ペルセポリスでの体験を終えた後、車で15分ほどの場所にあるナクシェ・ロスタム(Naqsh-e Rustam)を訪れました。ペルセポリスとセットで回ることの多いこの遺跡ですが、実際に行く価値はあるのでしょうか?今回は率直な感想とともに、この古代ペルシャ王の墓所についてレポートします。
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ナクシェ・ロスタムとは

ナクシェ・ロスタムは「ロスタムの絵」という意味で、イランの英雄叙事詩に登場する伝説的な英雄ロスタムの名前に由来しています。ここには4基のアケメネス朝ペルシャ王の岩窟墓が垂直な岩壁に彫られており、その中の一つはダレイオス1世の墓であることが確認されています。残りの3基は、クセルクセス1世、アルタクセルクセス1世、ダレイオス2世のものと考えられています。
岩窟墓の下部には、後の時代のササン朝ペルシャ(3~7世紀)による大規模なレリーフも刻まれており、異なる時代のペルシャ芸術を一度に見ることができる貴重な場所でもあります。
アクセスと第一印象

ペルセポリスから車で約15分、道のりは平坦で分かりやすく、アクセスに問題はありません。私の運転手さんも「すぐ近くだからペルセポリスと一緒に見て回るのが定番だ」という感じで、自然な流れで向かいました。

到着すると、ペルセポリスとは全く異なる景観が広がります。平地に建つ壮大な宮殿群とは対照的に、ここは切り立った岩壁に彫り込まれた墓所群です。遠くから見ると、岩壁に十字架のような形の窪みが4つ並んでいるのが確認できます。

岩窟墓の詳細
4基の岩窟墓は、どれも十字架型に岩壁を掘り込んで作られています。墓の入口は地上から約15メートルの高さにあり、古代には特別な装置を使って遺体を運び上げたと考えられています。各墓の上部には、王が火壇の前で祈りを捧げる場面や、各属州の代表者が玉座を支える場面が彫られています。

ダレイオス1世の墓には銘文があり、「私はダレイオス、偉大なる王、王の中の王、諸国の王、ヒュスタスペスの子」という旨の文言が刻まれているのだとか。この銘文により、唯一身元が確定している墓となっているそうです。
墓の内部構造は見えませんが、各王の石棺が安置されていたと考えられています。しかし、アレクサンドロス大王の征服後に盗掘され、現在は空になっているそうです。

ゾロアスターの塔(Tower of Zarathustra)
ナクシェ・ロスタムで個人的に最も印象に残ったのは、実は「ゾロアスターの塔」(Tower of Zarathustra)でした。これは岩窟墓の正面に立つ謎めいた石造建造物で、正方形の基壇の上に立方体が乗った独特の形をしています。

この建造物の正確な用途については諸説あり、ゾロアスター教の火神殿だったという説、王室の宝物庫だったという説、あるいは何らかの宗教的儀式に使われた建物だったという説などがあります。内部は空洞になっており、小さな窓のような開口部がいくつか設けられています。

アケメネス朝時代の建造物とされていますが、その簡素で幾何学的なデザインは、周囲の華麗な岩窟墓やレリーフとは対照的です。まさに立方体という名前の通り、非常にシンプルながら存在感のある建造物で、古代ペルシャ建築の多様性を示す興味深い例だと感じました。その謎めいた用途と独特のフォルムが、非常に印象に残りました。
ササン朝のレリーフ

岩窟墓の下部には、後の時代(3~7世紀)のササン朝ペルシャによる大規模なレリーフが彫られています。これらは主に王の戴冠式や戦勝を記念したもので、アケメネス朝とは異なる芸術様式を見ることができます。

特に印象的なのは、ササン朝の王シャープール1世がローマ皇帝ヴァレリアヌスを捕虜にした場面を描いたとされるレリーフです。馬上の王の前にひざまずくローマ皇帝の姿は、当時のペルシャの軍事的優位を物語る貴重な史料です。
ただし、保存状態はそれほど良くなく、細部の判別は困難な部分も多いです。また、一部の遺跡は修復作業の真っただ中でした。
行く価値はあるのか?
結論から言うと、ペルセポリスとセットで訪れるなら「行っておいて良い」程度の価値はあります。車で15分という近さを考えれば、わざわざ別の日に来る必要もありませんし、ペルシャ史を理解する上で補完的な意味もあります。
ただし、ペルセポリスと比べると見どころの規模や密度は格段に劣ります。ペルセポリスが「圧倒的な感動」だとすれば、ナクシェ・ロスタムは「興味深い歴史的な補足」といった位置づけでしょう。単体で遠路はるばる訪れるほどの魅力があるかと聞かれれば、正直なところ疑問です。
実際の見学時間について言えば、私は30分も使わなかったと思います。ペルセポリスで3時間以上かけてじっくり回ったのとは対照的に、ここは非常にコンパクトです。
また、ナクシェ・ロスタムの観光インフラは最小限です。入口に小さなチケット売り場があるだけで、トイレや売店なども限られています。また、日陰がほとんどないため、夏場の訪問は要注意です。私が訪れた時は曇り空でしたが、それでも岩壁からの照り返しを感じました。帽子や水分は必須でしょう。
もっとも、歴史的意義は決して軽視できません。ナクシェ・ロスタムは、アケメネス朝ペルシャ帝国の王たちが永遠の眠りについた聖地であり、ペルシャ人にとっては特別な意味を持つ場所です。
また、同じ場所に異なる時代(アケメネス朝とササン朝)の遺構が共存していることも興味深く、ペルシャ文明の連続性を感じることができます。そして、ゾロアスター教の沈黙の塔という、また別の時代の宗教的遺構も併存しており、この地がいかに長い間聖地として機能してきたかを物語っています。
まとめ:コンパクトな訪問
ナクシェ・ロスタムは、ペルセポリス訪問の「おまけ」として考えるのが適切でしょう。15分という近さと30分という短い見学時間を考えれば、セットで回らない理由はありません。
ただし、ペルセポリスのような圧倒的な感動や、長時間楽しめるコンテンツを期待すると肩透かしを食うかもしれません。古代ペルシャ王の墓所という歴史的意義を理解し、コンパクトな見学を楽しむ程度の心構えで訪れるのがベストです。
私としては、ペルセポリスで十分に感動した後の「静かな余韻」として、ナクシェ・ロスタムでの短い時間を過ごせたことに満足しています。異なる時代のペルシャ文明に思いを馳せる、貴重な30分でした。
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