前回の記事では、レンタカーでの聖カタリナへのアクセスと現地でのガイド調達について検証しました。そして午前3時、ついにシナイ山登山がスタート。今回は登山中の様子と、登山を通して明らかになったネット情報の嘘や誤解について詳しく紹介します。実際に足を運んでみなければ分からない現実がそこにはありました。
時間との勝負:本当に御来光に間に合うのか?
登山を開始したのは午前3時ちょうど。この日の御来光はほぼ6時ジャストと予想されており、3時間しかありません。ネット情報によると、登山には2時間半~3時間半ほどかかると書いてあるため、時間的にはギリギリです。この点についても登山をしながら検証してみることにしました。
星空に包まれた静寂な砂漠の夜。懐中電灯の光だけが足元を照らす中、いよいよ神秘的な夜間登山の始まりです。しかし、時計を見る度に迫りくる日の出時刻が気になります。果たして間に合うのでしょうか?
ベドウィンガイドとともに
今回ガイドをしてくれるのは、聖カタリナ生まれ育ちのベドウィン、マフムドさん。この山を知り尽くした地元のエキスパートです。流暢な英語で「Welcome to our holy mountain」と迎えてくれました。
登山にあたり、事前調査ではラクダ道と階段道の2つのルートがあると聞いていました。ラクダ道は距離は長いものの比較的緩やかで、階段道は急峻だが最短ルートとされています。しかし、マフムドさんは何も説明せず、なだらかなラクダ道の方に歩みを進めていきました。
我々としても、地獄の階段道を真夜中に登っていきたくなかったので特に異論はありませんでしたが、ちょっと気になったので聞いてみました。「道って2つあるんじゃなかったっけ?」
驚愕の事実:階段道は6年前から閉鎖
すると、マフムドさんは振り返って驚くべきことを教えてくれました。
「階段道?あれは6年前から閉鎖されているよ。今はラクダ道しか使えない」
え!どれだけネット上の情報は信憑性が低いんだ!私が参考にしていた旅行サイトや登山ブログには、つい最近まで「2つのルートから選択可能」と書いてありました。
詳しく聞いてみると、6年前にたった一人、ドイツ人観光客が階段道で危険行為を行い、その結果落下して死亡してしまったとのこと。たった一人の死者が出ただけですが、エジプト政府は即座に階段道を封鎖したそうです。観光客の安全を最優先に考えた措置でしょうが、少しオーバーな気もします。ただし、観光収入で成り立っている国からすると、リスクを徹底的に排除したくなる気持ちもわからなくはありません。
この瞬間、ネット上の登山情報がいかに更新されていないか、そして現地でしか得られない情報の重要性を痛感しました。
天の川に向かって歩く感動
歩みを進めていくと、だんだん麓町の街の光が遠くなってきます。それを背後に、山の上の方を振り返ると、満天の星空、それもくっきりとした天の川が天を包んでいました。まさに、天の川に向かって歩いて行くような感覚に心を奪われます。
日本国内だと、いくら綺麗な場所でも、町の光が少しでも見えていると天の川なんてまともに見えないはず。聖カタリナの光がまだかすかに見えるにもかかわらず天の川がくっきりと見えるのは、この場所があまりにも乾燥し、そして大気が澄んでいることの証でしょう。砂漠の夜空の美しさは、都市部では決して体験できない神秘的な世界でした。
足を止めて見上げる星空は、まるでプラネタリウムのドームを裏返しにしたような迫力。モーセがこの山で神と対話したという伝説が、なぜか現実味を帯びて感じられます。
ラクダを連れたベドウィンとの出会い
途中、ラクダを連れたベドウィンと何度もすれ違います。彼らは暗闇の中でも慣れた足取りで、「ラクダに乗って山頂近くまで行くこともできるよ」と気軽に誘ってきます。確かにラクダが歩けるからこそ「ラクダ道」と呼ばれているのです。
しかし、この登山道中こそが登山の醍醐味。わざわざ金を払って楽をするのは不本意です。それに、星空の下を自分の足で踏みしめて歩くからこそ、この聖なる山への畏敬の念も深まるというもの。丁重にお断りして、自分たちの足で歩き続けました。
ただし、体力に自信のない方や時間に余裕のない方にとっては、ラクダは非常に魅力的な選択肢だと思います。料金は交渉次第ですが、10~20ドル程度が相場のようでした。
ガイドが必須な本当の理由
ところで、シナイ山でガイドが必須となっている理由についても、登山を進める中で徐々に理解できてきました。ラクダ道は、特に暗闇の中では、どこに道があるのか本当に分からないのです。
整備されている場所もありますが、ただの岩山のようになっている場所も多く、夜道を知らない観光客だけで歩くと確実に遭難してしまいそうです。もともとは聖域だから登山客が変な行動を取らないようにガイドが目を光らせているのかと思っていましたが、どうやらこれも観光客保護の観点が強いようです。
ヘッドライトの明かりを頼りに、ラクダの糞と瓦礫をよけながら必死に足元を確認して登山する我々を背に、明かりなしで慣れた足取りですいすい登っていくマフムドさんの後姿を見て、そう確信しました。彼の足取りはまるで昼間のように確実で、この山の主のような存在感がありました。
道中、マフムドさんは「あの泉はエリヤの泉」など、聖書にまつわる伝説を教えてくれます。ガイドは単なる道案内ではなく、この聖なる山の歴史と文化を伝える語り部でもあるのです。
また、登山中に何度か「大丈夫?疲れていない?」と気遣ってくれるマフムドさん。夜間登山での安全管理の重要性を、身をもって感じることができました(もしかしたら、我々以上にマフムドさんが深夜労働で疲れていたのかもしれませんが)。
まとめ:次回は山頂での感動体験を
今回の登山を通して、ネット上の情報がいかに実態とかけ離れているかがよく分かりました。階段道の閉鎖然り、ガイドの必要性然り。現地でしか得られない生の情報の価値を改めて実感しています。
時間的にも、思っていたより順調に登山は進んでおり、御来光に間に合いそうな気配です。マフムドさんのペース配分も絶妙で、休憩を挟みながら着実に高度を上げています。
次回の続編では、山頂での感動的な御来光体験、そして道中に発見したトイレ・休憩所・売店事情について詳しくレポートします。モーセが神から十戒を授かった聖なる山頂で、私たちはどんな感動と発見に出会うのでしょうか?
聖なる山の頂上での神秘的な体験談を、お楽しみに!
本記事は、登山YouTubeチャンネル「Sweet Climber」さんとの共同取材で作成しています。現地の様子をより詳しく知りたい方は、下記動画を合わせてご覧ください。
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