前回の記事では、ヒヴァを拠点にカラカルパクスタンの古代遺跡を半日で巡るルートの概要と、出発までの道のりを書いた。ウルゲンチ空港への移動をどうせするなら、その足で遺跡に寄ってしまえばいい——そういう発想で始まったこの旅の、いよいよ本編だ。
最初の目的地はアヤズカラ。カラカルパクスタンの砂漠に点在する城塞群の中でも、もっとも知名度が高く、もっとも訪れやすく、そしてもっとも絵になる場所だ。
アヤズカラとは何か
アヤズカラは、ひとつの城塞の名前ではない。スルタン・ウイズ・ダグ山脈の東端に沿って点在する、3つの城塞の総称だ。それぞれアヤズカラ1、2、3と呼ばれており、建設年代も規模も用途も異なる。

もっとも規模が大きく保存状態がいいのがアヤズカラ1だ。紀元前4世紀に建設が始まったとされ、広さは2.7ヘクタール、城壁の高さは10メートルに達する。長方形の平面を持ち、弓兵のための2層の回廊と矢狭間が壁に沿って設けられている。主に防衛軍隊の駐屯所として機能していたと考えられており、中世初期には地元の人々の避難場所としても使われていたようだ。
アヤズカラ2は丘の下に位置し、7世紀後半から8世紀初頭にかけての中世の城塞だ。険しい斜面によって西の平原に開かれた居住地につながっており、内部にはアジアでもっとも美しい宮殿のひとつと評された建物があったとされる。
アヤズカラ3はアヤズカラ1・2の前の開かれた平原に位置する、平行四辺形の形をした城塞で、面積は5ヘクタール。城壁の年代は紀元後1〜2世紀まで遡る。
3つをすべて歩いて回ることも不可能ではないが、相応の時間と体力が必要だ。今回は強行半日旅なので、メインのアヤズカラ1に絞って散策することにした。
アヤズカラに到着

ヒヴァを8時に出て、アムダリア川を渡り、砂漠の一本道を走り続けること1時間半ほど。車窓の景色がだんだんと荒涼としてくる中、前方の丘の上に城塞の輪郭が見えてきた。
朝早い時間帯のおかげで、観光客はほとんどいなかった。完全な独占状態だ。

車を停めたのは、アヤズカラのすぐ麓に位置するAyaz Kala Yurt Campの前だ。砂漠の真ん中に白いユルトが点在するこのキャンプ場は宿泊施設として機能しており、ここを拠点にアヤズカラを訪れる旅行者も多い。夜は星が驚くほど綺麗だと聞く。砂漠の闇の中、天蓋を覆い尽くすような星空の下でユルトに泊まるというのは、それだけで旅の目的になり得る体験だろう(Ayaz Kala Yurt Campを宿泊予約する場合は下記リンクより↓)。
昼食だけの利用もできるらしいのだが、今回は立ち寄らなかった。到着が早すぎたこともあったし、お父さんが「もっとおすすめの店がある」と言っていたので、食事は後回しにすることにした。

ユルトキャンプの周辺に、フタコブラクダが数頭いた。撮影用なのか乗駝体験用なのかはよくわからないが、赤い刺繍の布をまとったラクダが砂の上にどかりと座り、こちらの様子をじっと見つめてくる。目が合う。動じない。なかなかの存在感だ。

アヤズカラ1を背景にラクダが佇む構図は、ここが中央アジアの砂漠であることをあらためて実感させてくれる。
砂漠を歩いてアヤズカラ1へ

ユルトキャンプから、アヤズカラ1へは徒歩で向かう。砂の上を歩き始めてすぐ、ふと気づいた。ウズベキスタンに来てから、これほどまでに砂砂漠らしい場所を歩くのは初めてだ。サマルカンドもブハラもヒヴァも、乾いてはいるが街は街だ。

足元に広がる細かい砂、風紋、乾いた空気。砂丘の表面には小さな動物の足跡が点々と残っていて、ここにも生き物がいることがわかる。

丘に近づくにつれて、地面は砂から岩混じりの急斜面に変わる。城塞は丘の頂上に張りつくように立っており、下から見上げると思ったより高い。日干しレンガの壁が青空に対してくっきりとシルエットを描いている。

内部へ

城壁の内側に入ると、まず目に入るのはアーチ型の通路だ。風化した日干しレンガが丸くくり抜かれ、その先に砂漠の地平が見える。柵も案内板もない。ただそこにある。


城壁に沿って歩くと、かつて回廊だった空間の痕跡が読み取れる。両側を壁に挟まれた細い通路、等間隔に空いた矢狭間——ここを弓兵が行き来していた、という事実がじわじわと迫ってくる。

内部には広い空間があり、遺構の上を自由に歩き回ることができる。時間が経つに従い観光客が増えてきたが、広さがあるので人との距離感が保たれ、静けさの中で遺跡と向き合える。

アヤズカラ2を見下ろす

城壁の縁から少し視線を落とすと、丘の下にもうひとつの城塞の輪郭が見えた。アヤズカラ2だ。四角い城壁が丘の頂部にぴたりと収まっている。アヤズカラ1の高台から見下ろすこの眺めが、このカラ巡り全体の中でもっとも象徴的な景色だったと思う。砂漠の中に、ひとつの丘がある。その上にかつての城塞がある。それだけの光景なのに、妙に目が離せない。

時間と体力に余裕があれば、そのままアヤズカラ2へ、さらにマイナーなアヤズカラ3へと歩いて向かうこともできる。しかし今回は強行半日旅だ。すべてを回ることよりも、この場所の空気をゆっくり吸うことを優先した。

城壁の縁に腰を下ろし、砂漠をしばらく眺めた。風が吹いていた。
気が済むまでアヤズカラ1を散策し、1時間弱ほど過ごしただろうか。名残惜しさを感じながら丘を下り、車に乗り込んだ。次の目的地、トプラクカラへ向かう。
次回:トプラクカラ&キジルカラ編
次に向かったのは、クシャーナ朝の首都が置かれたとされる遺跡、トプラクカラだ。アヤズカラとは規模も雰囲気もまったく異なる、平地に広がる宮殿都市の跡。続きは次回の記事で書いていく。