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米国の新しい祝日「Juneteenth」をラスベガスで体験──ブラックミュージックに誘われて踏み込んだ、黒人解放の記念日

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Las Vegas、AREA 15にて

旅の面白さは、予定していなかった出会いにある。今回ラスベガスで私が味わったのが、まさにそれだった。

きっかけは、ある空間から漏れ聞こえてきた音楽だ。Soul Funk──いわゆる Black Music が、私は昔からかなり好きだ。その心地よいグルーヴに引き寄せられるように、私は何のイベントかも知らないまま、フラっと会場へ足を踏み入れた。

すると、どうだろう。中にいるのは、見渡す限りアフリカ系アメリカ人の人々ばかり。一瞬「あれ、場違いなところに入ってしまったか?」とたじろいだ。聞いてみると、この日はJuneteenth(ジューンティーンス)という特別な日なのだという。旅先で偶然、その土地の大切な記念日のど真ん中に飛び込んでしまったらしい。

Juneteenth(ジューンティーンス)って、何の日?

Virginia National Guard holds Juneteenth celebration

恥ずかしながら、私もこのとき初めてこの日のことをちゃんと知った。Juneteenthという名前は、June(6月)とNineteenth(19日)をくっつけた造語で、日本語では「奴隷解放記念日」などと訳される。アメリカで奴隷とされていた人々の解放を祝う日で、6月19日に祝われる。

由来を知ると、なかなか考えさせられる。奴隷制に反対だったリンカーン大統領が「奴隷解放宣言」を出したのは、南北戦争のさなかの1863年のこと。ところが戦争の真っ最中だったこともあり、その知らせがアメリカ全土に行き渡るには時間がかかった。最も南西に位置するテキサス州には、リンカーンの宣言から2年以上ものあいだ自由の知らせが届かず、多くの人々が不当に奴隷の身分のまま留め置かれていた。

そして1865年6月19日、北軍のゴードン・グレンジャー将軍がテキサス州ガルベストンに入り、「すべての奴隷は自由である」と現地の人々に通達した。この時テキサスには25万人以上の奴隷とされる人々がいたとされる。この日が、アメリカで奴隷制度が事実上の終わりを迎えた日として記念されるようになった、というわけだ。

会場のあちこちで見かけた「1865」「Free-ish since 1865」というプリントのTシャツは、この年号を指している。何気ないデザインに、歴史が詰まっている。

昔からの祝いの日が、いまや全米の祝日に

面白いのは、Juneteenthが「新しくて古い」祝日だということ。解放された人々が翌年から、教会での礼拝や集会、パーティーといった「ジュビリー」と呼ばれる行事で祝ったのが恒例となり、それがテキサスから南部一帯、やがて全米のアフリカ系アメリカ人コミュニティへと広がっていった。最初に州の祝日に定めたのもテキサス州で、1980年のことだった。

つまり、アフリカ系アメリカ人のあいだでは、100年以上前からずっと祝われてきた日なのだ。それが全米的に一気に知られるようになったのは、ごく最近のこと。2020年のジョージ・フロイド氏の事件と、それを受けて世界に広がったBLM運動が背景にある。そして2021年、バイデン大統領の署名によって、Juneteenthは11番目の連邦祝日となった。新しい連邦祝日の追加は、約30年ぶりのことだった。

長いあいだアフリカ系アメリカ人コミュニティが大切に守ってきた日が、ようやく国全体の記念日になった。そう考えると、この日の祝祭には特別な重みがある。

会場は、まるごと異世界──AREA15

私が迷い込んだのは、ラスベガスで話題の没入型エンタメ施設AREA15で開かれていた「A Celebration of Freedom」という無料イベントだった。

AREA15自体が、そもそも一歩足を踏み入れると異世界だ。ブラックライトに照らされたサイケデリックな空間、光るキノコのオブジェ、天井から吊るされた巨大な発光ツリー。この非日常的な空間そのものが、すでに一見の価値ありだった。そんな場所の一角、「The Portal」と呼ばれるメイン会場が、この日の祝祭の舞台だった。

会場に入ると、壁一面をぐるりと囲む巨大な壁画に圧倒される。ルーツ、誇り、次の世代へ受け継がれていくもの──そういったものを一枚で物語る、アフロフューチャリズム的な力強い壁画だ。この絵に見つめられながら過ごす時間が、なんとも言えず堪らなかった。

会場の一角では、アフリカ系アメリカ人のクリエイターたちが、自作のアート作品やアクセサリー、雑貨などを持ち寄って販売していた。ちょっとしたフリーマーケットのような趣きで、一つひとつひとつ回るのも楽しい。既製品の並ぶ土産物屋とは違って、作り手の顔が見える手作りの品が並んでいるのがいい。こういう場が、地元のクリエイターにとって作品を発表し、収入を得る機会にもなっているのだろう。祝祭であると同時に、コミュニティの経済やカルチャーを支える場にもなっているのが見て取れた。

ダンスクラシックスに、みんなが踊る──夢見た光景がそこに

そして、私を惹きつけたあの音楽だ。この日はDJがブースに立ち、次々と Black Music を流していた。Cheryl Lynn、The Emotions、Maze……いわゆる Dance Classics の名曲が立て続けにかかる。

そして、その音に身を任せて、人々が踊っている。あのグルーヴ、あのステップ。見た瞬間、私は本当に感激してしまった。Soul や Funk、Disco といった音楽のまさにルーツであるこのアメリカで、その文化を生み育ててきた人々が、老若男女問わず音楽に合わせて「黒人のグルーヴ&ステップ」で自由に踊っている。それは、Black Music を愛する私がずっと夢に見てきた光景そのものだったのだ。

私はアラサーで、正直、Disco が本当に熱かった時代をリアルタイムで知っているわけではない。あくまで後追いで、憧れとしてあの時代の音に焦がれてきた世代だ。だからこそ、目の前で繰り広げられる光景は、まるで映像や音源のなかでしか知らなかったあの時代がそのまま蘇ったかのようで、胸が高鳴った。気づけば私も、お酒を片手に、その輪のなかで踊っていた。

正直に言えば、最初は「この空間で唯一のアジア人なんじゃないか」と少し心配だった。でも、それは杞憂だった。パートナーと一緒に来ていた日系アメリカ人の男性と意気投合したりと、決して特定の人たちだけの閉じた集まりではなく、誰にでも開かれた温かいイベントだった。音楽と喜びの前では、肌の色も出自も関係ない。そんな当たり前のことを、身をもって感じられた夜だった。

「Black Historyクイズ」で試される

途中、大画面を使った参加型の「How well do you know Black History Quiz(黒人史クイズ)」が始まった。会場を巻き込んでのクイズ大会だ。

出題されていたのは「アメリカ史上初のアフリカ系アメリカ人大統領は誰?」といった問題。選択肢は Barack Obama、Martin Luther King Jr.、Frederick Douglass、Harriet Tubman。答えはもちろんオバマだが、他の選択肢に並ぶ名前もまた、アフリカ系アメリカ人の歴史における重要人物ばかりだ。ただ楽しむだけでなく、遊びのなかで自然と歴史を学び、次の世代へ受け継いでいく。そういう仕掛けになっているのが素敵だなと思った。よそ者の私にとっても、いい勉強になった。

もっと大規模なお祭りもある

ちなみに、私が偶然入ったAREA15のイベントは比較的こぢんまりした部類で、ラスベガスにはもっと大規模なJuneteenthのお祭りもあるらしい。

たとえばLas Vegas Juneteenth Festival。今年で25周年を迎える大きなフェスティバルで、ダウンタウンのSymphony Parkを会場に、R&Bのレジェンドをヘッドライナーに迎えた本格的なライブや、フードベンダー、地元アーティストのステージなどが並ぶという。もともと一日限りのアートイベントとして始まったものが、いまや毎年数千人を集めるまでに成長したそうだ。こうした大小さまざまなイベントが同時期に街のあちこちで開かれるあたりに、この日がどれだけ大切にされているかが表れている。

まとめ──旅先で「その土地の特別な日」に出会う面白さ

正直に言えば、私は最初、Juneteenthが何の日かもよく分かっていなかった。ただ好きな音楽に誘われて、フラっと入っただけだった。でも実際にその輪のなかで踊り、壁画を眺め、クイズに頭を悩ませているうちに、この日が持つ意味と、それを祝う人々の温かさが、少しだけ体でわかった気がした。

観光名所を巡るのも旅の醍醐味だけれど、こうして「その土地の人たちが大切にしている日」にたまたま居合わせ、その輪の片隅に混ぜてもらう。それもまた、旅でしか得られない豊かな経験だと思う。とりわけ今回は、長年愛してきた Black Music のルーツの地で、その音に合わせて踊るという夢まで叶ってしまった。もしJuneteenthの時期にアメリカを訪れることがあれば、近くで開かれているイベントをのぞいてみてほしい。きっと、ガイドブックには載っていない何かに出会えるはずだ。