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黄姚古鎮「永楽居」宿泊レポート|山水に囲まれた穴場景区で見つけた古民家ゲストハウス

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静かな山水景区、黄姚

中国・広西というと、まず名前が挙がるのは「桂林山水甲天下」で知られる桂林、そしてその近郊の陽朔だろう。しかし近年は外国人観光客もますます増え、陽朔のメインストリート西街は「洋人街」と呼ばれるほどの賑わいだ。

その点、今回訪れた黄姚古鎮は、同じ広西のカルスト地帯にありながら、桂林・陽朔ほど知られていない穴場だ。似たような山水の景色を持ちつつ、内陸にあって世界遺産でもないためか、観光客でごった返すことも少ない。

そして黄姚古鎮に行くなら、古鎮景区の中に泊まるのが一番だと思う。今回泊まった「永楽居」は、メインの通り沿い、古鎮のほぼ中心にある宿。看板を見ただけでも年季が伝わってくる、明清時代の古民家を改装した宿だった。

永楽居とは? 黄姚の古い町並みのなかでも一際な古民家

黄姚古鎮はそもそも、町全体が古い。明清時代の建物が300棟以上そのまま残っていて、嶺南風の青煉瓦・灰瓦の家並みが、今も観光用の書き割りではなく生活の場として使われている──というのがこの古鎮の姿だ。そのなかで永楽居は、ただの「雰囲気のいい古民家リノベ」という枠を超えて、建築的にも一目置かれている存在らしい。

今回宿泊した永楽居

調べてみたら、東南大学とフランスの保護チームが共同で行った明清古建築の保護調査で、莫氏司馬第や郭家大院といった名だたる建物と並んで、永楽居も測絵(実測調査)の対象になっていた。

構造としては「一開間三進深」、つまり間口は狭く、奥に向かって三つの空間が縦に連なる造りで、二つの庭の間に天井(吹き抜けの中庭)を挟む伝統的な明清建築らしい形になっている。この「天井」が、後で泊まってみて一番効いてくる。

そんな予備知識を頭に入れてから、実際に泊まりに行った。

少しトリッキーなアクセス

立地自体は古鎮のメインストリート上で、観光のベースにするには申し分ない。ただ、これは実際に行った人にしか分からない落とし穴なのだけれど、高徳地図(Amap)のピン位置が実際の入り口と微妙にズレていて、表示された場所に着いてもそれらしき建物が見当たらない。

結局、スマホと見比べながら近くをぐるぐる歩く羽目になった。古鎮の中は丁字路ばかりで地図がそもそも当てにしにくいので、もし行く人がいたら、アプリのピンよりも、看板に書かれた「永楽居」の三文字を直接目で探した方が早いと思う。

看板を目印に。大通りに絞って探せばすぐに見つかるはず。

なお行ったのは五一(労働節)の連休中。中国の大型連休のど真ん中だったので、正直、値段が跳ね上がっているか、そもそも満室だろうと覚悟していた。でも実際は極端な値上がりもなく、運よく2階の部屋をすんなり予約できてしまった。チェックインのとき、老板(宿の主人)にも「よくこの民宿を見つけたね」と驚かれた。日本人客は、あまり来ないのかもしれない。ここでも穴場感を実感する。

古さと快適さのバランスが取れている客室

部屋は2階の角部屋。木の壁と梁がそのまま生かされていて、部屋の天井も古民家らしく斜めに傾斜している。

ベッドの上には竹の墨絵が一枚だけかけてあって、変に飾り立てすぎない、この引き算の感じが好ましい。ベッド自体はしっかりしていて、枕もシーツも清潔。古い建物にありがちな「趣はあるけど寝心地が犠牲」というパターンではなかった。

そしてこの部屋の一番のポイントが、窓から中庭を見下ろせること。事前に建築の資料で読んだ「吹き抜けの中庭(天井)を挟む造り」というのを、まさに自分の部屋で体感できるわけだ。上の階にいても、下の中庭の気配や緑がずっと視界の端に入ってくる。風の通り方も、光の落ち方も気持ちいい。

この土地の昔ながらの建築の知恵が、そのまま今の快適さに直結している感じがして、「ただ古い建物に泊まっている」以上の説得力があった。夜、椅子に座って中庭をぼーっと眺めているだけで、いつの間にか時間が過ぎていく。何をするでもないこの時間が、妙に贅沢だった。

正直なところも書いておくと、建物が古いぶん、階段はかなり急で踏み板も狭い。小さい子ども連れの人や、荷物の多い人は少し気をつけた方がいい。防音もそこまで期待しない方がよくて、廊下を歩く音や下の中庭の話し声は普通に聞こえてくる。ただ、これも古民家に泊まるという体験の一部だと割り切れば、まったく気にならない程度だ。

今回いちばん良かったのは、老板とのお茶の時間

部屋のことをあれこれ書いたけれど、正直に言うと、今回の一番の思い出は老板との交流だった。

チェックインしてすぐ、老板のおじさんに「お茶でも飲んでいかない?」と声をかけられた。紅茶か緑茶どっちがいい?と聞かれたので緑茶を選ぶと、そこから何煎も淹れてもらいながら、ゆっくり話し込む時間になった。老板は自分の茶葉がよほど自慢なのだろう、「いい茶葉ってのは、何煎飲んでも風味が落ちない。少しずつ味が変わっていくのを楽しむもんなんだ」と、嬉しそうに説明してくれる。

茶器も、既製品然としたセットではなかった。雑穀を粉にするための大きな石臼を、そのまま茶卓として使っている。長く生活のなかで使い込まれてきた道具そのものの質感が、なんともよかった。こういう茶どころの土地では、観光客向けに整えられた茶芸ショーではなく、こういう普段の暮らしのレベルでの茶へのこだわりが、ふっと垣間見える瞬間がある。演出された文化ではなく、地続きの生活として茶がそこにある感じ。

翌日、チェックアウトのときも「ついでに茶飲んでいくか?」と声をかけられた。今度は、広西の田舎の山の上で仕入れてきたという、ちょっと秘蔵っぽい茶葉を出してくれる。これがまた美味しくて、結局また何煎もおかわりしてしまった。あんまり「美味しい、美味しい」と言いながら飲んでいたからか、最後にはその茶葉を少し、お土産にと持たせてくれた。たった一晩泊まっただけの、しかも言葉も完璧ではない外国人客を、こんなふうに見送ってくれるとは思っていなかった。建物の良さ以上に、この人の記憶で永楽居のことを覚えている気がする。

ちなみに、このお茶タイムを楽しみすぎて、危うくこの日の高鉄を逃しかけたのは、今となってはいい思い出だ。

古鎮の夜と、その周辺

ところで、宿を出てすぐの「永安門」のあたりは、夜でも比較的人通りが多い。提灯の灯りで赤く染まった石畳の通りを、観光客がのんびり行き交っている。古鎮自体はそれほど広くないので、宿からふらっと歩いて夜の街を一周し、また戻ってくる──それでちょうどいい散歩になった。桂林・陽朔のような喧騒はなく、かといって寂れているわけでもない、この塩梅がちょうどいい。

途中で見かけた「聚賢書院」という宿兼カフェも、入り口の雰囲気が良くて気になった一軒。コーヒーやドリンクを出していて、永楽居と同じく古い建物をそのまま活かした造りだった。次に来ることがあれば、泊まる候補にしてもいいかもしれない。

ご飯については、古鎮内の「夢公館」で食べた黄精浸鶏が印象に残っている。鶏肉は柔らかく、スープはやや甘め。広東出身だという老板が作るだけあって、出汁の取り方がしっかりしていた。これも宿から歩いてすぐなので、合わせて立ち寄る価値がある。

まとめ

永楽居は、天井造りという古民家本来の建築の良さと、老板のお茶のホスピタリティ、この二つが、そのままこの宿の魅力になっている。

桂林・陽朔の賑わいも一度は見る価値があるけれど、同じ広西の山水を、もっと静かに、生活の温度ごと味わいたいなら黄姚古鎮はかなりおすすめだ。そして古鎮の中に泊まれば、赤い提灯の灯る夜の散策も、観光客が動き出す前の静かな朝も、どちらも自分のものになることだろう。