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【原因考察】ANAグループ「AirJapan(エアジャパン)」2026年3月で運航終了へ - わずか2年で幕を閉じる第3ブランドの敗因を分析

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2025年10月30日、衝撃的なニュースが飛び込んできました。2024年2月に華々しくデビューしたばかりの新エアラインブランド「AirJapan」が、2026年3月28日をもって運航を終了するとのことです。運航期間はわずか2年1カ月と20日という短命に終わることになります。

当ブログでは2024年6月にANAマイルを使ったAirJapanブランドのフライトバウチャー交換制度について分析し、「フルサービスキャリア便を使用する層にとっては、通常通りマイル航空券を発券する方が圧倒的にお得」と結論づけていました。わずか1年余りで迎えた今回の運航終了決定。その背景には何があったのか、詳しく見ていきましょう。

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AirJapanとは:わずか3機3路線の小規模運航

All Nippon Airways Boeing 787-9 JA923A

まず、AirJapanがどのようなブランドだったのかを簡単におさらいしておきましょう。AirJapanは、ANAグループが2024年2月に立ち上げた第3のブランドで、ANAホールディングスの100%子会社であるエアージャパンが運航を担当していました。「ハイブリッドエアライン」というコンセプトのもと、フルサービスキャリアのANAと格安航空会社(LCC)のPeachの中間に位置するブランドとして登場しました。

運航していたのは、ボーイング787-8型機をわずか3機のみ。これらの機材は1クラス324席仕様に改修され、成田空港を拠点として以下の3路線で運航されていました。

アジアからのインバウンド旅行者をメインターゲットとし、段階的に機材と路線を増やしていく計画でしたが、その計画が実現することはありませんでした。

今回の発表内容:2026年3月で運航終了

ANAホールディングスの発表によれば、AirJapan便は2026年3月28日の冬ダイヤ最終日をもって運航を休止するとのことです。これにより、ANAグループはこれまでのANAPeach、AirJapanという「マルチブランド戦略」から、ANAPeachの「デュアルブランド戦略」へと方針転換することになります。

なお、エアージャパンという会社自体は存続し、今後は従来通りANA便の国際線運航を担当することになるようです。つまり、消えるのはあくまで「AirJapan」というブランドであり、会社や従業員の雇用は守られる見通しです。

公式発表された運航終了の理由

ANAホールディングスが挙げた運航終了の主な理由は、外部環境の悪化と機材不足です。

まず、ロシア上空の通過回避が長期化したことで、欧州路線の飛行時間が約3割増加し、機材やパイロット、客室乗務員の必要数が高止まりしている状況が続いています。もっとも、AirJapanには欧州路線はないため、これは直接的な影響というよりも、ANAグループ全体に影響を与えている課題と言えますが。

さらに深刻だったのが、ボーイング787型機の問題です。新造機の納入が大幅に遅れているだけでなく、既存機のエンジン不具合による改修も重なり、運航可能な機材が不足している状況とのことです。

そして最も重要なポイントが、事業規模の問題でした。「安定的な運営には4機、5機と増やし、固定費を薄める必要があるが、3機目までは工面できても4機、5機は難しい」という状況が明らかにされました。わずか3機体制では航空会社として固定費を十分に分散できず、採算性を確保することが困難だったようです。

個人的に感じた課題:ポジショニングの難しさ

ここからは、あくまで一旅行者としての個人的な見解であることを前置きした上で、AirJapanが直面していた課題について考えてみたいと思います。

公式発表では外部環境や機材不足が理由として挙げられていますが、それだけでは説明しきれない部分もあるように感じています。それは、ブランドとしてのポジショニングの難しさです。

AirJapanは「ハイブリッドエアライン」として、フルサービスキャリアと格安航空会社の中間を狙ったブランドでした。このコンセプト自体は興味深いものでしたが、実際の市場では明確な立ち位置を示すのが難しかったのかもしれません。

価格面では、PeachなどのLCCと比較すると若干高めの設定でした。一方で、私自身は搭乗したことがないため実際の機内サービスの質については評価できませんが、少なくとも外から見ている限りでは、ANAのようなフルサービスキャリアと同等の付加価値があるようには感じられないブランディングマーケティング戦略だったように思います。

当ブログで以前分析したフライトバウチャー制度も、その一例です。1マイルあたりの価値が最大1.1円程度となり、ANA特典航空券(エコノミーで1.5〜2円、ビジネスで3円以上)と比較すると、マイルを重視する旅行者にとっては魅力的な選択肢とは映りにくかったのではないでしょうか。

また、運航路線がバンコク、ソウル、シンガポールのアジア3都市のみで、拠点が成田空港だったことも、利便性の面で課題があったように感じます。特に首都圏在住者にとっては、羽田空港発着の方が利便性が高いケースも多いのではないでしょうか。訪日客をメインターゲットとしていたものの、日本人旅行者の需要も十分に取り込めなかったことが、事業規模拡大の障壁になった可能性があります。

競合との比較で言えば、JALグループのZIPAIRが北米路線に進出し長距離LCCとして独自のポジションを確立しているのに対し、AirJapanはアジア近距離路線のみで展開していたという違いもあります。もちろん、これは戦略の違いであり、どちらが正解というわけではありませんが、結果的に差別化が難しかった可能性はあるかもしれません。

私自身の利用経験から感じたこと

私自身、年に数十本の国際線に搭乗しますが、結果的に一度もAirJapan便を利用する機会がありませんでした。これは意図的に避けたわけではなく、旅行の計画を立てる際に、価格重視ならLCC、マイル修行や快適性重視ならANAというように、自然と他の選択肢を選んでいたという形です。成田発という点も、個人的には羽田発を優先することが多いため、選択肢に入りにくかったという事情もあります。

もちろん、これはあくまで個人的な旅行スタイルの話であり、AirJapanが合う旅行者の方も当然いらっしゃったと思います。ただ、私のような選択をした旅行者が一定数いたとすれば、それが事業規模の拡大を難しくした一因になった可能性はあるのかもしれません。

航空業界におけるポジショニングの重要性

AirJapanの運航終了は、公式には機材不足や外部環境の悪化が理由とされています。確かにこれらは大きな要因だったと思いますが、同時に、競争の激しい航空業界において明確なポジショニングを確立することの難しさも示しているように感じます。

ANAグループが今後、リソースを「ANA」と「Peach」の2ブランドに集中させる判断は、それぞれのブランドの強みをより明確にするという意味で合理的な選択のように思えます。中途半端なポジションのブランドに経営資源を分散させるよりも、確立されたブランドに集中投資する方が、グループ全体の競争力強化につながるでしょう。

わずか2年という期間でしたが、AirJapanの挑戦は、航空業界におけるブランド戦略の難しさを示す貴重な事例として記憶されることでしょう。当ブログでは、引き続きANAグループの動向やマイル活用術について情報を発信していきます。AirJapan便をご利用予定だった皆様は、早めに代替便の検討をお勧めします。