東南アジア旅行の楽しみの一つは、その土地ならではの食文化を味わうこと。タイ料理は世界的に有名だが、実はお酒も奥深い。今回は、タイの伝統的な薬草酒「ヤードン」にスポットを当て、老舗ヤードン販売店を訪ね、店主と角打ちを楽しんだ様子をお伝えする。
ヤードンとは
www.instagram.comヤードン(ยาดอง・ヤードーンとも)は、数十種類の動植物を「ラオカオ」と呼ばれる蒸留酒に漬け込んだ、タイの伝統的な薬草酒だ。「ヤー」は薬、「ドン」は漬けるという意味で、その名の通り、薬効があると考えられている。味は店・銘柄によって異なるが、一般的に苦味や甘味、独特の香りが強い。
ちなみに「ヤードム」に少し言葉が似ているが、こちらは全くの別物で、鼻をスース―させるためのノーズミント。こちらもタイで大人気の日用品なので、タイ好きの皆様には既に馴染み深いアイテムだろう。
ヤワラートの老舗酒店へ
薄暗い路地裏、ひしめく屋台と活気に満ちたバンコク随一のチャイナタウン、ヤワラート。その一角にあるのが、今回訪ねた老舗酒店「Lao Ngi Chun Limited Partnership 劉宜春藥酒行两合公司」。店内は薄明かりに包まれ、棚には無数の酒瓶が所狭しと並んでいる。そのどれもが、中国語とタイ語が混ざった奇妙なラベルを纏い、まるで異世界の秘薬を思わせる。
私が興味津々に眺めていることに気付いたのか、店主は陽気な笑顔を浮かべ、カウンター越しに語りかける。「ヤードンを試してみるかい? 度胸試しだよ。」
ヤードンを、いざ味わう。
店主に話を聞くと、これらの酒瓶はそれぞれ効能が異なり、中には精力増強や疲労回復、腰痛改善など、様々な効果を謳うものもあるという。
この店の看板ヤードン「劉宜春」を開けてくれた。目の前のショットグラスにとくとくと注がれる黒いお酒。鼻を近づけると、薬草のような独特な香りが鼻腔を刺激する。奇妙な香りに一瞬たじろいだが、謎酒ハンターとして味わわずにはいられない。テキーラのショットのような要領で、くいっと一気に飲むのが流儀らしい。
意を決して一口でごくり。なるほど、苦味と甘味が複雑に絡み合い、最初は戸惑うような味わい。しかし、その奥底には、どこか懐かしいような、深い味わいがある。薬膳のようなエキゾチックな香りが、意外と悪くない。いつぞやの旅で出会った台湾の維士比よりも飲みやすく感じる。クセになってきそうだ。
気付けば空になったグラスに、再び並々と黒い酒が注がれていた。店主もグラスを片手に乾杯を促す。「ヤードンは、タイの人々の魂の酒だ。二口飲めば、この街の息吹を感じられるだろう。」
陽気な店主とヤードンを酌み交わしながら、タイの文化や歴史について語り合う。ヤードンは、単なる酒ではない。それは、ヤワラートの人々の暮らしに深く根付いた文化であり、古くから中国との文化的交流を大切にしてきたタイならではの伝統であり、魂そのものだ。
聞けば、国内外に熱烈なファンが少なからず居るらしい。再開発の進むヤワラートの中でも、変わらず営業を続ける「Lao Ngi Chun Limited Partnership 劉宜春藥酒行两合公司(หจก. เล่างี่ชุน)」。その長寿の秘訣は、絶えることのない人気か、それともヤードンの薬効によるものだろうか。その歴史と伝統を受け継ぎ、これからも多くの人々に愛され続けるだろう。
いかがだっただろうか
今回は、タイの伝統的な薬草酒「ヤードン」について綴ってきた。独特な味わいと効能を持つヤードンは、タイ旅行の思い出に文字通りスパイスを加えてくれる。その独特な味わいは、決して忘れられないだろう。
\この記事が気に入ったら是非クリックで応援してください!/