峰と田園の組み合わせでありながら、人はほとんどいない。入場も実質無料。中国語圏のSNSでは「免費版陽朔」「小桂林」と呼ばれることもそんな穴場観光地を、本記事では徹底紹介したいと思う。
鐘山百里水墨画廊景区とは

水墨画廊――正式名称は「鐘山百里水墨画廊景区(钟山百里水墨画廊景区)」で、広西チワン族自治区賀州市鐘山県公安鎮に位置するカルスト地形の観光エリアだ。計画面積は60平方キロメートルに及ぶ。
一言で言うと、だだっ広い田園・畑の中に、ぼこぼことカルスト地形の岩峰がそびえ立っている空間だ。整備された遊歩道や展望台があるわけではなく、田畑の脇の農道を走りながら、山を間近に感じられる場所になっている。

正直、行くまでは桂林より景観が劣る「妥協版桂林」なのかと思っていたが、実際はそんなことはなく、岩峰のスケール自体は桂林に全く引けを取らない。むしろ水墨田園では山の密度が濃く、バイクで農道を走ると岩峰の間をすり抜けるような感覚がある。桂林の漓江クルーズのように「風景を眺める」というより、「風景の中に入り込んでいる」という感覚に近い。また、山と広大な田園が一体となった景色は桂林でも見られないもので、どちらが上というより、桂林に行ったことがある身であっても似て非なる別の体験として楽しむことができるのだ。

空気は広西らしい潤いがあり、田園の中を走っていると体がほぐれるような感覚がある。エリア内には蓮池や古い石橋、農家の集落、廟なども点在していて、道を走れば牛を連れた農家とすれ違うこともある。中国の農村の日常と、圧倒的なカルスト地形が、観光地らしい演出なしに共存している。
知名度はまだ低く外国人旅行者にはほぼ知られていないが、2019年に国家4A級観光地に認定されており、公式評価としては非常に高い水準にある。
アクセス・入場料
鐘山県城から約16〜18キロメートルの場所にあり、鉄道を使う場合は貴広高速鉄道の鐘山西駅が最寄りになる。広州からは高鉄で2時間程度とアクセスしやすく、桂林以上に広州・香港から容易に来ることができる。そのため最近は、広州・深圳・香港方面から自家用車やレンタカーでドライブがてら訪れる人も増えているらしい。

また、黄姚古鎮も車で40分前後の距離にあるため、水墨田園+黄姚のセットで「広州からちょっと足を延ばす旅」として完結する。
入場料については、景区の正門からアクセスする場合は門票がかかるが、正門を通らない農道からエリアに入れば不要だ。田園の中は基本的に自由に入れる構造になっており、地元の人も農村の生活道路をそのまま使ってアクセスしているので、自力で周遊する場合は実質無料で楽しめる。正門から入って景区の観光バスを使う方法が公式の流れなのだが、自分のペースで止まれないので、後述する電動バイクでの移動の方が個人的にはオススメだ

電動バイクレンタルと荷塘村

さて、景区内を周遊するなら、電動バイクが断然おすすめだ。徒歩でもある程度の範囲なら回れなくはないが、景区内は予想以上に広く、かなりの健脚で、時間も持て余していないと見て回ることは難しいだろう。その点バイクなら取り回しがよく、気になった場所にすぐ止まれるのも大きい。
なお普通乗用車での走行はあまりおすすめできない。対向車とのすれ違いが難しい箇所も多く、特に雨の後は道がぬかるんで車では厳しくなる。

事前情報では景区すぐ手前の商店で借りられるとあったが、訪問した際には在庫がなかった。あてにしすぎないほうがいい。
個人的におすすめは景区近くの荷塘村でカフェや商店の老板に直接声をかけることだ。面倒であれば、幹線道路沿いのもう少し手前の町でレンタルして、そのままバイクで乗り込んでくるという手もある。

なお、荷塘村は飲食店、藍染め土産屋、民宿などが集まる小さな集落で、水墨田園観光の拠点として機能している。古い建築がそのまま残る旧村に、壁画やアートが少しずつ加わっていて、観光地チックでトレンディすぎるわけでもなく、かといって寂れた農村でもない。若者の感性をくすぐるような、ほっこりとした可愛らしい町並みが形成されつつある。

このエリアの民宿を拠点にして旅をするのも良し、あるいは、最近はカフェもオープンしてきており、バイクを借りがてら小一時間散策するだけでも悪くない。
なお、田園内には飲食店や商店がほぼないので、水と食料もここで調達しておくこと。
推奨ルートと所要時間
一般的に知られているルートは以下の通りだ。
遊客中心(ビジターセンター)OR 荷塘村→ 双元村 → 楓木林 → 公婆山 → 伟人峰观景台 → 遊客中心 OR 荷塘村

全行程約17キロメートルで、今回は荷塘村を拠点にこのルートを一周する形で走った。ドローンを飛ばしたりしながらゆっくり動いたので結果的に2時間半ほどかかったが、純粋に走るだけなら1〜2時間で回れると思う。ただし、気に入った場所で随時止まりながら進むことになるので、半日くらいの余裕を持って臨むのがいい。

ベストシーズンと注意点
一年中いつ行っても大きな問題はないが、最も人気が高いのは春(3〜4月)の菜の花シーズンで、一面の黄色い菜の花畑とカルスト地形の岩峰が重なる景色は圧巻だ。ただしこの時期だけは普段より人が増える。蓮の花は夏(7〜8月頃)が見頃で、荷塘エリアで楽しめる。秋冬は人がさらに少なく、朝や夕方は靄が出やすいため水墨画的な雰囲気が強まる。
注意点としては、道路がほぼ農村の生活道路で砂利道や舗装の悪い箇所も多く、雨の後はぬかるむため天気の悪い日や雨上がり直後の訪問はできれば避けた方が無難だ。日焼け止めと虫除けも必須。また、ドローン撮影に人気のスポットとしても知られているが、中国の無人機規制に従った手続きは忘れずに。
まとめ
桂林・陽朔の観光地化が進む中で、水墨田園はまだ静かなままだ。景観のスケールは桂林に引けを取らず、むしろ田園と岩峰が一体となった景色は、ここでしか見られないものがある。広州・香港からのアクセスも良く、黄姚古鎮とのセット旅行としても完結するので、まだ外国人旅行者がほとんど来ていない今のうちに訪れておく価値は十分にある。
今回は水墨田園の基本情報をまとめた。次回記事では実際に電動バイクで走り回った体験を、ルートや写真とともに紹介する。