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【体験記】ロンドンで年越しカウントダウンが如何に過酷かを思い知った冬

「年越しカウントダウンは海外のお洒落な町で花火を見ながら過ごしたい」—誰もが一度は抱く、そんな憧れ。しかし、その実態は想像以上に過酷なものかもしれない。今回は、ロンドンでの年越しカウントダウンで体験した、予想外の寒さと、仲間との思い出に残る時間の様子を綴っていく。

寒冷地出身の仲間たち

ロンドンで年を越すことになったその年、現地の友人と共に都心部へカウントダウン花火を見に行くことにした。一緒に行くことになったのは、中国遼寧省出身のワンと、韓国ソウル出身のジン。二人とも寒冷地の出身ということで、極寒のロンドンで花火を見るのもやぶさかではないとのことだった。

暑がりかつ寒がりな自分としては、この二人に比べて貧弱なのではないかと不安がよぎった。しかし「お酒で体の中から暖まればなんとかなるだろう」という楽観的な考えで、この冒険に挑むことにしたのだった。

ロンドン年越し事情

ロンドンの年越しカウントダウン花火は、テムズ川でうち上がる。一般的にはLondon Eye周辺の岸や橋からの眺めが最高だと言われているのだが、これが曲者だった。絶景ポイントは全て高額のチケット保有者専用エリアとなっているのだ。

年越し時の都心部の厳戒態勢はただごとではない

夜8時頃になると頑丈なバリケードが張られ、チケットを持っていない人は一切通行できなくなる。私たちはコスパ重視でチケットなしプランを選択。その代わり、なるべく良い場所を確保しようと、早めの行動を心がけた。「基本的にLondon Eyeが見える場所なら花火は良く見える」という通説を信じて。

極寒の待機戦

早めの夕食を済ませ、夜9時頃にウェストミンスター大聖堂の近くまでたどり着いた。さすがに年越し3時間前の到着だったが、既に相当な人出でごった返していた。それでもなんとかバリケードのほぼ最前線のポジションは確保することができた。

しかし、ここからが本当の地獄の始まりだった。

この日はよりによって特に寒く、気温は0度近くまで下がっていた。何もすることなく、ただただ3時間を待つ時間が、徐々に体温を奪っていく。2時間を超えたあたりで次第にジンの顔色が悪くなり、ついに弱音を吐き始めた。「思ったより寒いし、本当にここから花火がちゃんと見られるのか分からない。もう帰ろう」と。

しかし、ワンと私は「何を言ってるんだ、せっかくここまで待ったんだから、もう少し頑張ろう!」と説得。一番軽装なのにも関わらず、さすがは極寒の遼寧省出身、ワンはまるでロンドンの寒さなど全く堪えていない様子だった。自分の体質はどちらかというとジン寄りだったので、彼女の気持ちも分からなくはなかった。それでも、せっかくだから三人で思い出に残る年越しを迎えたい—その一心でなんとか12時まで待つことにした。

カウントダウン:50万人の熱狂

そしていよいよ12時が近づく。その場にいた群衆が自然発生的にカウントダウンを始めた。みんなして「10、9、8...」と数を刻んでいき、テンションはどんどん上がっていく。そして0の瞬間、知らない人同士が肩を組み合い「Happy new year!」と叫び合った。

ほどなくしてLondon Eyeの方から花火が打ち上がり始める。一発、二発と続けてどんどんと打ち上がる花火。思えば私にとってはロンドンで見る初めての花火かもしれない。人の頭とバリケードで少し見づらかったものの、50万人もの人が集うと言われる年越しのロンドン都心部でこれだけはっきり花火を見られたのだから、上出来だろう。

そんなことを考えているうちに、花火は正味10分ほどで終わってしまった。「え、意外と小規模?」という感想は、おそらく花火大国・日本で目が肥えてしまっていたせいだろうか。

三者三様の感想

ちなみに会場の横では、年越し仕様でQueen Elizabeth II Centreが地味に七色に光っていた

振り返ると、そこには満足そうなワンと、不満足そうなジンの対照的な表情があった。ジンにとってはこんなに寒くて辛い思いをしたのに、花火が思ったより小規模で拍子抜け。「この苦労は何だったんだ」と、疲れがどっと出た様子だった。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、ケロッとしているワンを見ていると、何とも面白おかしい気分になってきた。

花火が終わるや否や、数十万人の人々が一斉に退散を始めた。やっと通れるようになったバリケードを抜けてビッグベンの方にたどり着くと、そこには珍しい光景が広がっていた。ビッグベンの時計の文字盤が青く輝いているのだ。きっと、この日限定の特別な演出なのだろう。文字盤どころではなく険しい表情でうつむいているジンを横目に、彼女に辛い思いをさせてしまったという少しばかりの罪悪感を抱えながらも、3人でこの青いビッグベンを眺めることができたことを密かに嬉しく思った。

エピローグ:時を経て

今思い返すと、なかなか辛く不毛な時間だったかもしれない。実際、ロンドンの年越しは思ったほど演出が凝っているわけでもなく、正直なところそれほど面白いものでもなかった(もっとも、2024年現在はバージョンアップしているのかもしれないが)。

しかし、あれから数年が経った今でも、この体験は鮮明に記憶に残っている。極寒の中で3時間も耐え忍んだ待機時間。寒さへの耐性が全く違う三人の温度差。最後に見上げた青く輝くビッグベン。きっと年越しカウントダウンの醍醐味は、花火の規模や演出の素晴らしさだけではないのだ。

誰かと共に時を刻み、新しい年の始まりを迎える—。そんな特別な瞬間を、友人達や見知らぬ他人と肩を組んで祝える空気感こそが、海外での年越しならではの魅力なのかもしれない。

ただし、防寒対策だけは本当に万全にしていくことを、これから行く人には強くお勧めしたい。