はじめに:激戦を勝ち抜いた、その先へ
前編では、数秒を争うハナウマベイの予約バトルと、それを勝ち抜くための「事前リハーサル」という裏ワザについて書いた。狭き門を無事にくぐり抜けた私は、いよいよ当日を迎える。
そして今回、当日レポートには裏テーマが一つある。ハワイに来る前、アメリカ人の友人から「ハナウマベイには突進してくる危険な魚がいるから気をつけろ」と脅されていたのだ。その正体は、後で判明するがハワイの州魚フムフムヌクヌクアプアア。

州魚というくらいだから決して超レアな魚ではないのだが、問題は私の持ち時間。トランジットの限られた滞在の中で、果たしてこの"突進伝説"の魚に本当に出会えるのか。そして噂通り、突進されるのか——それを確かめる一日でもあった。
いざ出発:空港から30分で到着

事前情報の通り、シュノーケリングギアは現地で一式借りられるとのことだったので、持ち物は水着とセームタオルくらい。あとは身軽にレンタカーへ乗り込んでゴーだ。
ちなみにハワイでのレンタカー利用の流れや、運転時の注意点などについては、別途しっかり記事を書くつもりなのでそちらに譲る。とにかくここで強調したいのは、そのアクセスの速さ。前編でも触れたが、バスなら乗り継いで2時間以上かかる道のりを、空港からわずか30分ちょっとで着いてしまった。この時短効果は、限られた時間で動くトランジット観光では本当にありがたい。

ゲートに到着したら、予約時に届いたメールを提示して通過。そのまま駐車場へ車を停める。「駐車枠は約300台と少なく、朝早く埋まる」と聞いていたので身構えていたが、朝一番に来た限りではまだまだ余裕たっぷり。やはり早朝着は正義だ。
ビジターセンターで受付
必要なものだけを持って、身軽な状態でビジターセンターへ向かう。ここで予約のQRコードを提示して受付を済ませる。前編で準備した確認画面のスクショが、ここで役立つ。

受付を通ると、まずはちょっとした展示エリアへと通される。ハナウマベイの成り立ちである火山地形の解説や、湾に暮らす生き物の紹介など、なかなか見応えのある展示が並んでいる。その日の潮の満ち引きスケジュールなんかも掲示されていて、これから海に入る身としては地味にありがたい。
そしてこの展示で、例の"突進してくる危険な魚"の正体が判明した。フムフムヌクヌクアプアア——ハワイの州魚である。舌を噛みそうなこの長い名前は「豚のような鼻先を持つ魚」という意味で、ハワイ神話では姿を変えられる半人半豚の英雄カマプアアの化身とも伝えられている、由緒ある魚だ。地元では略して「フムフム」と呼ばれるのが普通らしい。
「州魚がそんなに危険なわけ…」と半信半疑だったが、後で調べると友人の話は本当だった。トリガーフィッシュの仲間であるフムフムは縄張り意識が非常に強く、特に産卵期に巣を守っているときは攻撃的になる。自分より大きな相手にも立ち向かい、巣に近づきすぎたダイバーに突進して噛みついてくることすらあるという。とはいえ普段は警戒心が強いだけなので、こちらから距離を詰めたり巣を刺激したりしなければ基本は安全。ヒレを立てたり突進してきたら「近づきすぎ」のサインだ。
——というわけで、本日のミッションが決まった。「州魚フムフムに会う。できれば突進されずに」。州魚とはいえ、狙って会えるかどうかは時の運。限られた滞在時間、探せるのはワンチャンスだ。
必修の環境保護ビデオ:海を守るためのルールを学ぶ
展示を眺めていると、時間枠ごとに順番に案内され、ビデオルームへと通される。ここが前編でも触れた、全入場者に義務付けられている約9分間の講習だ。

内容は大きく二つ。一つは海洋保護のためのルールで、サンゴや魚には決して触れないこと、そして生態系に有害な成分を含む日焼け止めを使わないこと(前編で触れたリーフセーフ日焼け止めの話がここで効いてくる)。もう一つは安全のためのルールで、特に印象的だったのが「ポールが立っているエリアには近づかない」というもの。そこは離岸流(リップカレント)が発生しやすい危険地帯なのだという。ただ美しいだけの海ではなく、自然の海であることをきちんと自覚させてくれる、良い講習だった。
坂道の先に広がる、圧巻のベイビュー

一通りの講習を終えたら、いよいよビーチへ。ビーチレベルまではゴルフカートで送ってもらうこともできるが、そこまで遠くないので歩いて下りていくことにした。

そして、この坂道を下っていく道中の景色が、とにかく圧巻だった。眼下に広がる三日月形の湾、吸い込まれそうなグラデーションの海。展望ポイントから見下ろすハナウマベイは、まさに「オアフ一きれい」と称される風景そのもの。ここで一度足を止めて写真を撮る人が多いのも納得だ。
いよいよ入水:ミッション「フムフムを探せ」開始

坂を下りきると、ビーチに到着。朝イチということもあって、まだ人はまばら。この静けさこそが早朝来訪の最大のメリットで、やはり朝イチがおすすめだと改めて実感する。

ちなみに、こういうビーチで気になるのが貴重品の管理だ。荷物対策や防犯対策については別記事で詳しくまとめているので、そちらもぜひ読んでほしい。
まずはビーチでシュノーケリングギアをレンタル。料金は25ドルほど。正直「高いな」とは思うが、手ぶらで来られる身軽さを考えれば、これは必要経費と割り切る。

そしていよいよ入水。……きれいだ。透明度は体感で8mほどはあっただろうか。水温も朝イチにもかかわらず暖かく、ウェットスーツなしでまったく問題ない。さあ、州魚は見つかるか。

入ってすぐ迎えてくれたのは、黄色い体に黒い縦縞のコンヴィクトタン(和名シマハギ、ハワイ名 manini)。囚人服みたいな縞模様からConvict Tangと呼ばれる、ハナウマベイの常連だ。群れでちらちらと泳ぐ姿が、いかにも南国の海。フムフムではないが、幸先はいい。

岩陰にびっしり群れる、黄色に青ラインの美しい魚。これはタアペ(ta'ape、ブルーストライプ・スナッパー)。ぱっと見の華やかさに反して、実はこの魚、ハワイ在来ではない移入種だ。もともとハワイにいなかったのが、今や主要な島々のリーフ全体に広がってしまい、数ある移入種の中でもこの海域の生態系に最も大きな悪影響を与えてきた種とされる。綺麗なのに厄介者、という複雑な立ち位置。保護区でこれを見ると、生態系を守ることの難しさをつい考えてしまう(ちなみに白身で味は良く、食材としての活用も進んでいるらしい)。

お次は、なんとも珍妙な魚。この笛のように細長い体はトランペットフィッシュ(ハワイ名 nunu)。一見すると漂う木の枝か海藻にしか見えないが、これがなかなかの策士で、体を縦にして珊瑚に同化し、獲物の小魚にそっと忍び寄って一気に吸い込むという待ち伏せ型のハンターだ。大きな魚の群れに紛れて狩りをすることもあるらしい。見た目のインパクトも相まって、出会えるとちょっと嬉しい一匹。

ひときわ大きく、青緑に輝く体で悠々と泳いでいたのがブダイ(ハワイ名 uhu)。くちばし状の口でサンゴをかじり、あの白い砂を作り出す立役者でもある。存在感は随一で、これが横切ると一気に画面が華やぐ。ブダイは他の南国でも見かけるが、ハワイには固有種が多数いる。なお、沖縄ではイラブチャーと呼ばれ食用魚としても親しまれている。

岩場をすいすい泳ぐ、緑がかった細身の魚もいた。よく見ると口先が鳥のくちばしのように長く突き出ている——バードラス(和名クギベラ、学名 Gomphosus varius、ハワイ名 hīnālea ʻiʻiwi)だ。この長いくちばしを珊瑚の隙間に差し込んで獲物をついばむ変わり者。写真の個体は緑がかった地味な色だが、これはメスか若魚で、成熟したオスになると体全体が目の覚めるような青緑一色に変わるという。ハワイの海はベラの仲間が特に豊富で、固有種も多い。派手ではないが、こういう一匹一匹に個性があるのが、魚好きにはたまらない。
ほかにも黄色と黒の縞を持つニザダイ(サージョンフィッシュ)の仲間や、各種のタン、バタフライフィッシュと、次から次へと魚が現れる。魚影の濃さは想像以上だ。
そして本日のミッション、達成

——いた。
茶色い体、目からエラへ抜ける黒帯、体側の黄色いV字ライン、口元のほんのりした青。まぎれもなくフムフム、本日の主役である。会えた。しかも、一匹だけではなかった。

一匹見つけると、不思議と次々に目に入ってくる。岩陰をのぞけばいる、砂地に出てくる個体もいる。気づけばあちこちでフムフムと遭遇していた。さすが州魚、いるところにはちゃんといる。会えるか不安だった数十分前の自分に教えてやりたい。

そして、ついに一匹が正面からこちらを向いた。例の"突進"が頭をよぎる。身構える私。……が、フムフムはこちらをちらりと一瞥すると、ふいっと横を向いて岩の隙間へ泳ぎ去っていった。
こちらの様子を気にしては近づいてきて、少し距離をおいて、暫くしてまた近づいてきて、と意外と人懐っこい挙動だ。
結局、この日フムフムに突進されることは一度もなかった。産卵期の巣に近づきさえしなければ、彼らはただ警戒心の強い、少し気位の高い綺麗な魚。友人の脅しは、半分は本当で、半分は「近づきすぎなければ」という但し書き付きだったわけだ。ミッション達成、そして無傷。大満足である。
帰り支度:真水シャワーとお土産ショップ
たっぷり泳いで満足したら、帰り支度。ビーチには真水のシャワーも用意されているので、体についた砂や塩をしっかり流してから引き上げよう。これがあるとないとでは、帰りの快適さがまるで違う。

そして帰り際、忘れずに立ち寄りたいのがお土産ショップ。ハナウマベイならではのオリジナルアイテムが色々と揃っていて、訪問の記念にちょうどいい。フムフムのグッズもあったので、ミッション達成の記念に一つ手に取るのも悪くない。
まとめ:初心者向け、あなどることなかれ

ハナウマベイは、浅瀬にもリーフが広がって魚影が濃く、波も穏やかなことから、よく「初心者におすすめのシュノーケリングスポット」として紹介される。それは間違いなく事実だ。足のつく浅さで、これだけの魚に囲まれる体験ができる場所はそう多くない。
だが——正直に言おう。世界のあちこちで、それなりの数の海を潜り歩いてきた中級者を自認する私でも、このベイは十分すぎるほど味わい深かった。州魚フムフムはもちろん、ハワイ固有種のサドルラス、厄介者だが美しい移入種タアペ、策士のトランペットフィッシュ。「初心者向け」の一言では到底片付けられない、生態系の物語がこの浅瀬には詰まっている。初心者向けと聞いて侮るなかれ。中級者以上こそ、じっくり観察して楽しめるスポットだ。
数秒を争う予約バトルも、必修の講習も、厳格な保護ルールも、すべてはこの海を守るため。その手間を乗り越えた先に待っていたのは、人が少なく静かで、透明度抜群で、そして"州魚に会える"別格の海だった。ホノルルでまとまった時間が取れるなら、たとえトランジットであっても、足を運ぶ価値は十二分にある。