観光地化されていない「本物」のクサールを求めて

スター・ウォーズのロケ地として有名なタタウィン周辺のクサール。Ksar HadadaやSidi Drissなど、有名なロケ地は確かに素晴らしいのですが、観光客が多かったり、過剰なスター・ウォーズ装飾がしてあったりして、ちょっと作り物感を感じることもあります。
「もっと手付かずの、ありのままのクサールを見てみたい」
そんな思いで、今回はレンタカーを駆って、誰も訪れない完全手付かずのクサールを探し当てることに成功しました。そんな秘境のクサール「Ksar Mrabtine」への訪問レポートをお届けします。
Ksar Mrabtineとは:700年以上の歴史を持つ要塞

Ksar Mrabtineは、推定700〜800年の歴史を持つ古代のクサールで、丘の頂上には12世紀まで遡る可能性のある城塞があります。穀物倉庫としてだけでなく、侵略時の避難所としても機能していました。
その独特な建築は、楕円形の形状と、4階建てに積み重ねられた160のゴルファ(貯蔵室)が特徴で、石灰岩の板の上に建てられており、その板自体が下層にある数十のオリーブオイル圧搾所の屋根としても機能しているのだとか。建物の一部は1800年頃に建てられた比較的新しい部分もあり、2008年にはチュニジア国立遺産研究所の主導で修復が行われました。
2020年1月10日、チュニジア政府はこのクサールをユネスコ世界遺産リストへの登録候補として提案しました。それほどまでに歴史的・建築的価値の高い場所なのです。
クサールと城塞の間には、よく手入れされたモスクや、西斜面の麓にあるシディ・アブダッラー・ドゥイブの霊廟(ザウィア)、丘の東斜面には廃墟となった洞窟住居、南には今も村人たちが使用している墓地があります。まさに、何世紀にもわたるベルベル人の生活の痕跡が色濃く残る場所です。
アクセスは完全に冒険モード

Ksar Mrabtineは、Ghoumrassen(ゴムラッセン)から車で向かいます。バスなどで行く手段はもちろん一切ありません。レンタカーがなければ、まず辿り着けない場所です。
車を走らせること約20分。ちょっとした集落を抜け、これ以上車で進めない場所に到着しました。ちょっとしたモスクなのか、村の集会所なのか、駐車場とともに男女それぞれ用の建物があり、そこで村のベルベル人たちが話し込んでいました。
駐車場に車を停めて、ここからは徒歩で行くしかなさそう。見上げると、遠くに何やら要塞のようなものが見えます。ベルベルのおじさんに尋ねると、「歩いていけるよ」とのこと。どれくらいかかるかわからないが、その要塞を目指して歩き始めました。
灼熱の岩石山を30分トレッキング

約30分ほど、路なき山道を歩きます。とはいえ、木などは生えていない完全な岩石山。容赦ない日差しが頭上から、そして岩の照り返しが足元から襲ってきます。
汗が滝のように流れ、そしてその汗も一瞬で蒸発していく感覚。呼吸をするたびに熱風が喉を焼くような感覚です。麓でおじさんが「帽子が必須だよ」と教えてくれましたが、まさにその通り。日傘を一応持ってきていて本当に良かったです。これがなければ、おそらく途中で引き返していたでしょう。

足元は不安定な岩だらけで、一歩一歩慎重に進まなければなりません。靴底越しに伝わる熱さ、目の前に続く果てしない岩の道。「本当にこの道はクサールに通じるのだろうか」と何度も不安がよぎります。
チュニジアの夏の日差しは想像以上に強烈で、水分補給も欠かせません。ペットボトルの水もすぐにぬるくなり、それでも必死に飲み干します。ここで体調を崩したら大変なことになるので、無理は禁物です。
要塞到着!しかし入口が見つからない

そしていよいよ、目の前にKsar Mrabtineの巨大な姿が現れました。汗だくになりながら辿り着いた達成感も束の間、新たな問題が発生します。

その要塞クサールは、まるで砦のようにぐるっと周囲を高い壁に囲まれており、どこから入ればいいのか全く分かりません。焦る気持ちを抑えながら、要塞の周りをぐるぐると回ります。せっかくここまで来たのに、入れないなんてことはないだろうかという不安が頭をよぎります。

途中、洞窟に掘られた横穴のようなものを発見しました。恐る恐る中に入ってみると、心なしか涼しく感じます。外の灼熱地獄から解放され、ひんやりとした石の冷たさが肌に心地よい。ここは住居や作業スペースだったのでしょうか。この涼しさに、思わずここに住み着きたいと思ってしまうほどでした。
額から流れる汗を拭いながら、さらに探索を続けます。
ついに入口発見!圧巻の内部空間に息を呑む

そして、歩いてきたのと反対側、要塞の裏手に回ったところで、ついに入口を発見しました。思わず声が出てしまいます。この入口からしかクサール内には入れないわけです。さすが外敵から身を守るために建てられた建築。外部からの侵入者を寄せ付けない、実に巧妙な設計になっているのです。
いかがでしたでしょうか?
今回は、秘境クサールKsar Mrabtineへのアクセスの様子をレポートしてきました。後編では、実際の中の様子について詳しく紹介してまいります。